おっさん、冷静に言う。
6月4日 更新1回目
「……どうやら、認識阻害の魔術が使われていたようです。
ですがはっきりしましたね。
フェブル君が見た男はこの地下階段に下りて行ったのでしょう」
そうだとしたら、突然姿が消えたのも納得できる。
だが、
「そもそも、なんでこんなもんが?」
フェブルは視線の先を見据える。
この地下階段は、どう考えても昨日今日で出来たものではない。
「……わかりません。
この町の教会に、地下聖堂があるという話は聞いたことがありません。
以前の司教であればあるいは……」
「なら、そいつに聞いてみりゃいいんじゃねえか?」
「……それは……」
司教は言葉を止め、厳しい表情を見せた。
何か話せないことがあるのだろうか?
「とりあえず、私はこの地下階段を調べてみようかと思います」
そう言うと、司教は地下階段に向かい足を進めた。
「だとしたら衛兵を……」
「フェブル君の見た男が子供を連れていたのなら、その子の安否が気になります。
一刻も早く追わねばなりません」
確かに司教の言う通りだ。
こんな大規模な仕掛けを用意しているような相手だ。
まともであるはずがない。
フェブルの見た男は、間違いなく事件の犯人である人攫いだったのだろう。
「安心してください。
これでも多少、魔術には心得があります」
「……なら、おれも付いていく。
攫われたのは、恩人の子供なんだ。
ここで見捨てるような真似はしたくねえ」
これはフェブルの本心だ。
「……フェブル君。
ここは私に任せてください。
今、君が取れる最善の行動は衛兵を連れてくることです」
確かに、それは最も正しい選択かもしれない。
この地下階段の先には危険が待っているかもしれない。
いや、あんなとんでもない魔術を教会に仕掛けるような奴が相手なんだ。
まともであるはずがない。
だからこそ、司教はフェブルに、ここは自分に任せろと言っているのだ。
「……わかった。
直ぐに衛兵を連れて戻る。
あんたも、気を付けてな」
「ええ」
そして、司教が階段を下りる為に踵を返したのと同時に、フェブルも礼拝堂から飛び出した。
……だから、慌てていたフェブルは気付かなかった。
司教が階段を下りるのと同時に、地下階段は消え元の祭壇に戻っていたことを。
※
そして再び視点は切り替わり。
『勇者様~~~!
暗いですぅ!
真っ暗です~~~~~!』
『耳元で騒ぐな』
さっきまで墓地にいたはずのおっさんたちだったが。
猛烈な赤い輝きに包まれた瞬間、気付くと何も見えなくなっていた。
「お、おかあさん、いる?」
「ええ、大丈夫よ」
直ぐ傍で声が聞こえた。
リルムとミーアは無事のようだ。
「な、なんだ!?
なにが起こったってんだよ!?」
「こ、ここはどこなんだ?!
おい、どういうことだ!?」
「わ、わかるわけないだろうが!」
ザケルと二人組の冒険者たちの声も聞こえた。
かなり混乱しているようだ。
しかし、あの場にいた全員、どうにか無事らしい。
『カティ。
この場を照らす魔法とかないのか?』
『あ、そうでした!
その手がありましたね!』
『使えるんかい!』
『勿論です!
いきますよ~!』
カティが魔法を使ったのだろう。
光の球体が宙に浮かび上がると、ぽわぽわ~っとした優しい光で周囲を照らした。
「ししょう、これししょうのまほうですか?」
「え~と、まぁ、そんな感じだな」
「アンクルさん、ありがとうございます。
これで視界が確保できましたね」
おっさんたちは周囲を見回す。
視界の先もまた、暗黒に染まっていた。
前後に道は繋がっており、どちらに進むことも出来そうだ。
「ここは……どこなんだろうな?」
『なんだかダンジョンのような雰囲気ですね』
カティが言った。
おっさんはダンジョンになど行ったことがない。
だからここが本当にダンジョンかの判断は出来なかった。
『……勇者様、ここ。
なんだか邪悪な感じがします
『邪悪……?
暗いからそう感じるだけじゃなくてか?』
『そうじゃなくてです!
もしかしたら……魔物でもいるのかもしれません。
物凄く強烈な感じでもないんですけど……』
カティの言う通り魔物がいるのなら、ここは本当にダンジョンなのか?
おっさんは考えながら。
「ザケル。
お前もここがどこか聞かされてないのか?」
「き、聞かされてるわけねえだろっ!
オレはただ、あの道具を渡せと言われてただけで……」
嘘を吐いている様子はない。
それはザケルだけではなく、冒険者たちも同様のようだ。
つまり、この三人は騙されていたのだろう。
『……あの魔法道具には、転移の魔術が封じ込められていたようです』
『転移……?』
『はい。
指定された場所に一瞬で飛ぶことが出来ます。
勇者様のムーブと近いですが、どこへでも飛べるわけではなく。
あくまで指定された一ヵ所だけなのですが……』
『随分と便利な道具があるんだな……』
『そもそも、魔法道具自体、かなり高価なものなんです。
職人が武器を作るのと違い、魔術の知識もなくてはいけなくて、希少価値が高い』
どうやらとんでもない品物らしい。
だがそうなると、ザケルたちに依頼を出した相手はそれなりに金があるってことなのかもしれない。
と、おっさんは思った。
『というか、勇者様とっても冷静ですね!
流石は勇者様です!
どんな時でも動じないなんて!
私はここから出られなかったらと不安に思ってしまいました……。
こんな弱気じゃ、聖剣の妖精失格ですね!』
カティは勘違いしていた。
そもそもおっさんが冷静なのは、
『いや、帰るだけならムーブを使えばいいだけだからな』
『え……』
間の抜けた声を出すカティだったが、
『いや、転移させられたなら、転移で戻ればいいだろ?』
おっさんの言葉に納得して、ポン――と手を打った。




