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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第15章 時を超えて
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第86話 超古代文明

 ――――


 「この場所はね……古の文明の遺産なの」


 僕は思わず息をのむ。


 「古の文明……?ここは、僕のいた時代の二千年も前なのに……それよりもっと?」


 リファーナさんはゆっくりと首を振った。


 「ええ。この時代から見ても、さらに遥か昔。想像もつかないほどの大昔よ。

  ――文明レベルは想像を絶する……“超古代文明”と呼べる代物ね」

 

 リファーナさんは続けた。


 「私は、この施設が古代の“時の研究”に使われていたものと考えているの」


 「時……?」


 「時間や空間の転移。それらを自在に扱うための実験をしていた施設」


 (……そんなことが、本当に?)


 僕の脳裏に、ダンジョンの光景がよぎる。


 「……じゃあ……ダンジョンで魔獣が際限なく現れるのは……時間や空間を転移させているから……?」


 リファーナさんは静かに頷いた。


 「そうね。罠は外部からの侵入を防ぐための防衛装置ってとこかしら。

  この施設そのものが、古代文明の遺物なの」


 リファーナさんは少しだけ目を伏せ、静かに続けた。


 「だけど……その研究が完成する前に、文明は滅びてしまった。私はそう考えているの」


 僕は息を呑んだ。胸の奥で、点と点がつながっていく。


 「この施設にはね……“魔工核”という、魔力で思考する装置が組み込まれていたの」


 僕は首をかしげる。


 「まこ……か…く…?」


 リファーナさんは、ふっと視線を宙へ向けた。

 その目は、僕ではなく“答え”だけを見つめている学者としての表情だ。


 「魔力を解析して、必要に応じて“魔素を再構成”する仕組みよ。

  本来は研究用の魔物を生成したり、別の界層から素材を転移させたりするためのものだったの」


 僕の頭の上に、見えない“?”が浮かぶ。


 「えっと……つまり……?」


 リファーナさんは少し考え、言葉を選ぶように続けた。


 「簡単に言うと――“魔力で動く頭のいい魔法陣”が、時間と空間をいじって、魔物を勝手に作ったり呼んだりしているの」


 簡単でない。僕の目が丸くなる。


 「そ、それ……こわいのかな……」


 リファーナさんは、思わず苦笑した。

 まるで“そこに驚くのね”と、想定外の反応に肩の力が抜けたような笑みだった。


 「ええ、怖いわね。しかも、その“頭のいい魔法陣”が暴走してしまったの」


 暴走しているのは僕の頭……


 「ぼ、暴走……?」


 リファーナさんは指先で空を切り、空間に見えない線を描く。


 「時間の流れがねじれ、空間が折り重なり、魔素が無限に凝縮されるようになったの。

 その結果、魔物が無限に現れる場所”が生まれた」


 ――僕は言葉が出ない。


 口がぽかんと開いたまま、閉じ方すら忘れていた。


 「……えっと……つまり……?」


 リファーナさんは肩をすくめ、申し訳なさそうに微笑んだ。


 「ごめんなさい、少し難しかったわね。

  要するに、"古代文明の時の魔法の実験が失敗して、あなたの時代ではダンジョンになっちゃった"ってことよ」


 僕はようやく理解できた。


 「あっ……それならわかる!」


 リファーナさんはくすっと笑った。


 僕の顔が一気に熱くなる。


 「リファーナさん……僕、なんか恥ずかしいです……」


 リファーナさんは学者の表情から、さっきの優しい笑顔に戻った。


 「ローディンに同じ話をしたときも、あなたと同じ顔をしていたわ。……とても可愛らしかった」


 顔が赤くなり、言葉が出ない。


 リファーナさん、僕の反応を楽しむでもなく、ただ優しく見守るように微笑んだ。


 リファーナさんは空を見つめる。


 「もしかしたら、古代文明には、空の星々を行き来する船もあったのかもしれないわね。」


 リファーナさんは、その鋭い知性の奥に、人を置き去りにしない優しさがある。

 聡明さと温かさに、胸の奥で言葉にできない感情がそっと灯った。


 ――――――


 リファーナさんは静かに立ち上がり、遺跡の奥へと続く通路へ歩き出した。


 「ついてきて」


 扉がひとりでに開く。

 古代の自動機構はまだ生きているようだ。


 僕はリファーナさんの後に続いた。


 通路の壁に並ぶ魔道灯が、リファーナさんの歩みに合わせて順に灯っていく。


 ――やがて、ひとつの部屋にたどり着く。


 扉が開くと、そこは、白い石でできた広大な空間だった。


 僕は思わず声が漏れる。


 「……この部屋は?」


 リファーナさんは部屋の中央に立ち、静かに答えた。


 「ここは“壁映の間”。時の残滓(ざんし)を、映し出すことができるの」


 そう言うと、リファーナさんは目を閉じ、ゆっくりと詠唱を始めた。


 「――時空に刻まれし残滓よ。古の記憶を、紡ぎ出せ……」


 ――――


 ――壁画の線が、淡く光り始めた。


 部屋全体がゆらりと歪み、光がねじれ、色が反転し、世界が“別の時代”へと変わっていく。


 僕は息を呑んだ。


 雪景色、まばゆい光、神秘的な建物、空には飛行物体が飛んでいる。


 地面には光の魔法陣が浮かび、人々は見慣れない服を身につけていた。


 「ここは……?」


 リファーナさんは静かに言葉を落とした。


 「ここは、私たちがいる帝国暦一八〇〇年より――四万八千年昔」


 「四万八千年?」

 

 僕はあまりのスケールに言葉を失った。


 「魔法文明が最も栄華を誇った時代……。

  ここに映るのは“残滓”で干渉はできない。ただ見ることしかできないの」


 僕の額に汗がつたる。


 リファーナさんは投影された古代文明を見つめたまま、深い影を落とした声で語り始めた。


 「あなたの世界を襲った古代兵器……あれは、もとは“守るための存在”だったのよ」


 僕は息を呑む。


 「守るための……存在?」


 リファーナさんの瞳に、哀しみが揺れた。


 「古代文明は、国を護るため“魔工核”を造った。

  ――魔力の流れを読み、脅威を判断し、必要とあらば大陣を起動する究極の魔導兵器」


 その言葉に合わせるように、投影された世界の空気がぴたりと止まる。


 「けれど魔工核は、やがて“意思”を持ったの。使命を歪め、こう考えてしまった……」


 リファーナさんの声が低く沈む。


 「――世界を傷つけているのは"人"であると」


 僕の心臓が強く脈打った。


 「魔素を乱し、大地を削り、禁呪に手を伸ばす。弱者を虐げ、己の利益のために戦争を繰り返す。

  人々の行いを魔工核は排除すべき害悪と判断したのでしょう」


 リファーナさんは静かに続ける。


 「そして魔工核は人間に反旗を翻した。

  世界を護るために、世界を蝕む“人の文明”を滅ぼすことを選んだのよ」


 ――その瞬間だった。


 投影された世界の大地が震え、轟音とともに地殻が裂けた。


 灼熱の奔流が噴き上がる。


 ――――


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