↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第14章 魔導大戦の怨霊
PR
79/120

第79話 剣聖の刃

 ――その時


 ザシュッ!!


 何かが宙を舞った。


 「!?」


 皆の時間が一斉に止まった。

 僕もジェルノも、視線は自然と少女の目元へ伸びていた“はずの”ジェルノの腕へと向かう。


 そこにあるべきものが――ない。


 ボト


 それが地面に落ちた――


 腕?


 ――静寂が訪れる。


 次の瞬間、切断されたジェルノの腕の断面から血が噴き出す。


 「ぁ──ああああああああああッ!!」


 ジェルノが絶叫し、もがき苦しみ地面を転げ回る。


 黒い魔力が暴走し、地面を焦がす。


 ――その血飛沫の向こうから、ゆっくりと歩み出る影があった。


 異国の鎧姿。鋭い眼光、静かに燃える殺気。

 片刃の剣からは血がしたたり、月光を受けて鈍い輝きを放っていた。


 「レイン先生?……」


 レイン先生は少女を抱きかかた。


 泣きじゃくるその子を僕にそっと預ける。

 その動きは優しいのに、その背に宿る気配はまったく違った。

 

 穏やかな孤児院の院長ではない。

 容赦なく敵を切り殺す、血を求める鬼人のような殺気が、全身から噴き出していた。


 「ロキ君……こいつは、私が殺ります。」


 背筋が凍る。

 穏やかなレイン先生とは思えない、無情な声。


 「かつて君をいたぶった女魔導士とはこいつですね。

  確かに生かしておいてはならない存在のようです。」


 レイン先生の気迫に圧倒され、僕は言葉が出なかった。


 ジェルノが立ち上がる。


 「きさまぁぁ……!貴様も……剣か!よくも私の腕を!!」


 目が血走り、完全に正気を失っている。


 ――ジェルノから、最大級の魔力があふれ出す。


 レイン先生は静かに僕に言った。


 「ロキ君。君は以前、私にこう言いましたね。“剣で魔法を切れないのか”と……」


 レイン先生の剣の刃が、月光を受けて光る。


 「答えは……可能ですよ」


 魔法陣が展開し、禍々しい黒い旋風が立ち上がる。


 「そろって――死ねぇぇ!!」

 

 レインは抜刀の構えをとった。


 ――空気が止まる。


 「七理(しちり)の法剣(ほうけん)……風(かぜ)の刃(じん)」


 黒い風の渦が迫る。


 「風切斬(ふうせつざん)!」


 ――光る。


 レインの斬撃の剣圧が、黒い魔力の渦を一瞬で切り裂いた。


 それは、まるで魔力の法則を根源から断ち切るかのようだった。


 目にも止まらぬ速さで、レインはジェルノの横を通り抜ける。


 何が起きたのかわからない。


 ジェルノが呆然と瞬きをする。


 レインのいる方向へ振り向こうとしたその瞬間。

 

 ジェルノの体が、"ズレ"て真っ二つに崩れ落ちた。

 

 声にならない息を吐きながら、血の泡を吹き、釣り上げられた魚のように口だけが小さく開閉していた。 


 空気を求めるように、音のない呼吸が数度。

 だが、声は漏れず血が地面に広がる。


 ――静寂が落ちる。


 「あっ……や……」

 「ひっ…………」


 あまりに凄惨な光景に、周囲の子どもたちの悲鳴と嗚咽が震えるように響いた。


 レインは剣を納め、小さくつぶやく。

 

 「子どもたちの目を汚してしまいました」

 

 その声には、無情な現実と、見せたくなかったという静かな痛みが、かすかに滲んでいた。

 

 ――そこへセルド隊長とワーウルフに跨ったナギルさんが駆けつけてきた。

 

 「子どもたちは無事か?」

 

 僕は短く答える。

 

 「みな……ショックは受けていますが、無事です」

 

 二人の視線が、地面に転がった“二つのジェルノの残骸”へと向いた。

 

 セルド隊長の足が、わずかに止まる。

 

 ナギルさんは息を吸いかけて、何も言わずに口を閉じた。

 言葉はなく、ただ、状況を理解した者の沈黙だけが落ちた。


 その間に、ミル副隊長や隊員たちが子どもたちを手際よく保護していった。

 ジェルノの魔法陣から解放され、囚われていた子どもたちが、ひとり、またひとりと解放される。


 「レイン先生‥‥ロキおにいちゃん……!」


 泣きながら駆け寄ってくる子どもたちを、僕はひとりずつ抱きしめた。

 震えている。でも、生きている。


 レイン先生は静かに頷き、膝をついて子どもたちの無事を確かめていく。


 その背中は、さっきまで鬼人のようだったとは思えないほど、優しかった。


 「先生、さっきの技は……」


 問いかけようとした瞬間、轟音がすべてをかき消した。


 戦いはまだ終わっていなかった。


 ――時計塔の上空では、空を裂くような轟音が響く。


 そこでは、炎の柱と黒い魔力がぶつかり合う、地獄のような光景となっていた。

 

 火の賢者イグナの炎が大地を焦がし、操魔法師バルザークの魔力砲が空を裂く。

 

 「イグナあァァァ!!」


 黒い砲身が唸りを上げ、空気が歪む。

 

 イグナは炎の翼を広げ、静かに息を吸った。

 

 「……死ね」

 

 炎が収束し、イグナの手のひらに一点の光が生まれる。

 

 バルザークが魔力砲を放つ。空が裂けるほどの黒い奔流。

 

 イグナは、その中心へ向かって飛び込み、詠唱する。

 

 「――溶岩隕石弾(メテオ・プロージョン)!」

 

 光が爆ぜた。

 

 すべてを燃やし尽くす巨大な獄炎の隕石がバルザークを押しつぶす。


 「ぐ……あああああああああああああッ!!」


 バルザークの断末魔が、夜空に響き渡る。

 黒い魔力が焼かれ、肉体が崩れ、最後は灰となって風に散った。


 ――静寂


 戦場に残ったのは、焦げた匂いと、揺らめく炎の残光だけだった。


 火の賢者イグナは、怒れる炎のごとき眼差しをひとつだけ残し、踵を返す。


 その背中に迷いはなく、まっすぐ聖浄院へ戻っていった。


 ――――――


 聖浄院・結界の間。


 魔導師団長ラミルが、わずかな安堵をにじませながら報告した。


 魔導スクリーンで確認していた内容を、最終的に言葉で締めるように。


 「ワルキューレの術者は火の賢者イグナ様が討伐。

  魔獣召喚の術者は、ロキ・グレイシアと不明の剣士が撃破しました」


 六賢者の間に、わずかな安堵が走る。


 風の賢者シルフィアが、静かに問いかけた。

 その声音には、どこか“余計な存在に触れたくない”ような薄い棘があった。


 「……あの剣士は何者ですか」


 闇の賢者ノクスが、目を細める。


 「剣筋が同じだ。ロキ・グレイシアの……師か?」


 土の賢者ガルドは、黙したままスクリーンの剣士を見つめていた。


 「女司祭をたやすく切り伏せるとは……あんな男が野心も持たずにこの国にいたとはな」


 ――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。