↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第16章 永久の愛と紡ぐ意思
PR
98/120

第98話 時を架ける虹の橋

 ――誰かが、見ている。


 振り返ると、リファーナさんが神妙な面持ちで僕を見つめていた。


 「リファーナ……さん?」


 いつもの優しいリファーナさんとは違う。

 胸の奥に、ざわめきが走る。


 「私が相手よ……」


 その瞳には、リュウさんの想いを受け取った僕を“次の段階へ送り出す”意思が宿っていた。

 リファーナさんは、静かに一歩前へ進む。


 「ロキ。これは魔導士としての、私の本気。

  これくらい乗り越えなければ……未来では勝てないわ。」


 リファーナさんは長杖をゆっくりと天へ掲げた。


 ――軍庁舎の空気が、わずかに沈む。


 リファーナさんは静かに息を吸い、澄んだ声で詠唱をはじめた。

 その声は澄んでいるのに、空気の奥底が震えるほどの“力”があった。


 「清流の根源たる水の精霊よ……光の女神アルテミナの御名のもとに集い、全てを浄めよ。

  我が身を依り代とし、穢れを浄化する奔流となれ!」


 これは、かつてアミリアが“水の賢者”を襲名したときに放った賢者の魔法。

 僕とアミリアの距離を象徴し、そして、僕とアミリアの距離を絶対的にしたあの超魔法だ。

 

 長杖の先に、青白い光が凝縮していく。


 リファーナさんはちらりと僕を見た。

 その瞳には、大賢者としての厳しさと、落ち着いた優しさが同時に宿っていた。


 「ロキ。魔法世界に対して、あなたがずっと胸の奥に隠してきた弱さ――自分の勇気で断ち切りなさい」


 その声音は静かだった。だが、僕の心の弱さを見逃さない。


 「男なら、乗り越えなさい。そして……好きな女くらい、自分の手で攫っていらっしゃい」


 普段は穏やかで理知的な彼女の奥に、優しさと、突き放すような厳しさが宿っていた。

 

 「―――けれど、私の魔法はあなたの好きな"小娘の水遊び”とは違うわよ」


 その横顔に、わずかに意地悪な、試すような笑みが浮かんだ。


 大賢者の使う魔法、おそらく、僕の時代の魔法使いが誰も見たことのないもの。

 

 「顕現せよ――《ネル・リヴァイア・サンクティア》」

 

 その瞬間、リファーナさんの身体から放たれた魔力が、軍庁舎全体を揺らすほどの衝撃となって押し寄せた。


 空気が震え、床の石が軋み、幾重にも張られた魔法障壁が青く光る。

 リファーナさんが掲げた長杖から、巨大な水の奔流が天へと立ち上がる。


 その中から、かつて見た、美しく、優雅で、そして恐ろしいほど荘厳な“水竜”が姿を現した。


 かつてアミリアが呼び出した水竜と同じ……

 

 ――違う。


 水竜の奥に、もう一つの影が揺れた。一匹ではない、二つの気配。


 二匹の双竜は魔法兵団の障壁を紙屑のように裂き、庁舎の上空へと立ち上がる。


 突如として立ち上がった壮麗な水竜に、帝都の人々の驚愕の声が響く。


 双竜は風の加護をまとい、翼のように水流を広げ、嵐のような突風を吹き荒らす。


 それだけではない、双竜は雷光をまとっている。


 リュウさんが息を呑む。


 「……リファーナ様、本気で……!」


 リファーナさんの長杖が、ゆっくりと振り下ろされる。


 双竜は、その動きに従うように、僕へ向けて急降下した。

 双竜が咆哮し、その咆哮が空間そのものを震わせる。


 最強の魔導士の魔法が、僕へ向かってくる。

 

 ――だけど


 大賢者の魔法を目の前にしても、不思議と心は落ち着いている。

 まるで、魔法は断ち切れるものだと僕の体が理解しているようだ。 

 

 ――双竜が迫る。

 

 自然と言葉が出た。


「七理(しちり)の法剣(ほうけん)……虹(にじ)の刃(じん)……」

 

 乗り超えなければならない。


 「―――虹閃斬(こうせんざん)!」


 ――光る。


 身体が勝手に動いた。剣が光を裂くように抜ける。


 光が走り、オリハルコンの輝きと呼応するように虹の光を増幅させた。

 七色の光が爆ぜ、視界が揺らぐ。


 ――――


 次の瞬間、双竜の巨体が裂けた。


 咆哮が途切れ、巨大な水の身体が、虹色の残光を散らしながら崩れ落ちていく。


 僕は剣を下ろし、静かに息を吐いた。


 その直後、轟音とともに衝撃が走り、魔法障壁で守られていた庁舎の一部が崩れ落ちた。


 僕のすべてを見届けたリファーナさんは、優しい笑顔を浮かべ、瞳に涙をにじませながらつぶやいた。


 「頑張ったわね……ロキ……」


 その声を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなる。

 緊張がほどけていくのがわかった……


 ―――――


 静寂を割いたのは、帝国兵が駆けつける声だった。


 外から怒号が響く。


 「な、なにごとだ!エグザリアの残党か!?」


 「結界が破られたぞ!!」


 リファーナさんは、その騒ぎをまるで聞いていないかのように、静かに僕の持つ剣を見つめていた。


 きっとローディンさんを思い返していたのだと思う。


 「安心して。私の実験よ」


 士官たちが駆け込んでくる。


 「リファーナ……またお前か!何回庁舎を壊す気だ!!」


 リファーナさんは、満足そうな声でつぶやいた。


 「想像以上だわ……」


 士官の苦情など、まるで耳に入っていない。

 その声音は、長い旅路の果てに辿り着いた者のように静かで、どこか誇らしげだった。


 崩れた双竜の水が床に広がり、そこに差し込んだ光が虹をつくる。

 まるで、時を越えて架けられた橋のようだった。


 それは――勇者ローディンと大賢者リファーナ・ラズウェルの、永久の愛を静かに象徴しているかのようだった。


 ―――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。