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町へ出発

 朝食を終えたおっさんは、愛する妻と娘を見守りながらぽわわんとしていた。

 リリスは今、ソニアに抱っこされてにんまりしている。

 そんな娘を見て、おっさんの顔はアラフォーとは思えないほど弛(ゆる)んでしまった。


「あなた、今日はお仕事に行くの?」

「いくの~?」


 ソニアが尋ねてきた。

 母親の真似をして、おっさんに満面の笑み向けるリリスは天使可愛い。

 おっさんは、だらしない顔をさらに弛ませてしまう。


「いや、今日は休みなんだ」

「あら、じゃあ今日は一家団欒ね」

「あ……いや……」


 おっさんはどうしようか悩んでいた。

 今日はリルムと遊びに行こうという約束がある。

 その約束を破る気はないが、ソニアのこともある。


「どうかしたの?」

「したの~?」

「その……今日は、弟子と遊びに行くことになっているんだ」

「弟子……?」


 おっさんの弟子発言に、妻は首を傾げた。

 だが、それも当然だろう。

 ソニアはおっさんに弟子がいることを――


「ああ、リルムちゃんね!」

「そうだ――って、うん?」


 今度はおっさんが首を傾げる番だった。

 なぜソニアがリルムのことを知っているのだろうか?


「なぁ、ソニア。

 どうしてリル――」

「おかさん、すごいでしょ~!

 おとさんね、でしがいるんだよ~!」


 リリスが割り込むように口を開いた為、おっさんは疑問を口に出来なかった。


「うん、すごいね~。

 お母さんが知らない間に、お父さん出世したのね~!」

「しゅっせ~……?」

「偉くなったっていうことよ。

 とっても凄いことなの」


 樵に出世などあるのだろうか?

 おっさん自身、疑問に思ったが。


「ええ~!

 そうなのぅ!?

 おとさんって、えらいんだぁ~!」


 リリスがとても嬉しそうな顔をしたので、口を開けなくなった。

 まぁ、おっさんの稼ぎは自体は、聖剣のお陰で以前より上がっているので、多少は出世したと言えなくもないのかもしれない。


「ねぇ、あなた。

 それじゃあ今日はリルムちゃんと会うのよね?

 時間は大丈夫?」


 時間はまだ少し余裕がある。

 どうしたものか?

 おっさんは考える。

 この際、ソニアも一緒に連れて行くべきだろうか?

 だが……もしソニアを知人に見られたらどう説明する?

 何か大きな問題に繋がる危険があるのでは?

 おっさんがごちゃごちゃ考えていると。


「おとさん、でしとあうの?」


 リリスがおっさんに聞いた。

 うずうずと興味津々なようだ。

 前々から弟子――リルムに会いたがっていたから、気になっているのだろう。


「そうだよ。

 リリスも一緒に行こうな。

 弟子に会いたがってたろ?」

「良かったわねリリス。

 リルムちゃん、きっとお友達になってくれるわよ」

「……おかさんは?」

「う~ん……そうね。

 お母さんは、お家(うち)でお留守番してるわ。

 リリスたちが帰ってきた頃に、美味しいご飯を用意して待ってるから」


 穏やかな口調で伝えたソニア。

 だが、リリスは口をぎゅっと表情を暗くしてしまう。


「リリス、どうしたんだ?」


 心配になって、抱っこされているリリスに歩み寄るおっさん。


「……リリス、いかない……」

「え……?

 どうしたんだ?」

「リリスは、リルムちゃんに会いたかったんでしょ?」


 リリスは父母(ふたり)から目を逸らすと、ぎゅっとソニアにしがみ付いた。


「……おかさんが、いかないなら……リリスもいかない……」

「リリス……」


 ここまで聞いて、おっさんは娘の想いを理解した。

 リリスは母親と――ソニアと離れたくないのだろう。

 目を離したら、またソニアがどこかに行ってしまうんじゃないか?

 母が消えてしまうんじゃないか。

 それが不安で不安で仕方ないのだ。

 だからおっさんは、もう迷う必要はなかった。


「ソニア……お前も、一緒に来ないか?」


 おっさんも腹を決めた。

 最悪、知人に見られたらそっくりさんで通そう。

 声を掛けられた瞬間、ムーブで逃げるのも手だな。

 うん、きっとどうにかなるはず。


「……そうね。

 リリスが望んで、アンクルもそう言ってくれるなら。

 わかった。

 私も一緒に行くわ。

 それなら、リリスも来てくれるよね?」

「……うん!

 おかあさんがいるなら、リリスもいくよ!」


 悲しい顔は吹っ飛んで、リリスは眩しいくらいの笑顔を見せてくれた。

 娘が喜んでくれるならそれが一番だ。

 少なくとも父親(おっさん)と、母親(ソニア)にとっては。


「それじゃあ、お母さん、お出掛けする前にお弁当を用意しないと。

 ほっぺたが落ちちゃうくらい美味しいのを作るから!

 アンクルもリリスも楽しみにしていてね!」

「ああ」

「うんっ!

 た~のしみ~!」


 弁当と聞いて、おっさんは懐かしい想い浸ってしまう。

 ソニアの作った弁当を昼食に食べるのが、おっさんの毎日の楽しみの一つだったのだ。



        ※



 それからおっさん一家は出掛ける準備を終えて。


「じゃあ、行くか」

「うん!」

「あ、そうだあなた――」

「どうした?」

「お出掛け前にキスは必要?」


 ソニアは人差し指を自分の唇に当て、いたずらっぽく微笑んだ。

 おっさんは思わず、ドキッとしてしまう。

 こんな仕草も、昔と何も変わらないのだから。


「……」

「ふふっ、照れてるの?

 お仕事に行く前の日課じゃない?」

「……今日は、仕事じゃないからな」


 おっさんは顔を見られたくなかったので、後ろを向いてしまった。

 そんなおっさんの背中を見て。


「あら、残念ね。

 さぁリリス。

 お出掛けしましょうか」


 ソニアはリリスの左手を取った。


「うん!

 おとさんも、てつなぐの!」

「ああ」


 娘が伸ばした手を、おっさんもしっかりと握る。

 父母の間に挟まれたリリスは、順番に二人の顔を見上げにっこり笑うのだった。

更新遅くなっておりすみません。

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