おっさん、真実を見る。
6月19日 更新1回目
「行ってみるか」
「ええ!」
おっさんと司教はザケルたちを追った。
『勇者様。
魔物でも出たのでしょうか?』
『どうだろうな……』
ま、あいつらに追いつけばわかるだろう。
おっさんはそんなことを思っていたが、三人の姿は見当たらない。
「あいつらどこまで行ったんだ?」
「……おかしいですね……。
そろそろ追いつても良さそうなものですが……」
「まさか、罠でもあ――っ!?」
地面を蹴った瞬間、おっさんの足が地に吸い込まれた。
「うおっ!?」
それから一瞬で、全身が吸い込まれていく。
おっさんが感じたのは、落下するような感覚だった。
「アンクルさん!?」
司教がおっさんに手を伸ばした。
だが、その手は空を切り。
おっさんは、完全に地面に吸い込まれてしまった。
『ぎゃあああああああああっ!
勇者様~~~~~!
どうなってるんですかこれ!?』
直後、カティは泣き叫んだ。
まさかこんな状況になるとは思っていなかったのだろう。
『落ちちゃってます!
私たち、落ちちゃってますーーーーー!』
カティは振り落とされないように、必死におっさんの服を掴んでいる。
『やっぱり落ちてるよな……』
『冷静に言わないでください!』
カティが大慌てのせいか、おっさんは自分でも不思議なほど冷静になってしまう。
一体、どれほどの高さがあるのだろうか?
『というか、お前は飛べるだろ』
『あ、そうでした!』
カティが羽をパタパタと動かす。
だが、
『ぎゃっ!?』
そんなカティをおっさんはぎゅっと掴んだ。
『お前、一人で逃げる気か!』
『ひ、酷いです勇者様!
もし私が死んじゃったらどうするんですか!』
『俺が死ぬのはいいのか!』
『勇者様は勇者様だから死にませんよ!』
どんな理屈だ。
『こういう時こそ、お前の出番だろ!
何かいい魔法はな――あだっ!?』
ドシーンと、おっさんの身体に衝撃が走った。
『ぎゃああああああ死ぬううううううううっ!?
って、い、痛くない……』
おっさんの手の中にいたお陰で、カティはダメージゼロのようだ。
『な~んだ。
大した高さはなかったんですね』
落下地点から地面まで、大した高さはなかったようで、大怪我はしていないが。
『だとしても痛いことに変わりはないがな……』
ぶつけた尻を摩りながら、カティに答えるおっさん。
そして立ち上がろうとした時だった。
「うぅ……い、いてぇ……」
「た、助けてぇ……」
「こ、腰がぁ……」
気付くのが遅くなったが。
おっさんの直ぐ傍で、ザケル、ウェルト、グラニーの三馬鹿トリオが倒れ、痛みに顔を歪めていた。
『あ、この人たちもここに落ちてたんですね』
『みたいだな。
姿が見えないと思っていたが……』
どうやら打ちどころが悪かったのか、三人は怪我をしているようだ。
「だ、旦那~、た、助けてくれぇ~」
弱々しい声を上げるザケル。
どうやら足を挫いているようだ。
「はぁ……仕方ねえな」
おっさんはザケルたちに近付き、治癒魔法であるキュアを使った。
すると男たちの怪我がみるみるうちに治癒されていく。
『勇者様、お優しいです!』
優しいというか。
いくら彼らが罪人とはいえ、この場で放置は流石のおっさんも気が引けただけだ。
それに罪人であるなら、然るべき場所で裁かれるべきだしな。
「ほら、これで動けるだろ?」
治癒を終えたおっさんがザケルたちに言った。
すると。
「「「旦那~~~~~~~~~~~!!!!!!」」」
三人がおっさんに抱き着いてきた。
「ちょ、や、やめろ暑苦しい!!」
「こんなオレたちを助けてくれるなんて!
オレァ、オレァ、もう一生旦那に付いていきます!!」
「おれたちものです!」
「旦那に尽くします!!」
さっきはおっさんから逃げた癖に、都合のいい三人組である。
「あ~引っ付くな!」
おっさんは三人を引きはがした。
『罪人すらも従えてしまうなんて!
流石が勇者様ですね!』
従えたくなどない。と、おっさんは心底思った。
「お前らも上から落ちたんだよな」
「……はい」
「気付いたら足元がすり抜けて……」
「そのまま落っこちてこのざまです……」
どうやら、三人もおっさんと同様の罠にかかったようだ。
「旦那、司教の奴は?」
「ああ、ルドルフ司教は落ちずにすんだみたいだ」
おっさんは上空を見上げて。
「ルドルフ司教~~~~~~~~!!!
聞こえるか~~~~~~っ!!」
声を上げた。
だが、返事はなくただ声が反響するだけだった。
「はぁ……仕方ない。
俺はこのまま探索を続けるからな」
「わかりました。
オレらも付き合います!」
「旦那の役に立ってみせます!」
「なんでも言ってください」
どうやら三人は、付いてくる気満々のようだった。
おっさんも付いてくるというなら、止めるつもりはない。
『あ、待ってください勇者様』
『うん?』
『また罠が仕掛けられているかもしれません!』
『う……』
おっさんは足を止めた。
いちいち落っことされていたらキリがない。
『何か対策があるのか?』
『多分……なんですけど、さっきの罠は魔術によるものです』
『そうなのか?』
『さっきザケルたちも言ってましたけど。
私たちも地面をすり抜けて落下しましたよね。
でも視界は地面を認識していた』
『まぁ、そうだな。
穴が開いているようには見えなかった』
しかし、結果的におっさんたちは落下していたわけだが。
『……恐らくですが、この通路には魔術による認識阻害、幻惑の類が施されているのかと』
『幻惑?』
『はい。
なので、今から幻惑を解いてみます。
――幻惑を晴らし、我が目に真実を見せよ!』
カティの口から呪文が紡がれた。
すると、
「な……」
世界が一変した。
『やはり認識阻害が施されていたようですね……。
ですが、これは……』
カティの予想は的中した。
だが、
「だだだだだ旦那っ!?
こ、こりゃあどうなってんですか!?」
ザケルが叫んだ。
だが、叫びたくなる気持ちは理解できる。
おっさんたちが石壁で作られた通路だと思っていたものはどこにもなく。
真っ黒な、とんでもなく太い蔓のような物が、幾重にも重なり合うことで、通路を形作っていたのだった。
「これは木の蔓……なのか?」
樵として生きてきたおっさんではあるが、これほど太くそしてドス黒い蔦を見たことは一度もない。
『き、木って、ここは教会の地下なんですよね?
だとしたら、どうして木の蔓が……』
そんなのは、おっさんもわからない。
『それにこの真っ黒な蔓……とても邪悪な気配がします』
『この蔓が……?』
『はい……なんなんですかこれ……』
カティは、気持ち悪そうに口元を抑える。
嫌な気配の正体は、この蔓……?
いや、木の蔓があるということは――。
『この辺りに、木があるってことか?』
『それは……考え難いですが……』
これほど大きな蔓があるなら、とんでもない巨大な木があるのではないだろうか?
『まぁ……悩んでても仕方ないわな。
とりあえず、先に進むか』
『そうですね。
攫われた子のこともありますからね……』
そして、真実が映し出した世界を、おっさんたちは進んで行く。




