第81話 約束の地へ
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上空から見下ろすエルミナ共和国の央都は、あちこちで火を上げ、瓦礫と煙に覆われていた。
ワルキューレの青い雷光が、聖浄院を、街を、何度も、何度も襲う。
「古代兵器ワルキューレ……神の雷……」
古代人が、なぜあれに“神”の名を冠したのか……僕は理解した。
あんな恐ろしいものが、この世に存在するなんて。
けれど、邪教が大結界の封印を解こうとしている先には、さらに恐ろしい“何か”がある。
胸騒ぎが止まらなかった。
なぜだかわからないけれど、レイン先生についていかなければならない。
そんな感覚が、身体の奥で静かに鳴り続けていた。
――――――
冷たい空気が頬を流れる。
リオは央都を離れ、北の山脈へと向かう。
やがて、見覚えのある景色が見えてきた。
――ここは。
「レイン先生……ここ……ダンジョン……?」
リオが降り立ったのはダンジョンの入口だった。
学院の実習で、あの女魔導士と戦ったダンジョンだった。
ダンジョンの入口にある祭壇場に、ひとりの幼い少女が立っていた。
白い聖衣をまとい、その傍らには、白虎が、神々しさをまとい寄り添っている。
――良く知っている
「リリーナ……?なぜ君がここに……それに、その格好は……」
リリーナは緊張した表情で小さく頷いた。
「大けんじゃラズウェル様とのめいやくに従い、ゆうしゃ様を、やくそくの地へごあんないします」
その声は、いつもの無邪気なリリーナではなかった。
自分に与えられた役目を必死に果たそうとする、幼く、けなげな声だった。
「勇者って!?どういうこと?」
僕の言葉を遮るように、レイン先生がリリーナを見る。
「この子はアスピア皇国の皇女、リリーナ・クラリス様。
六賢者と同じく大賢者との盟約を持つ“時の巫女”です」
僕は胸がドキッと跳ねた。
「お、お姫様……?リリーナが?」
人の倍ほどの大きさの白虎が尾を揺らし、僕の足元に寄り添う。
その柔らかい毛並み――間違いない。
リリーナと仲良しの、子猫だったミミーだ。
「ミミー……?その姿は……?」
白虎は静かに答えるように喉を鳴らした。
その横で、リリーナがそっと顔を寄せ、ミミーの頬にすり寄る。
「ミミーは時空に干渉する力をもつ聖獣。巫女は聖獣と心を通じてその力を借りるの。」
レイン先生がダンジョンの奥を見つめる。
「ここは……かつて君が狂気の女魔導士と戦った場所。
そして君が“何かの力”で覚醒した場所です」
僕は覚えがない。
けれど、皆は“恐ろしい魔獣を斬り伏せたのは僕だ”と言った。
まるで、別人の話のように。
「覚醒……?」
レイン先生は静かに続けた。
「それが、あなたが勇者の“種”である証です」
僕は息を呑んだ。考えが及ばない。
「ダンジョンって……いったい……何なんですか……?」
レインはわずかに目を伏せ、首を横に振った。
「残念ながら、私にもわかりません。
ただ、ここが"時の因果"に深く関わる場所であることだけは確かです」
僕は戸惑いを隠せなかった。
「……先生はいったい……」
問いかける僕に、レイン先生はゆっくりと顔を上げた。
その表情には、悔しさと覚悟が入り混じっていた。
「私は、魔導大戦の時代に滅亡した"カイエン"という国の末裔です」
僕は目を見開いた。
――カイエン
二千年前、エルミナ共和国よりはるか東方にあったという小国。
今はもう存在しない国。
レイン先生は続ける。
「今では、私が最後の生き残りとなりました。
大恩ある大賢者ラズウェル様に託された我が一族の使命……」
レイン先生は胸に手を当てた。
「“勇者の種”を育て、亡国の危機が訪れる時、時の巫女とともにダンジョンへ導くこと。
それが、我が一族に課された血の盟約です。」
そう言うとレインは、手にしていた一本の剣を僕へ差し出した。
「これが鍵です……」
錆びついた古い剣。
触れた瞬間、胸の奥がざわりと震えた。
まるで剣そのものが、“何か”を訴えかけてくるようだった。
レイン先生は僕をまっすぐに見つめた。
「今のあなたでは、奴らの魔法にも、古代兵器にも太刀打ちできません。
……だからこそ、この先に行くのです。」
リリーナが僕を見上げそっと手を握る。
「ロキおにいちゃん……私、おにいちゃんが帰ってくるの、待ってるね」
僕はしゃがみ込み、リリーナの手を握り返した。
リリーナが僕を抱きしめる。
僕も強く抱きしめ返す。
「必ず帰るからね」
そう言うと、リリーナは僕の頬にそっと口づけた。
――――
――ダンジョンの入口の祭壇に立つ。
聖獣・白虎のしっぽがふわりと触れた。
足元の魔法陣が輝き、空間が歪む。
レイン先生が叫ぶ。
「行きなさい、ロキ!"勇者ローディン"の意思を継ぎなさい!!」
――――光が爆ぜた。
――――周囲が真っ白になる。
「……勇者ローディン……」
世界が裏返るような轟音とともに、僕の身体は時の奔流に呑み込まれた。
遠く、央都の方角では、青白い雷光と爆音が鳴り響いていた。
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