カティ、薪を探す。
2月11日投稿。
次の投稿は17時前後を予定しております。
町に送った薪は、今頃誰かに回収されてしまっている可能性が高い。
ならば、急いで町に向かっても意味がなさそうだ。
「まだ昼前くらいか?」
「は、はい。
恐らくその通りだと思います」
「なら、もう一仕事できるな」
「え!?
と、飛ばしてしまった薪は回収しなくても宜しいんですか?」
「できるなら回収したいが、魔力がなくては魔法は使えないんだろ?
歩いて町まで向かっても、薪はもう誰かに回収されてるんじゃないか?」
「そ、それは……」
カティはとても申し訳なさそうにしていた。
自分の失敗でおっさんに迷惑をかけたことを悔いているのだ。
「な、なら、私に出来ることがあれば手伝わせてください!」
「……う~ん、そうだな……」
考えるおっさん。
導き出された結論は――。
「ないな!」
「ガビーン!?」
おっさんの言葉は、カティにとってあまりにもショックなものだった。
「ゆ、勇者様、怒っていますか?」
「いや、そこまでは」
「じゃあなんで、私は何も手伝わせていただけないんです!」
「そんな何かしたいならさせてやりたいんだが……」
「はい!
なんでも言ってください!」
「木は切れるか?」
「……む、無理です。
そんな残酷なことできません!
私たち妖精族にとって、森は住みなれた我が家も同然です!
いえ、それどころか家族と言ってもいい存在かもしれません!」
「家族!?
た、確かに家族を傷付けてはいけないな……」
「え……?」
「うん? どうしたんだ?」
「い、いえ、勇者様のことですから、『ぐだぐだ言ってねえでさっさとやれ!
てやんでいべらぼうめい!』とか言ってくるのだとばかり思っていたので……」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ!」
勇者を敬っているようで、実に失礼な妖精である。
「ま、家族が大切だっていうのは、みんなそうだろうからな」
「勇者様……」
「しかし、それなら木を伐採するところは、見ないほうがいいんじゃないか?」
「……そ、それは……。
人族の方にも生活があるのは心得ていますから……。
そ、それに、迷惑を掛けてしまった分、私も何かしたいのは本当です!」
「……なら、縄は結べるか?
割った薪をまとめておいて欲しいんだが?」
「……や、やったことないです」
「じゃあ、何ができる……?」
「無能な妖精でごめんなさい~~~~~~~~!!!」
どこからそんな馬鹿でかい声を出しているのか。
耳を塞ぎたくなるほどの泣き声に、おっさんは足りない頭を必死で働かせた。
「そ、そうだ!
飛ばした薪がまだ残ってる可能性がある!
町に行って薪がどうなってるか確認してきてくれないか?
あったらその薪が奪われないよう見張っていてほしいんだが?」
「あ、それなら私でもできそうです!」
「なら、頼んでもいいか?」
「はい!
お任せください!
責任をもってやり遂げてみせます!」
水を得た魚のように、カティは目を輝かせる。
名誉挽回の機会が与えられたことが嬉しいようだった。
「では、早速行ってきます!」
「ああ、俺も作業が終わり次第町に向かうからな」
「はい!
名誉挽回してみせます!!
だから勇者様、私を見捨てないでくださいね!」
それだけ伝えると、カティは小さな羽をパタパタさせて飛んで行った。
「……名誉挽回……か」
正直、おっさんはカティにそれほど期待はしてない。
寧ろうるさいヤツがいなくなった、これで集中して作業ができそうだと思っている。
しかし、あれだけ騒がしかったヤツがいなくなると、迷惑に思っていても途端に寂しく感じるのは不思議だ。
「……ま、あの妖精のことはどうでもいいか。
さっさと仕事を終わらせて、愛しの娘に会いに帰るぞ~!」
そう決意したおっさんは、パパッと伐採を終わらせるのだった。
※
おっさんが伐採に励む中、カティは急ぎ足ならぬ急ぎ飛行で町に来ていた。
おっさんたちの生活する大陸は、クルクアッド大陸という。
そしておっさんの拠点とする町は、大陸の中央北部にあった。
この大陸は中央に行けば行くほど栄えた町が多い。
それは、中央部に王都があるからだ。
「うぅ……急ぎすぎて羽が痛いです……」
小さな羽をパタパタし過ぎたせいでかなり疲れていたが、休んでいる暇はない。
「勇者様の為に、薪を見つけないと!
