その4(最終話)
聖堂前。
既にティスカとザイバーは外に出ていた。今日、三人揃って元の星に連れて行ってもらうのだ。別れの挨拶に、ラカーレ達も来ていた。
「俺らのこと、忘れるなよ。特にリコちゃん」
「おい、ラカーレ、よせ。あたしのことも忘れるなよ」
「僕のことも、サーベスティアのことも忘れないで欲しい」
「忘れないよ。それより、いままでありがとう」
私は明るく挨拶した。
「こちらこそ」
「ラカーレ。学校サボるなよ」
ティスカが厳しく言った。
「なんだよ、別れの言葉がそれか?」
「そろそろいいか?」
ミシェンが私達に声を掛けた。
「もう行っちゃうの?」
私はラカーレ達に訊いた。メルタが、
「仕事があるんでね。ラカーレは違うけど」
と残念そうに言った。
「そうですか。みんな、元気でね! さようなら!」
「さようならー!」
皆は、手を振りながら帰っていった。私達も手を振り返した。
異世界の三人と、ミシェンだけが残った。
「みんな、お別れだな」
「ああ、絶対にみんなのこと忘れないよ」
「私も、絶対に忘れない」
私達三人は最後の言葉を交わした。
「まず、ティスカから。準備はいいか?」
「大丈夫」
「それじゃあしっかり掴まれ」
ティスカが私達に手を振って、ミシェンの腕を掴むとたちまち消えた。
「ただいま」
もう帰ってきたの、と驚いた。一分も経っていないと思った。
「次はザイバー。俺の腕に掴まれ」
「分かった」
二人が消えて、私一人だけになった。
しばらく待っていると、ミシェンが戻ってきた。
「最後は、リコ、だな」
「うん……」
「その前に、どっちがいい?」
先程撮った二枚の記念写真を見せてきた。
「私は一枚目がいいな」
「じゃあ俺は笑顔の可愛い二枚目のリコ、だな」
「もう、可愛い、可愛いって」
「本当のことだ」
私は照れた。
「大事に持ってろよ。俺達の大切な記念写真なんだからな」
「当然だよ。部屋に飾っておく」
「それじゃあ、掴まって」
「うん」
私は勢いよくミシェンの腕にしがみついた。
そのまま、街灯の下へ移動していた。
地球、日本、私の家の近くの街灯の下だ。外はもう真っ暗。家の中には母親がいるだろう。
「ねえ」
「何だ?」
「私のこと、好き?」
今まではっきり伝えていなかった、言葉では。
「決まってるだろ? 大好きだよ。一目見た時から好きだった」
「えっ」
「だから、どんなリコも好きだよ、愛してる」
そう言って、ミシェンは優しく私を抱き締めた。
私もミシェンの胸の中で、
「大好き。愛してる。ずっと、ずっと……」
「俺も、ずっと愛してる。絶対忘れないからな」
「私も、絶対忘れないよ」
零れた涙が頬を伝う。ミシェンの服が、私の涙で濡れてしまっている。
そして、私達は一旦離れ、見つめ合った。
ミシェンが体の角度を変える。私は背を伸ばす。
温かくて、やわらかいものが、唇に触れた。そして、もう一度。
再び見つめ合った。顔が赤くなり、そして、涙が零れる。
「もう、会えないんだね」
「……そういうことだな」
「また、地球に、ここに来てくれる?」
「分からない。でも、リコがいるなら来たい」
私は写真を持ってる右手を握り締める。そして、左手で強引に、ミシェンの右手を握った。
「本当に、楽しかったよ。サーベスティアのこと、みんなのこと、ミシェンのこと、みんな忘れない。絶対、絶対……」
泣き崩れる私に、優しくミシェンは両肩を掴んだ。
「俺も、俺も、全部忘れないよ。チキュウのリコ」
ミシェンも泣いている。
「じゃあ、元気で、な」
「ミシェン!」
私の肩から手をそっと外し、すっと消えた。
「ミシェン……」
私はそのまましばらく泣き続けた。もう二度と会えないかもしれない。大切な恋人を想って。
(名前、リコって言うんだ。教えてくれてありがとう)
(あーあ、母さんのせいで可愛い寝顔が無くなっちゃったじゃないかよ)
(これが、六色の樹、正式に言えばサベスの樹だ)
(今どこに住んでいるんだ? 何故出ていった?)
(決まってるだろ? 大好きだよ。一目見た時から好きだった)
(じゃあ、元気で、な)
ミシェンの言った言葉たちが頭の中を駆け巡る。出会いがあるから別れがある。これって酷いよ。永遠に一緒にいたかったよ。
私の横を車が通る。
私のお母さんが待っている。
私は涙が出てこなくなるのを待った。家族に会いたい、家族に会いたい。そう思うようにしてひたすら涙が止まるのを待った。
どれくらい経っただろうか。二十分は掛かったか。やっと落ち着いた。
私は笑顔を作った。そして、家の玄関の前に立った。インターフォンを押す。すぐにドアが開いた。
「リコ!」
「お母さん、ただいま!」
私は威勢よく言った、記念写真をしっかりと掴んで。
了
ここまで読んで下さって、本当にありがとうございました。
中学生の時に小説を書いて以来の作品なので、無事完結できるか不安でした。
次はこの作品に負けない位の小説を書きたいと思っていますので、お楽しみに。




