リルム、薪を割る。
2月15日 更新1回目
リルムと合流しおっさんは仕事場に到着。
「リルム、これはお前の為に買った斧だ」
「あ……これ……あたしに……?」
昨夜、武器屋で買った斧をリルムに渡した。
子供でも十分使えるサイズだ。
「少し小さ目だが、刃はしっかりとしている。
だから木を切るにも問題ないはずだ」
「ありがとうございます!
ししょう、あたしうれしいです!
いっしょうけんめい、がんばります!」
狼耳をピンと立てるリルム。
斧をぎゅっと握り、気合い十分のようだ。
こんなに喜んでくれるなら、もう少ししっかりした斧を買うべきだったろうか?
おっさんはそんなことを思ったが。
リルムが一人前の樵になったら、改めて斧を贈るつもりでいたので今回は勘弁してもらおう。
「さてリルム。
樵も鍛冶屋とかと同じで職人の世界だ。
だからこそ俺は見て覚えろと言った。
それは覚えているな?」
「は、はい!」
だがしかし。
おっさんは聖剣で伐採をしていた。
一振りで伐採が完了してしまうのだ。
だからリルムにとって、なんの参考にもならなかったことだろう。
「だが今日はリルムのはじめての伐採だからな。
今回は特別にやり方を教えよう!」
「はい!
ありがとうございます!」
「いいか。
樵は危険な仕事だ。
倒れてきた木に押し潰されちまった同業者もいる」
おっさんは、伐採をする上での注意事項を話した。
リルムはそれを真剣な顔で聞いていた。
「で、今回だが。
いきなり木を切り倒すのは難しい。
何より危険だ。
だからリルムには薪割りをしてもらう」
「はい!
まきっていうのは、まるたをわったものですよね?」
「そうだ!
ちゃんとわかってるなんて偉いぞ」
「ししょうのはなしをきいて、おぼえました!」
狼耳をピンと立てたリルムの目は、キラキラと輝いている。
おっさんを見る少女の瞳は尊敬に溢れていた。
この目でじっと見られると、おっさんはちょっと怯む。
この少女に尊敬されるほど、おっさんは大したおっさんではないのだから。
「じゃあまずは丸太を用意するから、ちょっと待っててくれ。
後で改めて教えるが、伐採する時は木が倒れてくる方向に注意だ。
それを予め決めて切らないと、木に押し潰されることになるからな」
説明を終えて、おっさんは聖剣を軽く振った。
本来なら時間を掛けて切るはずの大木が、一瞬で伐採完了。
――ドシーン!!!!!!
地響きと共に木が倒れた。
力加減を間違うと、辺り一帯の木が倒れてしまうので注意が必要なのは相変わらずだ。
「ししょうのばっさいのぎじゅつは、なんど見てもすごいです!」
ちなみにこれは、伐採の技術が凄いのではなく聖剣が凄いのだが。
リルムにとってはどちらでも同じことだった。
聖剣を振っているのはおっさんなのだから。
「で、切り倒した木の枝を切り落として、この原木をさらに切る」
今回はリルムが丸太を割るということもあり、用意したのはちょっと短めで細い丸太だ。
太い丸太を割るには力と技術が必要だ。
太過ぎるとおっさんでも一撃で割るのは難しい。
とはいえ、今は聖剣があるので関係ないが。
「リルムにはこの丸太を割ってもらう」
「はい!」
リルムは丸太を持ち上げた。
そして、切り株の上に丸太を置く。
おっさんがそうやって薪割りをしていたのでそれを真似ているのだ。
仕事をするおっさんの姿を、リルムはしっかりと目に焼き付けていた。
だからまずは、見様見真似で斧を構える。
「斧が丸太に当たる時、しっかりと斧を握るんだ。
何度かやっていくうちにコツを掴めると思うが……。
とりあえず、振り下ろして丸太に当ててみな」
「はい!」
リルムは斧を振り下ろした。
だが、
「あうっ……」
スカッていた。
立てた丸太ではなく、切り株に斧が刺さる。
「まぁ、最初はそんなもんだな」
「すみません……」
「気にするな。
何度かやってるうちに出来るようになるさ」
「……はい!」
「じゃあ、もう一回やってみ」
「はい!
……あれ……」
元気のいい返事。
だがその後、
「し、ししょう……」
困惑した声。
「どうした?」
「ぬ、ぬけません……」
切り株に刺さった斧の刃。
リルムは、それをなんとか引っこ抜こうとするも抜けない。
「ああ……結構勢いよく刺さったからな。
よいしょ」
刺さった斧をおっさんは引っこ抜いた。
「すみません……」
「謝らなくていい。
何事も経験だ」
「……あたし、がんばります!」
おっさんの言葉にリルムは勇気付けられた。
それから暫くおっさんは、薪割りに奮闘するリルムを見守った。
『勇者様、勇者様!』
『なんだ?』
『ちょっとリルムさんのステータスを見てみてください』
そういえば、あれからリルムのレベルは上がったのだろうか?
おっさんは言われるままに、リルムのステータスを見た。
※
○名前 リルム
種族 狼人
職業 樵勇者の弟子
年齢 10歳
・ステータス
職業レベル 2 → 5
体力 20 → 36
魔力 0 → 0
力 16 → 30
魔攻 0 → 0
魔防 0 → 0
速さ 22 → 37
運 8 → 9
※
レベルが3つも上がっていた。
そして相変わらず運の成長率の悪さ。
だが上がっただけマシなのかもしれない。
『成長が早いですね~。
この調子なら直ぐに私が見えるようになるかもしれません』
『どれくらいで見えるようになるんだ?』
『恐らくですがレベル10にもなれば』
『あと数日もあれば、そのくらいにはなりそうだな』
『ただ、レベルは上がるに連れて多くの経験値が必要になります。
なので徐々に成長は遅くなっていくと思います』
職業レベルというのはそういうものらしい。
今までステータスなどという概念すら知らずに生きてきたおっさんにとって、なんだか不思議なものだが、誰かの成長を数字で確認できるのは面白いものだ。
少しずつでも、確実に成長していくのがわかるのだから。
ザクッ――カタン。
「あっ!
ししょう、われました!
あたし、まきわりできました!」
パッカーンと綺麗に割れた丸太。
数度目の挑戦の末、少女は薪割りに成功した。
「おお、思っていたよりも早かったな。
最初は丸太に当たっても割れないと思ってたんだが」
「ししょうのおかげです!
まるたにあたるときに、しっかりにぎってぶつけたらわれました!」
薪を割るなんてこと、他者から見れば大したことではないだろう。
だが、この少女にとっては大きな出来事だった。
おっさんから――少女の師匠から学んだ大切なこと。
だから少女は心の底から笑顔を見せる。
嬉しくて嬉しくて仕方ない。
そんな顔をリルムはおっさんに向けていた。