……はっ!?
ムーブでどの辺りに飛ばしたのか聞いてくるの忘れてしまいました!?」
やはりこの妖精、少しポンコツのようだ。
「……ま、まあ、見て回ってるうちに見つかるはずです!」
希望的観測。
心配性なのか楽観主義なのか。
しかし、この行動力と立ち直りが早いのは、この妖精のいいところだろう。
「う~ん……どこにあるのでしょうか?」
王都ほどではないが、この町――ストラボホルンはそれなりの規模の町で、多種多様な種族が生活を営んでいる。
カティの目に入っただけでも、人間や狼人、猫人に犬人、後は半森人などを見かけていた。
様々な店が並び、多くの人の活気で溢れている。
このお店の中で薪を買い取りそうな店はどこだろうか?
「……う~~~ん?
道具屋さんでしょうか?」
いろいろと探してみたが、それらしい物はない。
すっかり陽も暮れてきてしまった。
やはりもう誰かに盗まれてしまったのだろうか? とカティが考えていると。
「あれ……?」
店が立ち並ぶ場所からさらに先。
小さな建物の入り口の直ぐ横に、纏められた薪が置かれていた。
「あああああああ、ありましたああああああああ!!!」
カティ大興奮。
縄で綺麗にまとめられたその薪は、確かにおっさんが伐採したものだ。
急いで薪の下に向かおうとしたのだが、唐突に行く道を遮られた。
「なあああっ!?」
思わず急ブレーキ。
なんとか衝突は免れた。
「な、なんなんですかあぁっ!?」
むっ! と睨むように前を見ると、小さな女の子が店の前に走っていくのが見えた。
狼人の女の子だ。
年の頃はおっさんの娘よりもいくつか上だろうか?
薪の前で立ち止まると、その子はキョロキョロと周囲の様子を窺い始めた。
「……ま、まさか……!?」
嫌な予感がした。
さらに、カティのその予感は当たってしまう。
「誰も見てないよね……?」
少女はそう口にして、小さな身体で薪を持ち上げる。
肩にかかった焦げ茶色の髪がサラリと揺れた。
「えええええええ!? ちょ、ちょっとあなたあああ!!」
当然、カティの声は普通の人族には聞こえない。
だから叫ぶだけ無駄だ。
しかし、叫ばずにはいられないカティであった。
「……よし!
これを買い取ってもらえれば……」
「や、やはり盗もうって言うんですか!!」
少女は薪を抱えようとした。
だが、小柄な少女にこの薪は重く持ち上げることができない。
「んしょ、んしょ……」
「ちょ、ちょっとあなた!
それは勇者様のですよ!!」
それでも少女は諦めず、縄を持ち薪を引っ張った。
なんとか店の扉の前まで持って行き、少女は店の扉を開こうとした。
その時――。
「おい、お前!!」
「ぇ……」
背後から野太い声が聞こえ、少女は肩を震わせゆっくりと振り向いた。
カティも一緒に声の方に振り向く。
二人の視線の先には、目付きが悪くスキンヘッドでいかにも柄の悪そうな男がいた。
背には薪を背負っているところを見ると、どうやらこの男も樵のようだ。
「……おいクソガキ、テメェーの持ってるそりゃなんだ?」
「っ……!?」
盗賊風の男が睨むように目を細めると、少女はビクッと身体を震わせた。
「こ、これは……」
「盗んできたのか?」
「ち、ちがっ――」
「嘘吐くんじゃねえ!!」
怒声とともに、男は少女の身体を激しく突き飛ばした。
小柄な身体が地面に勢いよく倒れ、少女の身体に擦り傷を作った。
「あぅ……」
「な、なんてことするんですかっ!!」
カティが少女を守るように前に出た。
しかし、妖精であるカティの姿は男には見えていない。
「その薪はよぉ、おれがそこに置いておいたもんなんだよぉっ!」
「こ……これはあたしのだもん!!」
男の言うことは明らかな嘘だ。
そして少女の言うことも嘘だ。
何せこの薪はおっさんのものだから。
どちらも嘘を吐いている。
悪いことをしている。
だけど――。
「んだとクソガキがぁっ!
