家族三人で朝食
2月27日 更新2回目
話は少し遡り。
昨夜の出来事。
「お前は……誰なんだ?」
家の中にいる自分の妻を模した存在を警戒しながら、おっさんは尋ねた。
だが、
「あら、誰って失礼ね……。
あなたは愛する妻の顔を忘れたの!
だとしたら私、プンプンした後に泣いちゃうわ」
拗ねるように言って。
バタバタとおっさんに接近してきた。
流麗な青色の長髪がサラりと揺れる。
足を止めたソニアがおっさんを直視した。
淡い青色の瞳が、おっさんを見つめる。
少し垂れ目な、全体的にほんわかした優しい顔付きを見て、おっさんの心臓はドキリとした。
「忘れたなんて、言わないわよね?」
忘れるわけがない。
目の前の女性の容姿は間違いなくソニアだ。
顔も瞳も髪も声も身体も――その全てがおっさんの知る、自分の妻だった。
「ほら、アンクル。
疲れたでしょ?
お夕飯にしましょう」
ソニアはおっさんの手を取った。
そうして流されるままに居間に連れて行かれる。
『勇者様、彼女のステータスを確認してください!』
流されるままのおっさんに、カティが声を掛けた。
『そうか。
ステータスを見れば、何かわかるかも』
『そうです!
あの方がもし偽物なら、ステータスを見れば一発でわかります!』
今回ばかりは、おっさんよりもカティの方が遥に冷静だった。
その助言を聞き、ステータスを確認する。
※
○ソニア・フレイル
職業 アンクルの妻
年齢 28歳
種族 人間
・ステータス
レベル 8
体力 75
魔力 320
力 56
守り 38
魔攻 0
魔防 0
速さ 48
運 30
・プロフィール その1
アンクルの妻で、リリスの母。
22歳の時にアンクルと結婚。
家事全般が得意。
夫と娘の事が何よりも大切で愛している。
・プロフィール その2
ソニアには宝物があ――
※
『……魔力……320……!?』
驚愕するカティの声に、おっさんの思考が途切れた。
『勇者様、魔力の数値が高過ぎませんか……?
ソニアさんは生前、魔術を使えたのでしょうか?』
『そうだな。
多少は使えたと思う。
ソニアは俺と違って、ちゃんと学校に通って勉強もしてきたはずだからな』
『だとしても……少し魔力が高過ぎる気もしますが……』
『明らかにおかしいか?』
『いえ、人間でも生まれながらに魔力が高い者がいます。
なので絶対におかしいとは言い切れませんが……ただ、現状ではその点を除けば気になることはありませんでしたね』
カティの言葉に、おっさんは頷いた。
プロフィールに関しても、ソニアらしいものだった。
間違いなく、おっさんの知るソニアだ。
正直、現状では疑いようがない。
『まさか……あの剣が凄い力を使って、ソニアを蘇らせたとかじゃないよな?』
『それはありえ……ないと言い切れませんが、恐らくないと思います』
絶対にないと言い切れなかったのは、おっさんが勇者ではなく樵勇者という謎の職業の為だ。
『勇者様は蘇生の魔法などは覚えていませんよね?
