聖剣の力②
2017/02/11 修正
「何を落ち込んでいるんだ?」
「……落ち込みたくもなります。
勇者様、私の話を信じてくれないんですもん」
カティが聖剣の妖精なのは本当だ。
しかし、一般人だったおっさんからすれば信じられないのも当然だった。
「あ、そうです!
他にも聖剣の力を試してみればいいんです!」
「他?
たとえば何ができるんだ?」
「勇者様のレベルが上がれば、それこそ不可能がなくなります!」
「不可能がなくなる!?」
「そうです!
勇者様に不可能はありません!」
嬉しそうに、そして誇らしそうに言うカティ。
これでこのおっさん――もとい史上最悪とも思える勇者様に少しでも使命感が芽生えてくれないか?
そういう打算もあったのだが。
「そうか。
じゃあ仕事に行かないとな」
「はい!
仲間を集めて魔王を討伐に行きましょう!」
「は?
何を言ってるんだ?
樵勇者だぞ俺は?」
「え……?」
「職業レベルを上げるなら、木を伐採しないとな」
※
そしておっさんは、ルーチンワークをこなすように木を伐採した。
聖剣の切れ味は今日も最高だ。
これは仕事がどんどん進む。
バタンバタンと伐採する中、カティだけはぷんぷんと頬を膨らませた。
「伐採はいいですから!
勇者様のお仕事と言ったら魔物退治ですよ!」
「ステータスを確認したら俺は樵勇者だったんだぞ。
樵の勇者なら、やはり木を伐採するべきだ」
こうしておっさんの樵勇者道が始まった。
「いや、始まりませんから!!」
「急にどうした?」
「はっ――!? す、すみません。
なにやら不穏な声が聞こえた気がしたので」
「そうか、怒り過ぎて幻聴が。
かわいそうに、疲れてるんだな」
「誰のせいですか!?」
「誰のせいだ?」
「勇者様のせいです!」
「そうか。
勇者は酷いヤツだな」
「あなたのことです!!」
「俺は樵勇者だぞ?」
「うぐ……」
「ステータスはそうなっていた。
だから、勇者は別にいるんじゃないか?」
「し、しかし、聖剣を抜けるのは勇者様のみです!
だから私は、まず勇者様が普通の勇者様に戻ってくれるように頑張ります!」
聖剣の妖精カティは職務に忠実だった。
そしてカティは真面目で根が素直だ。
人を疑う事を知らない。
だから真摯に説得すれば、おっさんが勇者の自覚を持ってくれる。と、そう信じているのだ。
しかし、おっさんは思っていた。
自分は万が一にも勇者になる可能性はないだろうと。
「伐採! 伐採!! 伐採!!!」
倒れた木を伐採し薪を作っていく。
持ち運べる限界の量の薪を用意し終わる頃に、たらたらたったった~!!
頭の中に音が響いた。
それと同時に、おっさんは自分の職業レベル上がったのだと理解した。
「む、どうやらレベルがUPしたようですね」
「わかるのか?」
「はい。
私は聖剣の妖精です。
勇者様の状況はある程度把握できます」
「そうか。
で、何か変わったのか?」
「はい、ステータスを確認してみてください」
おっさんはステータスを確認した。
※
○名前 アンクル
職業 樵勇者
年齢 35歳
・ステータス
職業レベル 1 → 2
体力 76 → 80
魔力 0 → 5
力 58 → 63
魔攻 0 → 6
魔防 0 → 3
速さ 37 → 39
運 18 → 20
・魔法
ムーブ
※
「むっ!? 魔法を覚えたぞ!?」
「ええ、勇者様ですから。
魔法を覚えるのは当然ですね」
「と、当然なのか……?」
おっさんは少し前までただの樵だったのだ。
急に魔法などと言われてもピンとこなかった。
「え~と、ムーブ……?」
おっさんは魔法の効果を確認した。
※
・魔法 ムーブ
・消費MP5
・効果
物体を瞬時に移動させることができる。
※
「……物体を移動?」
「ああ、これはとても便利な魔法ですよ」
「そうなのか?」
「はい。
たとえば、先程伐採し割った薪。
これは、どこかに持っていかれるんですよね?」
「ああ、売りに行くんだ。
この町の道具屋は、生木でも買ってくれるからな」
本来、生木は乾かさなければ使うことが出来ない為、この町の道具屋は樵にとって非常にありがたい存在だ。
その代わり、少しばかり薪の単価は下がるが。
薪を乾かす作業が省ける分、即金になるのが魅力なのだ。
「なら、それを触ってムーブを使ってみてください」
「……使うってどうやるんだ?」
「魔法名を口に出すか、念じるかで使用できます」
「面倒な呪文とかは要らないのか?」
「魔術なら呪文などの工程が必要ですが、魔法なので必要ありません」
「そ、そうなのか?」
「というか、普通の魔術師では魔法自体使うことはできませんよ?」
「うん? どういう意味だ?」
「魔術師たちが使うのは魔法ではなく、魔術です」
カティは饒舌に語る。
真面目な彼女は世話焼きでもあった。
「魔法と魔術は根本的に違うものなんです」
「どう違うんだ?」
「魔術は学問です。
魔術書を使ってしっかり勉強すれば、誰でも使えるようになるものなんです。
もちろん、使用する魔術によっては一定以上の魔力が必要です。
大掛かりなものになれば、特殊な道具が必要になることもあります。
何かしら条件が必要になることはありますが、学問である以上は勉強すれば誰でも使えます」
この妖精、結構物知りだな。とおっさんは思った。
そんなおっさんの感心は顔にでており、カティは嬉しそうに話を続けた。
「しかし、魔法は違います。
誰でも使えるものじゃないんです。
魔法は一定の職業に就いたものしか覚えることができません」
「職業次第なのか?」
「はい。
それも極一部の職業だけです。
例えば魔法使いは魔法を覚えられます。
魔法使いという職業自体、魔術師を極めた極少数の者だけが辿り着ける頂ですが」
頂と言われると、魔法がとんでもない力のように思えてきた。
「魔法というのは魔術より凄いのか?」
「凄い……かどうかは効果にもよりますが、誰もが使えるわけではないので希少です。
勿論、勇者様であれば尋常じゃないほど強力な魔法を覚えられると思います」
尋常じゃないほど?
