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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第15章 時を超えて
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第88話 帝都の街並み

 リファーナさんは僕の肩にそっと手を置いた。


 「……少し、この世界を見ましょうか」


 そう言って、僕を建物の裏へと案内した。

 

 ――そこには竜舎があった。


 赤く輝く鱗、強靭そうな翼、静かに息をする巨大な影。


 「飛竜だ!」


 思わず声が漏れた。


 リファーナさんが、不思議そうにこちらを見る。


 僕は抑えきれずに口を開いた。


 「僕にも相棒の飛竜がいるんです。魔導学院の“飛竜のスカイレース”で優勝して」


 言いながら、少し照れくさくなる。

 出来損ないと呼ばれてきた自分が、胸を張れた唯一の場所だった。


 リファーナさんは、ふっと微笑んだ。


 「この子は、ローディンの相棒よ。私も……ローディンと何度も、この子に乗って大空を駆けたわ」


 懐かしむように、そっと飛竜の首を撫でる。


 「ローディンはね、いつも言っていたの。“落ちないように、しっかりつかまれ”って。それで……私、後ろからローディンをぎゅっと抱きしめて……」


 その記憶を思い出したのか、リファーナさんの頬が、ほんのわずかに赤く染まった。


 「私は、ローディンと空から見るこの世界がとても好きだった」


 微笑んでいるのに、その奥に、ほんのわずかな寂しさが滲んでいた。

 

 ――飛竜は、ゆっくりと首をもたげてこちらを見た。

 深い琥珀色の瞳が、まっすぐ僕を映す。


 その視線に、胸がどきりとした。


 でも、受け入れてくれている。


 そう感じた瞬間、飛竜は鼻先をそっと僕の胸元に寄せてきた。

 まるで「乗れ」と言っているように。


 リファーナさんが微笑む。


 「この子は、あなたを気に入ったみたいね」


 僕は頷き、飛竜の背に手をかけた。


 鱗は温かく、どこか懐かしい匂いがした。


 リファーナさんが先に跨り、僕に手を差し伸べる。


 「さあ、行きましょう」


 僕がその手を取った瞬間――飛竜の翼が、大きく、しなやかに広がった。


 風が巻き上がり、身体がふわりと浮く。


 次の瞬間、僕たちは 大空へと舞い上がっていた。


 眼下に広がるのは、二千年前の帝都。

 輝く森、ゆるやかに流れる大河、遠くに見える山脈の稜線。


 地形は、僕の世界と同じ。

 けれど、色も、空気も違って見える。


 リファーナさんの髪が風に揺れた。

 陽の光を受けて、金糸のようにきらめく。


 その横顔が、あまりに綺麗で……胸が熱くなった。


 飛竜は風を切り、帝都の上空へ滑るように進む。


 戦争の傷跡は確かに残っている。

 崩れた城壁。焦げた石畳。修復途中の塔。


 それでも、この世界は美しかった。


 僕は、ふっと息を吸い込んだ。


 「……アミリアと約束したんです」


 リファーナさんが、そっとこちらを見る。


 「アミリアは聖浄院から出られないから……いつか、二人で飛竜に乗って空から世界を見ようって……」


 言葉にした瞬間、胸の奥がきゅっと締まった。


 

 二千年前の空は、どこまでも澄んでいる。

 戦争の傷跡が残っているけど、それでも美しい。


 この美しさを、アミリアにも見せたい。

 心から、そう思った。


 飛竜が大きく翼を傾けた。

 風の流れが変わり、身体がふわりと沈む。


 ――降下だ。


 空気が頬を切り、景色がゆっくりと近づいてくる。


 帝都の屋根が連なり、街路が網のように広がり、人々の声が風に乗って届き始めた。


 飛竜は滑るように高度を落とし、最後にふわりと翼を広げて速度を殺す。

 そして、石畳の広場に静かに着地した。


 砂埃が柔らかく舞い、巨大な翼がゆっくりと畳まれていく。


 僕は思わず息を呑んだ。


 眼下に広がっていた景色が目の前にある。


 「ここが……二千年前の帝都……?」


 崩れた城壁、修復途中の塔、焦げた石畳、戦争の傷跡は確かに残っている。

 けれど街は明るかった。


 人々は笑い、商店は賑わい、宿屋の看板が風に揺れ、魔道具屋の店先には光る道具が並んでいる。


 ――その光景に、胸が熱くなる。


 「魔道具……!僕、魔導学院の魔工科なんです。……ただ、魔工科はダメな生徒の……」


 言いかけたところで、リファーナさんが少しむっとした顔をした。


 「あら、失礼ね。私の専攻は魔工学よ……試作品で失敗して、軍の庁舎を吹っ飛ばしてしまったこともあるけど」


 僕は思わず吹き出した。


 リファーナさんも、少し照れたように微笑む。


 「魔道具づくりは、馬鹿にされるようなものじゃないわ。社会を支える立派な技術よ」


 その言葉が、胸の奥にじんわりと染みていく。


 学院で蔑まれていた魔工科を、大賢者が肯定してくれた。

 それだけで、胸が温かくなった。


 ――――

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