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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第14章 魔導大戦の怨霊
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第75話 古代兵器

 ――――


 僕は走る。礼拝堂を飛び出し、夜の街へ駆け出す。


 胸の奥で燃え始めたものが、足を勝手に前へ押し出していた。


 今は、子供たちを助けなければならない。


 走りながら、街の惨状が目に飛び込んでくる。


 瓦礫、崩れた家、泣き叫ぶ人々。

 青白い雷光が空を裂き、つぼみの青い脈動が街を照らす。


 聖浄院が近づくにつれ、空気が変わった。


 つぼみが巨大な影となって頭上に迫り、その周囲では飛竜部隊が魔獣と交戦していた。

 火花が散り、魔力弾が夜空を裂き、飛竜の咆哮と魔獣の叫びが混ざり合う。


 空は激戦のさなかだった。


 ――聖浄院が見えた。


 その手前で、セルド隊長とミル副隊長が、無数の魔獣に囲まれていた。


 二人の前に魔法陣が描かれ、光弾や雷撃が放たれる。


 だが――敵の数が多すぎる。


 一体の魔獣が背後から回り込み、ミル副隊長の背を鋭く切り裂いた。


 「くっ……!」


 気丈なミル副隊長の顔に、苦痛の色が浮かぶ。


 「ミル!大丈夫か!」


 セルド隊長が叫ぶが、魔獣は間髪入れず飛びかかってくる。


 ミル副隊長は顔を伏せ唇を噛み締めた。

 その表情は──覚悟の顔だった。

 

 ――僕は思い切り地面を踏み込んだ。


 足裏から衝撃が走り、視界が一気に前へ流れる。


 剣を振り下ろす。


 ザシュ!!


 魔獣が二つに割れ、そのまま沈黙した。


 二人は突然の出来事に驚き、目を見開く。


 「ロキ……グレイシアか……!?」


 その瞬間、僕の背後で“殺気”が跳ねた。


 振り向きざまに剣を払う。


 ザシュッ。


 背後から振りかぶっていた魔獣が、断末魔もなく崩れ落ちた。


 セルド隊長とミル副隊長は、はっと我に返り、残った魔獣へ魔法を叩き込む。


 魔獣たちは体勢を崩し、光と炎に呑まれて、あっという間に沈黙した。


 戦場の空気が、一瞬だけ静まった。


 セルド隊長が驚きと安堵の入り混じった声で言った。


 「どうして君がここに?」


 僕は息を整えながら答える。


 「学院の先生からは……セントラルパークに避難するように言われていました。

  でも……知り合いの子供がさらわれて……すみません。先生の指示を無視して来ました。」


 セルド隊長とミル副隊長は一瞬だけ顔を見合わせ、そして穏やかに首を振った。


 「いや、君のおかげで助かった。」


 セルド隊長の声は落ち着いていた。


 「今は一人でも戦力がほしい。学徒の君に頼むのは心苦しいが、そんなことを言っていられん。

  力を貸してくれ。」


 ミル副隊長も、傷を押さえながらうなずく。


 「魔導師団は……壊滅状態です。このままでは押し切られます。」 


 セルド隊長が空を見上げる。


 "つぼみ”が青く脈動し、空を覆う魔獣の影が揺れていた。


 「上の“つぼみ”をなんとかしなければならない。六賢者は……大結界の守で動けない。」


  ミル副隊長が苦しげに続ける。


 「子供たちも人質にされています。

  この先で黒マントの魔導士が子供を連れていたとの目撃情報がありました。……」


 僕は"つぼみ"を見上げた。


 「……あれは、いったい何なんですか?」


 セルド隊長は短く息を吐いた。


 「あれは《ワルキューレ》──"神の雷光"の名を冠する古代兵器だ。」


 空気が震えた気がした。


 それが何なのかは分からない。


 けれど──おそろしいものだということだけは分かった。


 「術者が近くにいるはずだ。あれだけの浮遊物体を動かすとなると、魔力の消費も激しいはず。

  そいつを討てば……ワルキューレも止まる。」


 セルド隊長は僕をまっすぐ見た。


 「子どもたちも近くにいるはずだ。攫われてからそれほど時間は経っていない。

  見つけたら知らせてくれ。」


 胸の奥で、さっき燃え始めたものが、さらに強く灯る。


 「行きます。」


 ――――


 ――――


 その頃、孤児院の礼拝堂。


 レインは、泣き震えるリリーナの肩をそっと抱き寄せ、諭すように、しかし揺るぎない声で語りかけていた。


 「リリーナ。あなたは……私と同じく“大賢者の盟約”を守るべき血族のひとりです。涙を拭いて。」


 リリーナは震える指で目元を押さえる。


 レインは続けた。


 「本当は……あなたがもっと大きくなってから望みたかった。

  けれど、時代の奔流には逆らえないようです。」


 その声音には、深い覚悟と優しさが混じっていた。


 「敵は、大賢者ラズゥエル様の“大結界”の崩壊を狙っています。

  そして……伝承にある古代兵器まで出現した。」

 

 空にワルキューレの青い雷光が光る。


 「このままでは、世界は滅亡します。わかりますね…」


 リリーナの小さな手が、ぎゅっとレインの服をつかんだ。


 レインはその手を包み込み、静かに言う。


 「あなたも感じているはずです。ロキ君には……特別な因果が巡っている。」


 リリーナの瞳が揺れた。


 「しかし、今の彼ではまだ届かない。彼を“約束の地”へ導かねばなりません。」


 レインは深く息を吸い、決意を込めて告げた。


 「リリーナ。私を……皇女殿下のもとへお連れください。」


 ――リリーナが涙をぬぐい、ゆっくりと顔を上げる。


 「……わかりました。」


 その声は小さいが揺るぎのないものだった。


 その瞳は幼いままに、与えられた役目へ向かおうとする強さを宿していた。


 「ミミー……お願い。私とレインおじちゃんをお母さまのもとに連れてって。」


 リリーナの震える声が礼拝堂に落ちた瞬間、


 足元のミミー


 ――否


 聖獣の瞳が、ふっと光を帯びた。


 尻尾がふわりと揺れた瞬間、空間が歪んだ。

 空気が引き裂かれるような音もなく、ただ静かに、世界の“縁”がめくれ上がる。

 

 リリーナがレインの手をぎゅっと握る。


 「レインおじちゃん、こっちです。」


 少女は迷いなく、歪んだ空間の裂け目へと足を踏み入れた。


 レインは一瞬だけ周囲を見回し、ロキの無事を祈るように目を閉じる。


 その姿は、もはや朗らかな孤児院の院長ではなかった。

 幾多の死地をくぐり抜けた、熟練の戦士の装い。


 静かだが、研ぎ澄まされた気配が全身から立ちのぼっていた。


 その手には、一振りの“錆びた剣”が握られている。

 長い年月を経て色を失い、剣と呼べるかすらも怪しい代物。


 だがレインにとっては、一族に受け継がれた“導きの証”でもあった。


 レインはその柄を強く握り直し、リリーナの小さな手をしっかりと握り返す。


 二人は、光のない亀裂へと消えた。


 ――――

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