ソニアの道具
7月7日 更新1回目
一面が黒い木々で構成された地下通路。
こんな異様な場所は、当然ソニアもララーナも見たことがない。
「不気味な場所……。
ここって、犯人の隠れ家なのかしら?」
「わからないわ……。
でも……」
「……?
何か気付いたことでもあるの?」
「ただの人攫いが、こんな場所を隠れ家にするかしら?」
ここは明らかに異常だ。
教会地下に、これほどの空間が存在しているというのが、そもそもありえない。
アーリアラ教団の者達はこのことを知らなかったのだろうか?
「個人ではなく、組織的な犯行だって考えてるってこと?」
「……単独犯でないのは間違いないと思う」
「子供を攫う為にこんな隠れ家を作ったってこと……?」
流石にそれはありえない。とララーナは言いたそうだった。
「そうじゃないわ……」
犯人――人攫いはアーリアラ教団の司祭たちや、その関係者の子供を攫っていた。
犯人を追う衛兵たちも含め、この町にいる者達は人身売買が目的だと考えていただろう。
だが、
「……犯人の目的は人身売買じゃないのかもしれない」
「え……?」
驚きに声を漏らすララーナ。
「……そもそも、人身売買の為の誘拐なら。
アーリアラ教団の司祭たちの子供を狙うかしら?」
「あ……、それは確かに……」
アーリアラ教団は、このクルクアッド大陸でも膨大な信徒の数を誇っている。
司祭の子供を攫うなど、教団という大陸最大の組織を敵に回すような者だ。
ただの金目的の為に人身売買をするのなら、たとえば貧民街の子供を攫った方がリスクも低い。
人身売買をする者など、どう考えても金目的なのだから。
「でもソニア……それだとリリスちゃんが攫われた理由がわからないわ。
あなたはアーリアラ教団の信徒ではないわよね?」
「……ええ」
リリスが攫われた理由は、ソニアにはわからない。
アーリアラ教団の関係者だと思われたのだろうか?
それとも何か別の理由があるのか……。
「でもあの男は間違いなくリリスを狙ってたわ。
まるで私を待ち構えているみたいだった……」
ソニアは襲われた時のことを思い出す。
「あの男は言ったの。
私を襲ってリリスを攫った時に『必要なのは子供だけだ』って」
今思い返してみれば、それは目的があってリリスを攫うかのような言葉だった。
「……っ」
ソニアの心にふつふつとした怒りが沸いた。
同時に頭が沸騰していく。
「ちょ、ちょっとソニア待ってよ」
気付けばソニアは足早になっていた。
「ララーナ!
リリスを見つけられる道具とかはないの?」
「そんなダイレクトに便利な道具があれば使ってるわよ……」
苛立たし気に口を開いたソニア。
ララーナは呆れた様子で口を開いた。
これは流石にソニアの無茶ぶりだ。
「なんでもいいの!
何か便利な道具はない?」
「……う~ん……」
ララーナは歩きながら道具袋を漁る。
ガサガサ、ごそごそ。
「……う~ん……これが役に立つかはわからないけど……」
そう言って、ソニアは丸い石を取り出した。
「石……?」
「魔法石よ。
魔法の力が封じ込められているの。
とっても希少道具なんだから」
自慢そうに語るララーナ。
この魔法石という道具は――所謂、魔法道具というやつだろう。 ソニアも名前くらいは聞いたことがあった。
「その道具で、どんな魔法が使えるの?」
「周囲の音を拾うことが出来る……らしいわ。
偽物じゃなければ」
効果の説明をするララーナの口調は、後半自信なさそうだった。
「買う前に効果を確かめなかったの?」
「魔法道具は使用回数が限られてるのよ。
封じ込められた魔力が消えれば、石は壊れてしまうの」
だから効果を確かめられなかったと……。
「でも、その効果通りなら娘の声が聞こえるかもしれないわね!」
「結構高かったんだけど……親友の為なら安い物よ!」
「ララーナ……」
頼れる親友の言葉に、ソニアは心の底から感謝した。
「さて、じゃあ使ってみるわね」
そう言って、ララーナは魔法石に魔力を込めた。
すると魔法石が強い光を発する。
「……発動したの?」
「……わからないけど……――!?
ソニア……」
ソニアの名を呼ぶと、ララーナは神妙な顔を見せた。
「どうしたの?」
「本物だったみたい。
声が聞こえる」
「声って……?」
ソニアには何も聞こえない。
魔法道具を使用した、ララーナ自身にしか効果はないようだ。
「子供たちの声が、聞こえるの」
「!?」
「こっち!」
ララーナが走り出す。
(……もう直ぐ助けるから。
待っててね、リリス!)
強い気持ちを胸に抱き、ソニアも疾駆する。
何方向にも分かれた入り組んだ通路ではあったが、ララーナは迷うことなく突き進んだ。




