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愛だけを失った世界「サーベスティア」  作者: 佐々木 綾
第7章 大切な人、別れ
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その4(最終話)

 聖堂前。

 既にティスカとザイバーは外に出ていた。今日、三人揃って元の星に連れて行ってもらうのだ。別れの挨拶に、ラカーレ達も来ていた。

「俺らのこと、忘れるなよ。特にリコちゃん」

「おい、ラカーレ、よせ。あたしのことも忘れるなよ」

「僕のことも、サーベスティアのことも忘れないで欲しい」

「忘れないよ。それより、いままでありがとう」

 私は明るく挨拶した。

「こちらこそ」

「ラカーレ。学校サボるなよ」

 ティスカが厳しく言った。

「なんだよ、別れの言葉がそれか?」

「そろそろいいか?」

 ミシェンが私達に声を掛けた。

「もう行っちゃうの?」

 私はラカーレ達に訊いた。メルタが、

「仕事があるんでね。ラカーレは違うけど」

 と残念そうに言った。

「そうですか。みんな、元気でね! さようなら!」

「さようならー!」

 皆は、手を振りながら帰っていった。私達も手を振り返した。

 異世界の三人と、ミシェンだけが残った。

「みんな、お別れだな」

「ああ、絶対にみんなのこと忘れないよ」

「私も、絶対に忘れない」

 私達三人は最後の言葉を交わした。

「まず、ティスカから。準備はいいか?」

「大丈夫」

「それじゃあしっかり掴まれ」

 ティスカが私達に手を振って、ミシェンの腕を掴むとたちまち消えた。

「ただいま」

 もう帰ってきたの、と驚いた。一分も経っていないと思った。

「次はザイバー。俺の腕に掴まれ」

「分かった」

 二人が消えて、私一人だけになった。

 しばらく待っていると、ミシェンが戻ってきた。

「最後は、リコ、だな」

「うん……」

「その前に、どっちがいい?」

 先程撮った二枚の記念写真を見せてきた。

「私は一枚目がいいな」

「じゃあ俺は笑顔の可愛い二枚目のリコ、だな」

「もう、可愛い、可愛いって」

「本当のことだ」

 私は照れた。

「大事に持ってろよ。俺達の大切な記念写真なんだからな」

「当然だよ。部屋に飾っておく」

「それじゃあ、掴まって」

「うん」

 私は勢いよくミシェンの腕にしがみついた。

 そのまま、街灯の下へ移動していた。

 地球、日本、私の家の近くの街灯の下だ。外はもう真っ暗。家の中には母親がいるだろう。

「ねえ」

「何だ?」

「私のこと、好き?」

 今まではっきり伝えていなかった、言葉では。

「決まってるだろ? 大好きだよ。一目見た時から好きだった」

「えっ」

「だから、どんなリコも好きだよ、愛してる」

 そう言って、ミシェンは優しく私を抱き締めた。

 私もミシェンの胸の中で、

「大好き。愛してる。ずっと、ずっと……」

「俺も、ずっと愛してる。絶対忘れないからな」

「私も、絶対忘れないよ」

 零れた涙が頬を伝う。ミシェンの服が、私の涙で濡れてしまっている。

 そして、私達は一旦離れ、見つめ合った。

 ミシェンが体の角度を変える。私は背を伸ばす。

 温かくて、やわらかいものが、唇に触れた。そして、もう一度。

 再び見つめ合った。顔が赤くなり、そして、涙が零れる。

「もう、会えないんだね」

「……そういうことだな」

「また、地球に、ここに来てくれる?」

「分からない。でも、リコがいるなら来たい」

 私は写真を持ってる右手を握り締める。そして、左手で強引に、ミシェンの右手を握った。

「本当に、楽しかったよ。サーベスティアのこと、みんなのこと、ミシェンのこと、みんな忘れない。絶対、絶対……」

 泣き崩れる私に、優しくミシェンは両肩を掴んだ。

「俺も、俺も、全部忘れないよ。チキュウのリコ」

 ミシェンも泣いている。

「じゃあ、元気で、な」

「ミシェン!」

 私の肩から手をそっと外し、すっと消えた。

「ミシェン……」

 私はそのまましばらく泣き続けた。もう二度と会えないかもしれない。大切な恋人を想って。

(名前、リコって言うんだ。教えてくれてありがとう)

(あーあ、母さんのせいで可愛い寝顔が無くなっちゃったじゃないかよ)

(これが、六色の樹、正式に言えばサベスの樹だ)

(今どこに住んでいるんだ? 何故出ていった?)

(決まってるだろ? 大好きだよ。一目見た時から好きだった)

(じゃあ、元気で、な)

 ミシェンの言った言葉たちが頭の中を駆け巡る。出会いがあるから別れがある。これって酷いよ。永遠に一緒にいたかったよ。

 私の横を車が通る。

 私のお母さんが待っている。

 私は涙が出てこなくなるのを待った。家族に会いたい、家族に会いたい。そう思うようにしてひたすら涙が止まるのを待った。

 どれくらい経っただろうか。二十分は掛かったか。やっと落ち着いた。

 私は笑顔を作った。そして、家の玄関の前に立った。インターフォンを押す。すぐにドアが開いた。

「リコ!」

「お母さん、ただいま!」

 私は威勢よく言った、記念写真をしっかりと掴んで。


                  了

ここまで読んで下さって、本当にありがとうございました。

中学生の時に小説を書いて以来の作品なので、無事完結できるか不安でした。

次はこの作品に負けない位の小説を書きたいと思っていますので、お楽しみに。

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