リルムVSサラリナ
2月15日 更新二回目
昼時。
ムーブで町に飛び、道具屋で薪を売った。
今日の食事をどうするか?
おっさんは考えていると、
「ししょう……きのうのおみせにいってもいいですか?」
「竜撃亭にか?」
「はい!
サラリナさんのりょうり、たべたいです!」
「ああ……。
そういえば、そんな約束してたな」
竜撃亭の看板娘サラリナ。
可愛らしく明るく、真っすぐな女の子。
だが……彼女の料理は死ぬほどマズい。
正直、それをリルムが食べるのはどうかと思う。
しかし……。
「♪~」
るんるん。
そんな擬音が聞こえてしまいそうなほど、リルムは尻尾を振っていた。
ふりふりくるくる。
竜撃亭に行きたい。
サラリナのご飯が食べたい。
純粋な瞳で俺にそう訴えてくる。
「……じゃあ、行くか」
「はい!」
そんなリルムの姿を見て、おっさんが断れるわけがなかった。
※
竜撃亭に到着すると。
「あ、アンクルさんに、リルムちゃんも!」
「こんにちは!」
「もしかして、わたしの料理を食べに来てくれたの?」
「はい!」
「……リルム。
言っとくけど、腹壊しても知らないからね!」
カウンターから、ミランダが心配そうな声を投げ掛けた。
「だいじょうぶです!」
リルムはそう言うが。
おっさんをはじめ、竜撃亭の女主人ミランダも不安そうだ。
死ぬことはない……。
それはおっさん自身が実証済みだ。
だが、以前彼が食べた時は、暫く筆舌しがたい味が残り、それから数日間は悪夢が続いた。
サラリナがおっさんにお代わりを持ってきて、オドロオドロシイ色をした物体を口に流し込む。
夢のはずなのに味があり、あまりのマズさに飛び起きてしまうほどだった。
その味は明確に今も思い出すことが出来るほど、鮮烈におっさんの記憶に刻まれていた。
それ以降、彼女の料理はおっさんのトラウマになっている。
「本当に……いいんだな?」
改めておっさんは確認を取る。
「アンクルさん、さっきから失礼!
ちゃーんと食べられる物だけで料理してるんだから!
お母さんのドラゴンの尻尾焼きより全然マシだよ」
若さゆえの自信なのかもしれないが。
サラリナの料理への自信は過信を超えて愚かだ。
おっさんは冷や汗だらだらだった。
「さ、完成!
どうぞ、リルムちゃん」
皿に盛られた青紫色の料理。
それは素材の原型を留めていない。
まるでスライムのような、どろっとした物が皿に乗っている。
「お、おい……まさか、ありゃあサラリナちゃんのゲテモノ料理じゃないか!?」
「み、みたいだな……。
挑戦者は誰だ……?」
店の客たちまで、青ざめた表情に変わった。
さらに、
「まさか、あの小さな子が挑戦者か!?」
「正気かっ!?
どうなっても知らんぞ!?」
リルムのような少女が挑戦者だと知り、店中に戦慄が走る。
サラリナの料理のマズさは、この店の常連たちの間では有名のようだ。
『勇者様、あれなんですか?
食べ物なんですか?
人というのは時に恐ろしいものを創造してしまうのですね……』
妖精カティすらドン引きだった。
「サラリナさん、ありがとうございます!
いただきます!」
「はい、召し上がれ」
しかしリルムだけはその料理を見て満足そうだ。
やめろっ! とおっさんは喉の奥底から叫びかけた。
だが、それよりも早くリルムはスプーンを持ち。
流し込むように口の中にかき込んだ。
緊張で時が止まったように感じた。
全員がリルムの様子を見守る。
そんな中、
「もぐもぐ。
もぐもぐもぐ」
頬を膨らませてもぐもぐするリルム。
まだ異変は起こらない。
「どうリルムちゃん?」
もぐもぐするリルムに、サラリナが聞いた。
わたしの料理、美味しいでしょ! みたいな顔で尋ねているが、スライムを食わせておいて良くもまぁそんな自信を保てるものだ。
おっさんたちが感心していると、
「ごっくん」
もぐもぐしてごっくん。
リルムはあのとんでもない料理を呑み込んでしまった。
この場にいる全ての者たちに戦慄が走る。
狼人の娘は大丈夫かと。
「どうどう?
美味しい?」
興味津々のサラリナ。
だが、おっさんは思った。
美味いマズい以前の問題だと。
「リルム、大丈夫か?
身体に異変はないか!?」
「え……?
ししょう、どうしてそんなに、あわてているんですか?」
大慌てのおっさんに、リルムは不思議そうな顔を向けた。
「……リルム?」
「りょうり、とってもおいしかったです!」
驚愕の発言。
だがその言葉が嘘偽りないことは、リルムの顔を見ていればわかる。
「でしょ~!
実験作なんだけど、自信作でもあったんだから!
どうようどうよ、アンクルさんも食べる?」
食うかっ!
おっさんは言い返すこともせず。
「本当に本当に大丈夫か?」
「はい!
またたべたいです!」
「こりゃ……たまげたねぇ……。
あんた、きっと大物になるよ」
竜撃ミランダすらも感服していた。
リルムはもしかしたら、すごい子なのかもしれない。とおっさんは思った。
「と、とんでもねぇ新人が現れやがった!」
「あの子はなにもんだっ!?」
そしてこの日から――竜撃亭の馴染みの中で、リルムは鋼鉄の胃袋と呼ばれることになるのだった。
「じゃあリルムちゃん、次の料理もいっちゃう?」
「サラリナ、今日はもうやめときなっ!」
自分の料理を褒められて調子に乗るサラリナだったが。
ミランダに本気で止められて今日の昼食は終わりを告げた。