どれほどだろうか?
自動で木を伐採しておいてくれる魔法とかか?
「まあ、とりあえず魔法を使ってみてください」
「わかった」
割った薪を縄で縛り一纏めにし、おっさんは手を置いた。
「触れた後、魔法の名前を口にすればいいんだよな」
「はい。それと、移動させたい場所をイメージしてください」
「わかった。
じゃあ……いくぞ……」
少し声に緊張が混じっていた。
なにせ初めての魔法だ。
35歳おっさん。
これから初体験。
こういう感覚は、きっと凄く久しぶりに違いない。
「む、ムーブ!!」
緊張でどもりながら、魔法を口にした。
だが、しっかりと魔法は成功し、おっさんの目の前から薪がなくなっていた。
一瞬の出来事だった。
「ま、マジで町まで飛んだのか?」
「はい。そのはずです」
「す、凄いな、魔法って」
「えへん! 凄いんですよ、勇者様のお力は!!」
なぜかカティが偉そうに胸を張った。
「樵の仕事がグッと楽になるぞ!」
「って、結局そこに結びつくんですか!!」
こんな凄い力があれば、金儲けなど簡単にできそうなものだが。
樵のおっさんは、やはり樵のおっさんだ。
「あれ……?
なあカティ、あの薪は俺の思い浮かべた場所に飛んだんだよな?」
「はい。
そのはずです」
「そうなると、俺は今から町に向かわないといけないわけだよな?」
「はい。
勇者様が薪をお売りになるのであれば」
「……飛ばした薪は、誰が見ていてくれるんだ?」
「え……?」
「薪だけ先に飛ばしたら、盗まれたりもするんじゃないか?」
「…………………」
饒舌に語っていたカティが口を閉じ、ゆっくりと目を逸らした。
カティの額からだらだらと汗が流れる。
「……カティさんや?」
おっさんが笑みを向ける。
それはとても優しげな笑みだった。
しかし目は笑っていない。
この妖精、マジで使えねえな。と思われているに違いない。
が、その汚名を返上するようにカティは閃いた。
「そ、そうです!!
ゆ、勇者様がムーブで町まで飛べばいいんですよ!
薪を送ったポイントに飛べば直ぐに回収できます!」
「ああ、なるほど!
流石だぞカティ。
ちゃんと考えがあって、俺に魔法を使わせたんだな」
「も、勿論です!
わ、私は勇者様の不利益になるようなことはしません!」
絶対嘘だ。と、おっさんは思った。
なんとかこの自体を乗り切った。と、カティは思った。
そんな互いの内心は知らず、二人は笑みを向け合う。
「と――ゆっくりしてる暇はないな。
早く町に行かなくては」
「あ、勇者様。
飛ぶ前に私にも触れていただいていいですか?」
「ああ、触れないと飛べないんだよな」
「はい。
勇者様ご自身は自分を飛ばしたいと思えば飛べますので」
「…………」
「どうされましたか?」
おっさんは思った。
置いていっちゃおうかな?
「置いて行ったら、今日の夜中耳元で泣き叫び続けますよ」
「そ、そんなことを思ってるわけないだろ?」
なんて勘のいい妖精だ。
おっさんは諦めてカティに触れた。
「ムーブ!」
魔法使った。
しかし、周囲の景色は木々に囲まれた森の中のままだった。
「あれ?」
「どうしたんでしょうか?」
「わからん。
もう一回使ってみるか。――ムーブ!!」
しかし魔法は使えなかった。
すると、
「……――っ!?」
何かに気付いたのか、カティが目を見開いた。
「なんだ?
思い当たることでもあるのか?」
「あ……い、いえ……わ、私は何も?」
カティはおっさんから目を逸らした。
明らかにおかしな態度だ。
「カティ、お前は嘘を吐くような妖精なのか?」
「うううううううう、嘘なんてついてませんよ」
明らかに挙動不審な妖精。
嘘を吐いているのは一目瞭然だった。
「そうか。
残念だよカティ。
お前のこといいヤツだと思ってきてたんだけどな」
「う……うぅ……ゆ、勇者様、申し訳ありません!!」
カティは頭を下げた。
「うん?」
「す、ステータスをご確認いただければ……わかります」
言われるままにステータスを見る。
※
・ステータス
職業レベル 2
体力 80
魔力 0
力 63
魔攻 6
魔防 3
速さ 39
運 20
※
「あれ? 魔力が……」
「はい。
魔力がないんです。
今の勇者様は、ムーブを一回使えるだけの魔力しかなかったんです」
「つまり?」
「魔力が回復するまで、もう魔法は使えません……」
「………………なあ、カティ。
そもそも薪を飛ばす時、俺も一緒に飛べばよかったんじゃないか?」
「はっ……!?
そ、それに気付くとは、流石です勇者様……!」
おっさんの言葉に目を見開くカティ。
彼女はとても真面目かもしれないが、どこか抜けている。
これは、そんなことを気付かされた出来事だった。