とっとと失せろ!」
「あぐっ……」
男は倒れている少女の腹部を蹴った。
少女の顔が苦悶に歪む。
「ったく、その歳で盗人なんて親の顔が見てえもんだ」
「っ!?
――か、母さんは関係ないっ!!」
「あん?
どうせ親も盗人なんだろ?」
「違う!
わ、あたしだって、好きでこんな――」
「はん。
ま、痛い目にあいたくなけりゃそれをよこしな」
「や、やだ! ――あうっ……」
再び男が少女を蹴った。
「こ、ここまですることないじゃないですかっ!!」
カティは怒っていた。
この狼人の少女とカティは何も関係がない。
だが、こういう非道な行いに見て見ぬふりなどできない。
「これ以上酷いことをすることは、私が許しませんっ!!!」
相手に自分の声は届いていない。
そんなことすら忘れ、カティは叫んだ。
「おらっ、さっさとその薪をよこしなっ!!」
「い、いやだ!
これはあたしのだ!」
「そうかよ、もっと痛い目にあいたいかっ!!」
少女に暴力が振るわれかけたその時、カティは魔法を唱えた。
「大地よ――!!」
すると地面から男の両足を拘束するように蔓が飛び出した。
「な、なんだこりゃああっ!?」
「え……?」
人相の悪い男が、突然のことに目を見開き動揺を見せた。
ジタバタするが足下の拘束は外れそうにない。
カティは攻撃の為の魔法も持っているが、こんな男でも傷付けたくはないと思ってしまったのだ。
魔力が高いだけあって実はカティは魔法が得意だったりするので、ただの樵の男を倒すのなんて容易だったりするのだが。
「さあ、今のうちに逃げてください!!」
叫ぶカティ。
しかし、カティの声は狼人の少女に全く伝わっていなかった。
「……!」
それどころか、今がチャンスとばかりに薪を抱えようとしていた。
「そ、そんなことしてる場合ですか!! って、私の声は聞こえないんでしたっ!!」
大切なことを忘れている辺り、カティはやはりアホだった。
「ま、薪はいいですから逃げるんですよ!」
「んしょ、んしょ、うううう重い~~~!!」
少女はお金が必要な理由があるのかもしれない。
しかし、こんなに傷ついてまで必要なのだろうか?
なにをこんなに必死になってるんだと、カティは少女にも激怒しそうだった。
「ぐっ、なんんだよこれはぁ!!
くそがっ!!
こうなったら――」
拘束されていた男が手に斧を持ち蔓に振り下ろした。
何度も叩きつけられるように振り下ろされて太い蔓が切れてしまった。
「おいクソガキぃっ!!
その薪はオレのだと言っただろうがっ!」
「う、ウソつかないで!
これがおじさんのだってしょうこはあるの!!」
人間の男が、狼人の少女に詰め寄っていく。
「ああ!? も、もう! 直ぐに逃げないから!」
カティはどうするか悩んでいた。
何か少女を助ける手段はないかと。
「こんな時、勇者様がいてくれたら……」
「――え?
俺がいたらなんだって?」
「あの女の子を守ってくださるに違いな――って、勇者様!?」
カティは喜び3、驚愕7という感じで目を丸めた。
仕事が終わったおっさんが、割った薪を売る為に道具屋の前まで来ていたのだ。