それに、魂を繋ぎ止める為の身体がないんじゃないですか』
カティの言う通りだ。
この国では死者を荼毘に付す。
つまり……身体は残ってはいない。
「あなた、さっきから何を難しい顔してるの?」
「おとさん、おなかいっぱい?」
考え込むおっさんを、妻と娘が見つめていた。
「あ……いや……」
おっさんが言葉に窮していると。
――ぐぅ~。
お腹が鳴った。
「おかさん、おとさんのおなかなったよ!」
「お腹鳴ったね。
とっても大きい音ね〜!」
「うん、ぺこぺこみたい~」
妻と娘はえへへと、顔を合わせて笑う。
そんな二人を見て……。
『カティ、すまないが今日は考えるのはよそう』
『……勇者様』
少なくとも、悪い存在ではない。
おっさんはそう思えた。
だって、リリスがあんな風に笑うのだ。
まるで本当の母親を見るみたいに、純粋な笑みを向けているのだ。
目の前の女性が、本当にソニアなのかはわからないけど。
少なくとも、敵ではないと、そう思えた。
『……わかりました。
勇者様、悪い気配は感じませんが……それでも、油断はしないでください』
『わかってる』
カティとのやり取りの後。
「それじゃあ、みんなでご飯にしようか」
「うん……!」
「ええ」
おっさんと、リリスと、ソニア。
久しぶりに家族が揃った夕食が始まった。
その後、おっさんがお風呂に入っている時に、ソニアが乱入してくるなど。
ちょっとした出来事はあったが。
それ以外に大きな問題もなく一夜が過ぎた。
彼女の確かな正体はわからぬまま。
※
そんな夜の一幕があり。
「あさごは~ん!」
今に至った。
おっさんは状況に流されながらも、昨夜のように、家族で食卓を囲んでいた。
テーブルには色とりどりの料理が並んでいる。
その中でも、一つ目に止まる料理があった。
「これは……」
「あまいスープだぁ!」
懐かしい。
おっさんもリリスも同じ料理に反応してしまう。
ソニアがよく朝食に出してくれたコーンのスープが目に入った。
「二人が好きなもの、いっぱい作ったから。
たくさん食べてね!」
「うん!
たべるー!」
そうか。
並べられた料理は――二人の好物ばかりだった。
考えてみれば、昨夜もそうだ。
混乱していたから味を覚えていないが、思い返してみるとおっさんの好きな料理ばかりが並んでいた気がする。
「アンクルも、たくさん食べてね!」
期待に目を輝かせるソニア。
おっさんに料理を食べてほしい。
その気持ちが伝わってくる。
「ああ、いただきます」
「いっただきま~!」
おっさんとリリスは料理を口に運んだ。
「……」
美味い。
そして、懐かしい味が口の中に広がる。
たった一口食べただけなのに。
ソニアと一緒だった頃の日々が蘇ってくる。
「おっいし~!
おかさん、これね!
とってもおいしいの!」
リリスは無邪気に笑った。
とても幸せそうだ。
「そう、よかった。
お母さん、リリスに美味しいって言ってもらえて、と~っても嬉しい!」
これは、おっさんが望んでいた日常。
永遠に続くと思っていたはずの幸せな日々。
「あなたは、どう?
美味し――……アンクル?」
「うん……?」
ソニアが不思議そうに俺の名を呼んだ。
そのせいか、リリスも俺に目を向ける。
「おとさん……どしたの……?」
「どうしたって、何がだ?」
「いたいいたいなの……?」
リリスは不安そうだ。
どうして自分を見て、そんな不安そうなのだろう?
おっさんは疑問を感じていると、
「アンクル、涙が出てるわ」
「え……?」
指摘されて、おっさんは頬を拭った。
自分でも気付かないうちに、涙がポロポロと流れていた。
「あ……り、リリス、これは……」
愛しい娘を心配させたくなくて、おっさんは何か言おうとするも、言葉を詰まらせてしまっていた。
どうしたものか。
悩むおっさんの代わりに、
「リリス。
お父さんはね、お母さんの料理がと~って美味しくて、それで感動しちゃったのよ!」
妻が口を開いた。
「かんどう?」
「そう!
人はね、感動すると涙が出ちゃうのよ!
でも、それは嬉しい涙だから、いい涙なのよ!」
「いいなみだ?
じゃあ……おとさん、かなしくないの?」
「そうよ」」
「そっか~。
おかさんのごはん、おいしんもんね!」
「ええ。
でも、泣いてちゃご飯は食べられないからね。
アンクル、早く泣き止まないと、私とリリスでぜ~んぶ食べちゃうんだから!」
蘇る記憶。
いつもおっさんを気遣って笑っていたソニア。
記憶の中と同じ笑みを、彼女は今もおっさんに向けている。
「すまん……」
ソニアを失ってから、自分は何も成長していないな。
おっさんは、反省して涙を拭った。
「よし。
お父さんもい~っぱい食べるぞ!」
「二人とも、ご飯はちゃんと噛んで食べてね」
「うんっ!
かむ~!」
娘がいて、妻がいて、食卓に笑顔がある。
これは間違いなく。
おっさんが守りたかった。
望んでいた。
幸せな日常だった。




