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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第16章 永久の愛と紡ぐ意思
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第97話 挑む試練

 鍛冶場を後にすると夕日がさしていた。

 通りは、夕時のざわめきがゆっくりと落ち着きはじめている。


 夕陽が剣の鍔の金属を細く光らせた。


 鞘越しでも、手に残る重みがさっきより確かに感じられる。


 リファーナさんはその光を見て、ほっとしたように小さく息をついた。


 「帝国軍庁舎に行きましょう……」


 「軍庁舎に?今からですか」


 僕の剣へ視線を落とすリファーナさんの横顔は、さっきの柔らかさとは違う、鋭い緊張がにじんでいた。


 「仕上げよ……」


 リファーナさんは、言葉を選ぶように一度だけ息を整えた。


 「この剣は、超硬質のミスリル合金も断つことができる。

  つまり、あなたの世界を破壊した古代兵器ワルキューレの本体も切ることができるはずよ。」


 そう言いながら、リファーナさんの視線が僕の剣に落ちた。


 「でも、それだけじゃ足りない。

  この刃が“本当の力”を見せるには、物質だけでなく魔力を断ち切る"七理の法剣"を習得することが不可欠なの。」


 僕は息をのむ。


 リファーナさんはその反応を見て、静かにうなずいた。


 「ここに来てから、あなたがリュウさんから学んだローディンの剣技……

  あなたの力を見せてちょうだい。」

 

 短い沈黙が落ちた。


 リファーナさんは視線を上げ、覚悟を固めたように続けた。


 「帝国軍の魔導兵団の訓練場なら、幾十にも魔法障壁が張ってあるから、どれだけ暴れても大丈夫よ。」


 その声には、覚悟を共有する者の静かな重さがあった。

 

 僕はリファーナさんの後についていき、帝国魔導兵団の訓練場へ足を踏み入れた。

 魔導兵団の魔導士たちの訓練に耐えられるよう、幾十もの魔法障壁が重ねられている。


 その中央に、リュウさんの姿があった。


 「最後の試練ですね」


 リュウさんは静かに言った。


 「君の剣は、十分に基礎ができていた。

  それは君の師の指導と、なにより君自身の長年の努力によって養われてきたものです。

  私は……きっかけを与えたにすぎない。」


 リュウさんはわずかに目を伏せ、続ける。


 「カイエンの剣技は、火、水、雷、風、土、闇、そして“時”の七理から構成されています。

  火を切り、水を切り、ときには目に見えぬ闇すら断つ。

  しかし、長いカイエン国の歴史の中で、剣聖たる我が一族でも六理までの習得が限界でした」


 リュウさんの声が、ほんのわずか震えた。


 「アスピア皇国の地で“時の理”を悟り、七理を――七属性を断つ剣技を完成させ、時の剣聖と呼ばれた私の父に勝ったのは、勇者ローディン様ただ一人です。」


 ――その名を口にした瞬間、リュウさんはわずかに息を止めた。

 ゆっくりと目を伏せ、続ける。


 「卑しくも、剣聖の一族の風上にも置けない私に、ローディン様はこの剣技を授けてくださった。

  ……それはきっと、ローディン様の意思を継ぐ未来の剣士に、つなぐためだったのでしょう。」


 リュウさんはゆっくり顔を上げた。


 その目は、まっすぐ前を見据えている。


 「今は、これこそが、女神様が私に与えてくださった天命だったのだと思っています。」


 僕は、リュウさんの言葉を聞きながら、胸の奥が、静かに締めつけられるような感覚がした。


 ――ローディンさんはどうして、この人に自分の剣を受け継いだのだろうか。


 七理の法剣すら扱えるほどの剣士だが、戦いに向かないと剣聖の父親に見放されたという。

 その優しさが“欠点”だと言われた人が、誰よりも深く、剣を愛している。


 そして子供達を守ろうとしている。

 ローディンさんがリュウさんに自分の剣技を託したのは、きっと“強さ”で選んだのではないのだと思う。


 人を傷つけたくないという、その優しさこそが、虹の剣にふさわしいと。

 ローディンさんは、そう考えたのだと僕は思った。


 僕は、気づいたら口が動いていた。


 「……リュウさんは、優しい人です。子どもたちを必死に守ろうとして……」


 胸の奥が熱くなって、言葉が止まらなかった。


 「リュウさんは……逃げた剣聖なんかじゃありません。

  戦いに向かないって言われたのは、弱さじゃない。誰かを傷つけたくないっていう……その優しさのせいです。」


 リュウさんの目を見つめながら、僕は静かに続けた。


 「ローディンさんは、それを弱さだなんて思わなかった。

  だから……リュウさんに、自分の剣を継がせるべきだと考えたんだと思います。」


 リュウさんは、ふっと息を吸い込むようにして言った。


 「……ロキ君。君が来てくれて、本当に……よかった。」


 僕の胸の奥で、覚悟が固まるのを感じた。


 「リュウさん……僕は、リュウさんの“誇り”を、必ず未来へ運びます。必ず……守ります。」


 リュウさんは僕を抱きしめた。その瞳には、光が静かに揺れていた。


 「ありがとう、ロキ君。」


 僕たちの間に流れる沈黙は、もはや言葉ではなく、勇気と優しさの継承そのものだった。


 ――リュウさんのぬくもりの中、空気に“揺らぎ”が生まれた。


 「ロキ君。この試練を乗り越えることができれば、もはや、君は魔法を恐れることはない。

  ――――"世界最強の大魔導士"が、あなたの相手をして下さるのですから。」


 (……えっ?)


 その瞬間、空気が変わった。


 まるで時の流れそのものが、静かに息を潜めたかのように。


 ――――

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