フェブル、出会う。
6月22日 更新1回目
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司教と別れた後、フェブルは衛兵を探した。
教会地下にはどんな危険なあるかわからない以上、直ぐにでも応援は必要だ。
急がなければとフェブルは町を駆け回る。
普段なら町中を適当に見回る衛兵の一人や二人いるものなのだが、こういう時に衛兵の姿が見当たらない。
あてもなく探していても仕方ないと、フェブルは衛兵が常駐しているであろう正門に向かった。
「衛兵さん!」
「うん……?」
正門を守る衛兵の目が、フェブルに向いた。
すると面倒そうに目を細めた。
「……貧民街のガキか……?」
衛兵はフェブルの身なりを見て、そんなことを口にした。
だが、今は差別的な視線を気にしている場合ではない。
「頼む!
助けてくれ!」
「……助ける?」
フェブルは事情を説明した。
祭壇の下に隠されていた地下階段の存在。
その先に進んだ司教の話を。
だが、
「……お前、何を企んでる?」
「え……?」
衛兵から返ってきた言葉は、フェブルにとって予想外のものだった。
「た、企みなんてねえ!
本当なんだ!」
「嘘を言うな!
俺たちがここを離れている間に、何か悪巧みでもするつもりなんだろ?
司教様の名を出せば信じるとでも思ったか?」」
衛兵は激昂した。
もしかしたら彼は、貧民街の人間に騙されたことがあるのかもしれない。
「頼む、信じてくれ!」
だが、それでもフェブルに出来るのは真摯に頼むことだけだった。
自分の力だけでは、おっさんの娘を助けることも、司教を助けに行くことも出来ない。 だから力を貸してくれる人が必要なのだ。
「……お前たちに何度騙されてきたことか。
貧民街の奴らはクズばかりだ。
盗み、暴行だけでは飽き足らず、殺人まで犯す奴らだっている。
そんな奴らを信じろだって?」
フェブル自身も、生きる為に盗みをしたことはある。
日々の食事に困ることなんて日常で、生きるというだけで戦いだった。
彼自身、殺人を犯したことはないが、生きる為に盗みをするということを悪だと思ったことはなかった。
それが悪であるのなら、フェブルたちは生きていることすら間違っていることになってしまうから。
「……どうしたら、信じてくれる?」
「信じられるもんかよ。
そもそも、教会の地下なんて聞いたこともない。
もう少しマシな嘘を考えるんだな」
何をどう言おうと、この衛兵に信じてもらおうことは出来ないだろう。
貧民街出身者というレッテルの重さ。
それは今まで数えきれないほどフェブルも感じてきたが。
自分たちが生きる為にしてきたことが、これほど信頼を失うということを初めて知った。
だが、それでもフェブルには力を貸してほしいと縋ることしか出来ない。
「……頼む!
この通りだ!」
その場に膝を突き、フェブルは頭を下げた。
「あ~邪魔だ邪魔だ!
あっちへ行けよ!」
「おれだけじゃ助けられないんだ。
頼む!
あんたたちの力が必要なんだ!」
「仕事の邪魔だって言ってんだよ!」
邪魔だと殴られ、どけと蹴られ、それでもフェブルは頭を下げ続けた。
「頼む!」
「くどい!」
聞く耳すら持ってはもらえない。
思えば以前もそうだった。
司祭たちに貧民街の人間だからと冤罪を掛けられ、無罪を主張したところで町の人々は誰一人それを信用してはくれなかった。
フェブルの言葉を聞いてくれたのは、自分を恩人であるおっさん――アンクルと、その妻であるソニアだけだった。
もし二人がいなければ、フェブルたちは犯罪者として裁かれていたかもしれない。
きっと、アンクルさんたちは大したことをしたとは思ってない。
あの人は恩に着せるような真似をする人じゃないだろう。
でも、それでも――あの瞬間、フェブルは嬉しかったのだ。
自分を信じてくれる人がいる。
こんな自分の力になってくれる人がいた。
フェブルにはそれが、たまらなく嬉しかったのだ。
仲間以外からの信用も、信頼もされたこともしたこともなかったフェブルにとって、おっさんと、その妻であるソニアは、初めて信用と信頼と、そして尊敬を捧げたくなる大人だった。
そしてフェブルは覚えている。
アンクルとソニアの傍で幸せそうに笑っていた少女のことを。
その少女を慈しむような優しい眼差しで見つめていた恩人の姿を。
「おれは、助けたいんだ。
アンクルさんの娘さんを。
頼む!
一度でいい!
これっきりでいい!
もう二度とおれの言葉なんて聞かなくてもいい。
でも、今だけは――」
「あ~~~~うるせ~って言ってんだろっ!」
衛兵の叫びが、フェブルの一縷の希望すらもかき消した。
だが、この程度で諦めるわけにはいかない。
別の誰かに……と、フェブルが顔を上げた時だった。
「ちょっとあなた、どいて!」
「うおっ……!?
ちょ、うおっ!?
なんだあんたっ!?
怪我をしてるのか!?」
「刺されたけど、怪我なんてしちゃいないわよ!
それよりも――」
衛兵を突き飛ばす女性の姿が目に入った。
咽るような血の匂いと、真っ赤になった服を纏っている。
「……あんたは……!?」
その女性はフェブルの知る人物。
だが、以前のような柔和な顔立ちではない。
「あなたは確か……フェブル君よね?
うちの娘を――リリスのこと、見たの!?
だったら教えて、あの子はどこ!?」
おっさんの妻であるソニア・フレイルが、必死の形相でフェブルを見据えるのだった。




