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おっさん、妖精にしてやられる。

2月14日 更新5回目。

 次の日。

 おっさんは娘と一緒に朝食を済ませ、家を出ようとした。


「じゃあ、行ってくるな」

「おとさん、まって~!」


 珍しく、娘がおっさんを引き止める。


「どうしたんだ?」


 おっさんは膝を突き、娘と視線を合わせた。

 すると、


「ちゅ」


 そう言って、娘がおっさんのほっぺにチューをした。


「……!?」

「えへへ。

 おとさん、いってらっしゃ~い!」


 娘は今日も天使だった。

 そしておっさんは、娘の為に今日も頑張ろうと思えた。

 日頃、溜まっている疲れが一瞬で吹き飛んでしまう。


 ……そういえば、妻が生きていた頃は……こんな風にしていたっけ。


 懐かしい記憶が蘇りかける。

 だが、おっさんはその記憶を振り払った。

 リリスは自分の母がおっさんにしていたことを、思い出したのかもしれない。

 それはうろ覚えに違いないけれど。 


「ありがとう、リリス。

 それじゃあ行ってくるな」

「うん!

 おとさん、がんばって~!」


 娘に応援され、おっさんは幸せな気分で家を出た。


「おう、カティ!

 今日も素晴らしい一日だな!」

「……急になに言ってんですか……?」


 今日も今日とて、外で見張りをしているカティ。


「剣の見張りはいいんじゃないか?

 結局、その剣は俺以外は誰も引き抜けないという事で納得してただろ?」


 聖剣は勇者(おっさん)にしか引き抜けない。

 カティ自身が言っていたことだ。

 そしておっさんは毎日、聖剣を庭に突き刺している。

 だから誰かに聖剣を持ち去られる何てことは絶対にないのだ。


「それでも私は聖剣が心配なんです。

 あと、また魔物が出るのではないかと警戒していました」


 おっさんたちの住む地域は魔物の数は少ない。

 勿論、全くいないわけではない。

 だが、この間のように魔物が押し寄せることなどほとんどないだろう。


「ま、夜は多少は魔物が出ることもあるだろうからな。

 リリスの為にも警戒を頼むぞ!」

「了解しました!

 とはいえ、聖剣の浄化の力か魔物の気配はかなり薄まっていますが……。

 娘さんもいるのでまた家全体に魔法をかけておきますね」


 カティが魔法を唱える。

 日頃から鍵は絶対に開けなくていい。

 それは伝えてあるものの。

 娘一人を残して外に出るのは、おっさんにとっては非常に心配だった。

 しかし、小さな娘を仕事場に連れていくわけにもいかない。

 賢くおっさんの言うことをちゃんと聞いてくれる娘だが、目を離した隙に万一どこかにいなくなってしまうなんて可能性もゼロではないからだ。

 命より大切な娘を、信頼して預けられるほど深い仲の者もいない。

 結果的におっさんは、小さな娘をお留守番させなくてはならないのだ。

 町からも離れたこの家の場所を知っている者はいない為、おっさんと娘を除いて誰もこの辺りには立ち寄らないから、その点は安心ではあるのだけど。


「娘を守るためにも警備は万全のほうがいいな。

 これから毎日頼むぞ!」

「はい!

 って……あれ?

 私……何か目的を忘れているような?」

「何を言ってるんだ。

 お前の役目は俺の娘の安全を守ることだろ?」

「……それは、もちろんですが……」


 カティはいい奴だが、少しアホだな。とおっさんは改めて思った。


「さて、それじゃあ行くか」

「はい!

 って――そうです勇者様!

 娘さんのことが大切なのはわかりますが、少し冒険に出ることも考えておいてくださいね!」

「わかったわかった」


 ちっ……思い出してしまったか。

 おっさんは面倒に思いながら、適当に返事をする。

 少なくとも今は、冒険に出ることはないだろう。

 勿論、魔王が娘の障害にでもなるなら別だが。




        ※




 町に到着すると、既に門の前にリルムがいた。


「ししょう、おはようございます!」

「おはよう、リルム」

「リルムさん、おはようございます!」


 なぜかカティも挨拶をした。


「あれ……?」

「どうかしたのか?」

「いえ、あの……今、なにかきこえませんでしたか?」


 リルムはきょろきょろと周囲を見回す。


「う~ん……だれかのこえがきこえたような……」

「俺の声じゃないのか?」

「おんなのこのこえ……だったとおもうんですけど……」

「女の子……?」


 おっさんも周囲を見回すが、女の子などどこにもいない。


「女の子の亡霊でもいたのでしょうか?

