おっさんの選択
2月12日3度目の更新です。
「だ、だめかな?」
「ダメ……というか、随分と唐突だな」
「あたし、お金をかせがないといけないんだ。
ウチ、おかあさんがびょうきではたらけないから……でも、今のあたしができることなんてあんまりなくて……」
年齢的には勿論。
貧民街出身という身分的にも、確かにリルムが働くことは難しい。
「だから、俺の下で樵になる為の修行を積みたいと?」
「……うん。
そうしたら、お金がかせげるようになれるでしょ?」
樵に資格はいらない。
勿論、私有地や国の指定する禁止区域で伐採を行なえば罪になるが。
やる気と技術さえ身に付けることが出来れば樵になることができる。
ただ、
「樵の仕事ってのは技術もいるが、基本は力仕事だ。
はっきり言って、女の子がやるような仕事じゃない」
「で、でも……」
「割った薪を町に持って帰ってくるだけでも重労働だ」
言っておっさんは、背負子を下ろした。
「これ、背負えるか?」
「……せおえたら、あたしをでしにしてくれる?」
「その時は考えてもいい」
「わかった!」
リルムは背負子を背負おうとした。
「ふうん! ううううううううんっ!!」
だが、小柄な少女の力では持ち上がりすらしない。
「もちあがれ!
もちあがれええええええええっ!」
力いっぱい、背負子を持ち上げようとしても、リルムの力ではどうにもならない。
背負子だけならともかく、薪がはみ出るほどに積んである為だ。
リルムの力では背負い上げることは難しいだろう。
「無理だろ?」
「む、むりじゃない!
もうちょっと、もうちょっとでもち上がるからっ!」
リルムは一生懸命だった。
本気だった。
おっさんにも少女の真剣さは十分伝わった。
だが、やはり力のない少女に樵は無理だと感じてしまう。
「ぐううううう、なんで、なんでもち上がってくれないの!!」
泣きそうなリルムを見ていると、カティは胸が痛んだ。
「勇者様、少しくらいなら教えてあげてもいいんじゃないでしょうか?」
「……」
おっさんも当然、その気持ちはあった
情けをかけるべきでもないと思っているが。
この子が樵になりたいと口にしたのは自分のせいだ。
希望を見せてしまった責任が自分にはある。
だからこそ、おっさんは迷っていた。
そして、その迷いのせいで一つの奇跡が起きた。
「んんんんんんんんんああああああああああっ!!」
「なっ!?」
「えええっ!?」
ガクッ!! と積まれている薪が揺れた。
おっさんとカティは同時に驚愕の声を上げた。
信じられないことに、背負子が持ち上がったのだ。
「え……あ――も、もちあがった!
もち上がったよおじさんっ!!」
「な、なんで?」
理由はあった。
しかし、それをおっさんが気付くことはない。
自分でも気付かないうちに、彼はチャージをリルムに使用していたのだ。
背負子を持ち上げようとしていたリルムは、チャージの効果で少しの間だけ力が上昇した。
一生懸命頑張る少女の姿を、おっさんは放っておくことができなかったということなのかもしれない。
「ぁ……」
直ぐに重さに耐え切れなくなり、リルムは尻餅をついた。
だが、持ち上がってしまったのは事実。
「今直ぐには無理でも、この子が成長したら今より身体も大きくなると思いますし、力も強くなるんじゃないでしょうか?」
「……確かにな」
狼人のような亜人の身体能力は人より優れている。
もしかしたら、近いうちおっさんより力持ちになる可能性はゼロではない。
教えるだけならいいのかもしれない。
それで無理そうなら、リルム自身も諦めがつくはず。
「も、もち上げたよ!
お、おじさん、うそはつかないよね?
あたしをでしにしてくれる?」
不安そうな目でおっさんを見るリルム。
「あたし、なんでもするよ!
がんばるから!
だから、おじさん!!」
「……いいかリルム、一つ教えておく。
弟子は師匠をおじさんとは呼ばないぞ」
「あ――は、はい! ししょう!」
「明日、8時に町の正門の前で待ってろ。
基本的なことから教えていくから」
「あ、ありがとうございます!!」
夕暮れの町中に、嬉しそうなリルムの声が響く。
これが樵勇者の弟子の誕生だった。
※
○名前 リルム
種族 狼人
職業 樵勇者の弟子
年齢 10歳
○ステータス
職業レベル 1
体力 12
魔力 0
力 7
魔攻 0
魔防 0
速さ 15
運 8
○プロフィール その1
貧民街出身。
母親と一緒に暮らしている。
憧れの人は師匠。
※
おっさんが確認したわけではないが、彼女の現在のステータスだ。
少し遅くなったが、それから直ぐに薪を売り買い物を済ませたおっさんは町の正門に出ていた。
そんなおっさんをリルムが見送る。
「じゃあな、リルム」
「はい、ししょう!」
「ああ」
「ししょう――!」
「なんだ?」
「あ、あの――名まえをおしえてもらってもいいですか?」
「名前……そういえば教えてなかったな」
少女の名前だけを勝手に調べておいて、自分の名前を伝えるのを忘れていた。
「俺はアンクル――アンクル・フレイルだ」
「アンクル……ししょう」
「じゃあなリルム」
おっさんは背を向けて去っていく。
今日もリルムはおっさんの背中を見送る。
だが今日と昨日では少女の心境はまるで違った。
昨日は、少女の心の中は温かい気持ちと感謝の心、そして少しばかり寂しさがあったのだが。
今日は寂しさが消えて、温かい気持ちでいっぱいになっていたのだから。
出来れば今日中にもう1話更新するかもです。
平日も更新させていただきますので、よろしくお願いいたします。
ご意見、ご感想お待ちしております。