さらに地下へ
7月4日 更新一回目
カタンカタンと足早に階段を下りる足音が響く
「随分と長い階段ね……」
階段を下りながら、ララーナがそんなことを言った。
進めば進むほど闇は深くなっていく。
このまま進んで大丈夫だろうか? と、ララーナは不安に思った。
対照的にソニアは猪突猛進に怖い者などないとばかりに突き進んでいる。
娘を攫われた彼女にとって、娘を失うこと以上に恐ろしいことなどないからだ。
「ソニア、ちょっと待って!
流石に前が見えないのは危険よ」
既に二人は闇に覆われてしまい、互いの姿すら見失ってしまうくらいだった。
「なら光の魔術で――」
「魔力は温存しておきましょう。
何があるかわからないもの」
「魔力を温存って、ならこのまま進むつもり?」
「ソニア、忘れたの?
わたしは道具屋の店主よ?」
言ってソニアは持っていた鞄をガサゴソと漁り始めた。
そして、
「これを……こう!」
ララーナは持っていた鞄の中から石のような物を取り出した。
それはピカーンと光を放ち闇を散らしていく。
「これは光石。
まぁ、松明みたいなものね」
その道具は光っていること以外は、ただの石と変わらない。
「へぇ……こんな便利な道具があるのね」
「まぁ、いろものだけどね。
今日、買い出しに行ったらたまたま見かけて。
この道具の面白いところはね――」
「ララーナ、その話は後でゆっくり聞くから」
ちなみに道具屋を営んでいる性分からか、ララーナは道具のこととなると話が止まらなくなる。
彼女の悪癖――いや、道具屋の店主ということを鑑みれば、長所なのかもしれないが、ソニアはそれを知っている為、会話を切った。
今は探索に集中したいのだ。
今すぐにだってリリスを攫った犯人と遭遇する可能性があるのだ。
神経を研ぎ澄ませておいて損はないだろう。
声など張り上げて会話をしていては、自分たちはここにいると犯人に教えているようなものなのだから。
二人は無言のままさらに下りていくと、ついに階段の終わりが見えた。
階段を下りた先は通路が作られていた。
石壁で作られた通路で、ぱっと見たところ一本道のようだ。
「この先に何かあるのかしらね?」
「犯人がいるかもしれない……」
周囲を警戒しつつも、ソニアたちは先を進む。
少し進んだ先で、
「え……!?」
「こ、これって……」
二人は思わず声を上げていた。
だが、誰が見ても間違いなく驚愕するだろう。
何せ地面に大穴が開いていたのだから。
「まだ地下があるのね……」
ソニアは冷静に、大穴を観察する。
だが大穴は深く暗くて何も見えなかった。
ちなみにこの大穴は、さっきおっさんたちが落ちた穴だったりする。
あの時は認識阻害の魔術が掛けられていた為、おっさんたちは落とし穴に気付けなかったが、今は解除されていた。
「ソニア、どうする?」
ララーナが問う。
今、ソニアたちがこのまま大穴に下りるという選択を取れば、ソニアたちはおっさんと合流出来ただろう。
だが、
「とりあえず、落ちないように進みましょう」
ソニアたちはこの穴を避けて、通路を進むことにした。
暫く真っ直ぐに進んでいくと、突き当たりが見えた。
だが行き止まりではない。
突き当りを左に進むことが出来る。
おっさんたちがこの場にいた時には行き止まりだったはずの道に、新しい道が出来ていた。
これも認識阻害を解除した為だ。
地下通路内は今、真実の姿を晒していた。
そのまま、ソニアたちは道なりに進んでいくと。
「また階段……」
さらに地下に下りることの出来る階段があった。
「まだ地下に下りるの?」
「みたいね。
でも、どこまで続いていようと関係ないわ」
リリスがここにいるのは間違いない。
だから、進むしかない。
黙々と階段を下りるソニア。
そんなソニアの背をララーナは追いかけていく。
地下深くまで階段は続いているようで、終わりが見えない。
「ねぇ、ソニア。
これならさっき見かけた大穴から落ちた方が、早く地下に行けたんじゃ?」
「……確かにそうかも……」
どうせ地下に行く必要があったのなら、あの大穴から下りてしまえば良かった。と、ソニアは少し後悔した。
落下の衝撃は風の魔術で和らげることは出来ると思うし、間違いなく近道になったはずだ。
だが、もう随分下りてしまっている。
今から戻るのでは余計に時間がかかってしまうだろう。
後悔の念を捨て、黙々と階段を下りていくと、やっと終点が見えた。
そして下りた先は――地下通路内の景色を一変させるものだった。
ここには石壁で形作られていた通路はなく、代わりに太くて黒い木の蔓が幾重にも重なり合い通路を形成している。
天井を見上げれば一面の黒――その正体は黒い葉っぱだった。
「……これって木、なのよね?」
「ええ……だけど、黒い枝、黒い蔓、黒い葉っぱ……」
何もかもが黒い。
「地下で木を育てると黒くなるのかしら?」
ララーナがそんな疑問を口にしたが、
「そういうわけじゃないと思うけど……。
とりあえず先を進みましょう」
「ええ……。
でも、なんだか嫌な気配がするから、気を付けて進みましょうね」
警戒をさらに強めながらも、二人はこの異様な空間に足を踏み入れリリスの捜索を続けた。