 もしかしたら、勇者様を狙って――」

「やっぱり!

 おんなのこのこえがきこえます……」

「え……?」


 まさか……と思い、おっさんはカティに目を向ける。


「なんです勇者様……?」

「……ししょうのちかくで、こえがきこえるきがします!」

「え……もしかして……私の声が聞こえてるんですか?」


 カティもやっと気付いたようだ。


「ししょうには、きこえませんか?」

「う~ん……俺には聞こえないぞ。

 多分、気のせいだろ?」

「……そうなんでしょうか?」


 だが、リルムにはカティの声がはっきりと聞こえるわけではない。

 ぼんやりと聞こえるだけのようだ。

 しかし、どうなっているのだろうか?

 そうおっさんが疑問に思っていると、


「多分、リルムさんが勇者様の弟子になったからだと思います」


 カティが勇者の耳元でこっそり囁(ささや)く。

 おっさんの弟子になったリルム。

 それは樵(きこり)の弟子になったことであり、勇者の弟子にもなったということでもある。


「職業――樵勇者の弟子ですから。

 職業レベルが上がれば、いずれは私の姿も目視できるかもしれません」


 なるほど……。

 だがレベルが低い間は、この妖精の声はリルムにとっては幻聴と同じか。


「リルム、俺も直ぐに行くから先に仕事場に向かっててくれ」

「え……あ……はい!

 わかりました!」


 おっさんの言葉に素直に従うリルム。

 そして門の前で一人になったおっさんが、


「おいカティ。

 お前、暫く口を開くな」

「え~~~!?

 ど、どうしてですかっ!?」

「今のお前の声はリルムにとって幻聴と同じだ!

 そんな気持ち悪いものが聞こえたら可哀想だろっ!」

「げ、幻聴!?

 聖剣の妖精である私の声の、どこが気持ち悪いと言うんですかっ!」

「レベルが上がってお前の姿が見えるようになるまでの間だけでいい!

 我慢しろっ!」

「ぐぬぬぬ……我慢したら、何かご褒美はありますか?」


 褒美をねだってくるとは、卑しい妖精だ。

 だが、仕方ないか。


「魔王を倒しに行けという頼み以外なら聞いてやる」

「……わかりました。

 その条件でいいです。

 もし破ったら、娘さんにお父さんは嘘吐き勇者様ですって言いますからね!」


 なんて妖精だ!

 おっさんは逃げ道を塞がれた。

 娘に嘘吐きだと思われるわけにはいかない。

 日頃から娘には、嘘はいけないことだと伝えているのだから。


「いいだろう」

「では契約成立です!

 後、お伝えしていたかわかりませんが、勇者と妖精は口を開かずとも会話することが可能です!」

「は?」

『伝えたいことを思うだけでいいんです。

 こんな感じで会話できます!』


 頭の中にカティの声が響いてきた。

 あまり感じたことがない変な感じだ。


『聞こえてるか?』

『はい!

 ちなみに距離が開くと効果はなくなりますので』

『なるほど……って、ちょっと待て!

 だったら最初からこうやって話せばいいじゃねえかっ!

 無効だ! さっきの契約は無効!』

『ダメです!

 もう契約済みです!

 嘘吐き勇者様でいいんですか?

 娘さん悲しみますよ!』


 おっさんは見事、カティにハメられた。

 娘を盾にされては、おっさんは無力。

 何せ彼は、娘を何よりも溺愛しているお父さんなのだから。


『それに、いちいちこんな風に話すの面倒じゃないですか。

 コミュニケーションは口と口でするべきです』


 なんとなく説得力があるようなないような。


『私はリルムさんのレベルが上がるまでは口は開きません。

 なので何かあれば、こうやって話し掛けてくださいね』

『わかった……』


 今回ばかりはカティに軍配が上がった。

 話も終わったところで、おっさんはリルムを追うのだった。

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『フライパン無双~とある呪いを解く為に、冒険者になりました~』
もしよろしければ、ご一読ください。
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