聖剣の力①
「じゃあ、お父さん仕事に行ってくるな」
「は~い!」
「扉は勝手に開けちゃダメだぞ。約束な」
「あい!」
おっさんとリリスは指切りした。
娘はいい子なので、おっさんとの約束を破ったことはない。
おっさんも、娘との約束を破ったことはない。
「じゃあ、行ってきま~す」
「いってらっしゃ~い!!」
元気な娘の声を聞けるだけで、おっさんはやる気に満ち溢れるのだった。
家を出ると、鍵がかかっているかしっかり確認する。
そしておっさんは、庭に突き刺している剣を取った。
「ついに魔王を倒す旅に出られるのですね!」
「いや、木を伐採しに行くんだ」
「そうですかついに――って、はいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃっ!?」
妖精カティの小さな身体から絶叫が青空に木霊した。
雲一つない晴れた空は美しい。
空を眺めながらおっさんは山に向かった。
※
山道を歩きながら、カティはひたすらおっさんを説得していた。
「いいですか勇者様。
あなたは聖剣を引き抜いたんです!
お仲間を集めて、魔王を討伐する旅に出なければいけません。
それが選ばれ勇者の定めです」
「最初にも言ったが……いや、言ってなかったか?
言ったよな?
とにかく、俺はユウシャじゃない。
名前はアンクルだ」
「だから、アンクル様が勇者なんです!」
「は……?
アンクルだと言ってるだろ!」
おっさんは呆れたように口を開いた。
しかし、この時カティははっ!? とした。
まさかこのおっさんは、勘違いしているんじゃないかと。
「ま、まさかとは思いますが、アンクル様は勇者を人の名前だと勘違いされているんですか?」
「うん? 違うのか?」
カティは思った。
今回の勇者様はバカだと。
「違います!
勇者は職業です!
ほら、物語に登場する世界を悪者から救うあれです!」
「ユウシャって……ああ!
勇者のことだったのか?
あの雷の魔法とか使っちゃう感じの」
「はい!
そうです!
その勇者です!
勇者様も聖剣の力があればあのくらいできちゃいますよ!」
突拍子もない話だ。
樵だったおっさんが、勇者になるわけがない。
しかし、この剣に特別な力があることは先程目にしている。
「……俺、勇者になったの?」
「そうです!」
「またまた」
「じんじでぐだざいぃ~~~~~!!」
もう泣き落としだ! とばかりに、カティはおっさんに迫った。
「わ、わかった。
わかったから。仮に俺が樵から勇者にクラスチェンジしたとして、それで?」
「魔王を倒す旅に出ましょう!」
「却下。
仮に職業勇者だとしても、仕事は樵だ。
俺は木を伐採する」
「自然破壊反対です!!」
この妖精、もうヤケクソになっていた。
「俺は娘を守るだけで精一杯のおっさんだぞ?
魔王討伐になんて行けるか」
「大丈夫です!
聖剣の力を舐めてはいけません!
伊達に聖剣なんて名前じゃないんですよ!」
「洗濯すること以外、何か使い道があるのか?」
「いっぱいあります!!」
いっぱい! というのを全身でなんとか表現しようとするカティ。
「たとえば?」
「とても切れ味がいいので、なんでも切れます!」
「それは知ってる」
樵にとっては大助かりだ。
「怪我が瞬時に治ります!」
「マジで!?」
「マジです!!」
素で驚いてしまった。
意外と凄いんだなこの剣。
おっさんは、少し剣に興味が出てきた。
「他人の怪我を治したりはできないのか?」
「それは勇者様の職業レベルが上がれば可能です」
「職業レベル?」
それは聞き覚えない言葉。
しかし、それも当然だった。
「勇者様は聖剣の力によって、様々な恩恵を得ています。
その力の一つとして、この世界にあるもののステータスを確認することができます」
「ステータス?
なんだそれは?」
「個人の能力値ですね。
力が強いとか、魔法が使えるとか、そういうのがわかります。
試しに、私のステータスを見てみてください」
「どうや――」
どうやるんだ? と聞く前に、カティの詳細が頭の中に流れ込んできた。
※
○カティ
職業 最上級妖精
年齢 不明
・ステータス
レベル 188
体力 7
魔力 999
力 3
守り 3
魔攻 180
魔防 999
速さ 52
運 5
・プロフィール その1
聖剣の妖精。
妖精界でも最上級の非常に格の高い存在。
勇者を導く為に、妖精王がこの世界に遣わせた。
戦う力はないが、高い魔力の持ち主。
・プロフィール その2
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※
「なんだこれ?」
「それが私のステータスです。
能力値以外にも、相手の詳細がわかります」
カティは魔法関係の能力がとんでもなく高い。
魔法だけで言えば、魔術を極めた賢者と言われる者たちを遙かに凌ぐ能力値だ。
本来驚くべき能力なのだが、おっさんは全く気にした様子はなかった。
なぜなら彼は、カティに興味がないからだ。
「プロフィールが片方見えないのは何故なんだ?」
「勇者様の職業レベルがあがれば、その辺りも開示されるはずです。
ご自分のステータスも見てみてください」
おっさんは自分のステータスを意識してみた。
※
○名前 アンクル
職業 樵勇者
年齢 35歳
・ステータス
職業レベル 1
体力 76
魔力 0
力 58
魔攻 0
魔防 0
速さ 37
運 18
※
「なんだよ樵勇者って!
中途半端な職業になってるぞ!」
「それは勇者様がご自分を勇者と認めないからです!」
「そんな直ぐにあ~そうですかと言えるわけないだろ!
もう柔軟な思考が出来る年齢で――って、自分自身のプロフィールは出ないんだな」
「それは、詳細を知るまでもない。とご自身が認識されている結果だと思います」
自身のことは自身が一番良く分っているから。ということか。
「強く望めば、ご自身のプロフィール確認も可能かと思います。
こういった力以外にも、職業レベルさえ上げればもっと色々なことができるようになりますよ!」
「ほう……」
あまり役に立つ力ではない気がするが。
「ちなみに物のステータスを見ることもできます」
「へぇ」
おっさんは自身が持っている剣を見てみた。
※
○聖剣
装備可能者 勇者
装備可能レベル 1
・ステータス(上昇能力値)
体力 ???
魔力 ???
力 ???
魔攻 ???
魔防 ???
速さ ???
運 ???
・詳細 その1
勇者にのみ装備が許された聖剣。
無敵の力を得ることができる。
勇者の職業レベルが上がることで、聖剣は能力値が上昇する。
・詳細 その2
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※
「って、なんだこりゃ!?」
「やっとこの聖剣の凄さをわかってくれましたか!」
「ああ、数値が何もみえないから凄さがまったくわからないぞ!」
「……」
おっさんの言葉に、カティはズーンと肩を落とすのだった。




