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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第14章 魔導大戦の怨霊
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第78話 因縁の敵

 僕を背に乗せリオの翼が風を切る。

 冷たい気流が頬を叩き、視界の下で地面が迫ってくる。


 ――地面に降り立つ


 女魔導士と対峙した瞬間、胸の奥がひどくざわついた。

 この“空気”、忘れもしない。

 あのダンジョンで遭遇した狂気の女魔導士。


 あの時の恐怖が、胸の奥からじわりと蘇る。


 あの時と同じ、いや、それ以上に禍々しい空気が渦巻いていた。


 女魔導士ジェルノがこちらを見上げた。

 その瞳は、怒りで赤く染まり、理性の欠片すら残っていなかった。


 「……こんなところで会えてうれしいわ」


 声が震えている。


 怒りで、憎悪で、そして屈辱で。

 僕を“殺すことだけ”を考えている目だ。


 「……あの時の痛みを覚えてるわ。

  肩を切られたあの瞬間……私の“子たち”を殺された屈辱……」


 杖を握る手が震え、黒い魔力が地面に染み込むように広がる。


 ジェルノは続けた。


 その声は、怒りに焼かれた鉄のように歪んでいた。


 「泣き叫ぶガキを嬲って嬲って……傷を癒そうとしたけどダメ。

  あんたの顔を思い出すたびに肩の傷がうずくのよ……」


 足元に描かれた魔法陣が、淡い光を放つ。


 その“檻”の中で、捕らわれた子供たちが身を寄せ合い、声も出せずに震えていた。

 助けを求める視線だけが、必死に揺れている。

 

 ジェルノの赤い瞳が細くなる。

 

 「私をこんなに辱めたのは……あんたが初めてよ……!」

 

 空気が凍りつく。

 

 孤児院の子どもたちが、必死に涙をこらえながら、こちらを見ていた。

 

 「ロキおにいちゃん……」

 

 その声が、胸に刺さる。

 

 ジェルノはゆっくりと笑った。

 

 その笑みは、壊れた人形のように歪んでいた。

 

 「お前をひざまずかせて……お前の目の前で……

  一匹ずつ、ガキどものはらわたを割く様を見せてやるわ」

 

 黒い魔力が地を這い、影がざわつく。

 

 「私はジェルノよ……。ジーク教三司祭の一人。従魔法師ジェルノ・リザーナよ。」


  影がざわつく。

 

 「あんたをズタズタに引き裂く相手……あの世で、私の名前を思い出すたびに震えなさい」


 ジェルノの背後で、召喚された魔獣の影が蠢いている。

 

 リオが低く唸った。


 黒い魔法陣が、ジェルノの足元に三重、四重と重なっていく。

 その中心で、ジェルノの怒りが渦を巻いていた。


 ――空気が爆ぜた。

 

 ジェルノの魔力が、“殺意そのもの”として形を持ち始める。

 

 僕は剣を握り直し、ジェルノへ踏み込んだ。 

 剣と障壁が火花を散らし、衝撃が腕に走る。

 

 「その程度で“私”に届くと思ったの?」

 

 ジェルノの一撃は、重さも速さも、まるで別次元だった。

 

 剣が弾かれ、足が地面を滑る。

 

 「でも……前よりは戦える。ジェルノの動きが……見える。」

 

 あれから一年。


 死の狭間をさまよい、レイン先生のもとで骨がきしむほどの訓練を積んできた。


 それでも――


 やはりこの女の力は別次元だ。

 

 ジェルノが薄く笑う。

 

 「私の肩を切った時の力はどうしたの‥…もったいぶっているのかしら?」

 

 僕はそんな力を隠していない。

 

 あの時、何が起きたのか僕にもわからない。

 お前を切り裂いたのは、僕じゃない“別の力”。

 

 ジェルノの足元で、地を這う影が、ぞわりと広がる。

 まるで獲物を探すように、子どもたちの足元へと伸びていく。


 その影が子どもたちの足元へ伸びた瞬間、僕は反射的に視線をそちらへ向けた。

 

 ジェルノの赤い瞳が、その動きを逃さない。

 

 女魔導士はふいに視線をそらし、孤児院の女の子の髪を強引につかみ上げた。

 

 少女が小さく悲鳴を上げる。

 

 「きゃっ」

 

 ジェルノはゆっくりと、壊れた人形のような笑みを浮かべたまま言う。

 

 「この子……お前のことが気になるみたいね。知りあいかしら?」

 

 心臓が跳ねた。

 

 「ふふ。ばれたって顔してるわね」

 

 ジェルノは少女の顔を覗き込み、その怯えた表情を楽しむように、指先で頬をゆっくりとなぞった。

 

 「ねぇ……この子。どうしたら泣くと思う?

  可愛い瞳を──くりぬいてみようかしら。」

 

 少女の喉から、押し殺した嗚咽が漏れた。

 

 「いやっ!ロキお兄ちゃん‥‥怖いよぉ」

 

 全身から血の気が引いた。足がすくむ。

 

 ジェルノの指先が、少女の目元へ吸い込まれていくと、リオが低く唸った。


 ――――

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