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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第2章 断たれる絆
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第7話 逃避の花畑

 僕は、アミリアの部屋の扉をノックする。


 「アミリア。僕……ロキだよ」


 しばらくして、震えるような、か細い声が返ってきた。


 「……ロキ?」


 「アミリア、開けるよ」


 ――扉を開けると、部屋の隅で膝を抱えたアミリアがいた。

 楽しみにしていた魔導学院の制服を着たまま、震えながら、小さく丸まっていた。

 瞳からは大粒の涙がこぼれていた。


 「ロキ……私、みんなと離れたくない……怖いよ……」


 アミリアは声を押し殺しながら続けた。

 「森であの魔獣や、魔導士と出会ってから……ずっと嫌な予感がしてたの。

 いつかこんな日が来るんじゃないかって……学院、楽しみにしてたのに……」


 アミリアがこんなふうに怯えて泣く姿を見るのは、初めてだった。

 胸の奥がぎゅっと締めつけられ、気づけば僕の目も涙でかすんでいた。


 その奥底から、熱いものがこみ上げてきた。

 悲しみでも、恐怖でもない――怒りだ。

 あれほど憧れていた大賢者ラズウェル様が、憎く思えた。


 「アミリア……逃げよう。アミリアは僕が守る。約束しただろ」


 驚いたアミリアは、涙をぬぐいながら、弱々しくうなずいた。

 僕はアミリアの手を引き、裏口からこっそり外へ出た。


 だが――正面玄関が勢いよく開き、魔導士が現れた。

 気づかれた。


 「――少女が逃げるぞ!」


 魔導士の叫びが響き、周囲に潜んでいた魔導士たちが一斉に動き出した。

 僕とアミリアは、無我夢中に全力で走った。


 ――――――


 森を抜け、気づけば二人で花を摘んだ、あの花畑にたどり着いていた。

 走る限界を迎え、僕らは肩で大きく息をしながら立ち止まった。


 アミリアは息を整えようとしながらも、まだ震えていた。

 涙の跡が乾ききらず、頬に残っている。


 「私、ロキと一緒なら、どこに行ってもいい。

  魔導学院に行けなくても……ロキがいてくれればいい……」


 アミリアは言い終えると、唇をかすかに噛んだ。

 強がろうとしているのに、今にも崩れそうな表情だった。

 その姿が、胸に刺さった。


 僕は何も言えず、ただアミリアの手を握り返した。


 ――だが、森の方から、風を切る音が迫ってきた。

 ただの足音ではない。風魔力で強化された高速移動の音だ。

 魔導師団の魔導士にとって、サーチ魔法で僕らの居場所を探し出すことなど造作もなかった。


 彼らの法衣が風に揺れるたび、空気がビリビリと震えた。

 魔力の圧が、肌を刺すように痛い。


 僕はアミリアの前に立ち、落ちていた木の棒を握りしめた。

 その頼りない棒が、今の僕にできる唯一の抵抗だった。


 目の前の魔導士が、わずかに眉をひそめた。

 子どもの無力な抵抗に戸惑ったのか、それとも哀れんだのか――

 判断のつかない表情だった。


 「どきなさい。用があるのは後ろのアミリア嬢だ。君に危害を加えるつもりはない」


 僕は首を横に振った。

 「アミリアは絶対に渡さない!」


 僕の必死の叫びに、魔導士の一人がため息をついた。

 「面倒だな……少しだけ痛めつけろ」


 魔導士の杖がわずかに光った瞬間――空気が爆ぜた。

 放たれた火球は、“子どもを脅すための手加減”とは思えないほどの速度と熱量を持っていた。


 「うわあああっ!」


 火球は僕をかすめただけだった。

 それでも、吹き飛ばされるには十分すぎる威力だった。


 「おい、やりすぎだぞ」


 地面に叩きつけられ、視界がぐらりと揺れる。

 熱で肌がひりひりする。怖い。息ができない。


 火球が花畑に落ち、アミリアのお母さんが好きだった花々が燃え散った。

 「ロキ!!」


 声が聞こえた瞬間――アミリアの手から輝く水流がほとばしった。

 それはただの水ではなかった。

 光を帯び、生命そのもののように脈動する“聖なる清流”だった。


 炎は一瞬で鎮まり、僕のやけどはみるみる癒えていく。


 上級魔導士が息を呑んだ。

 「この年で、ここまでの魔力を……素晴らしい……!」


 アミリアは怒っていた。今まで見たことがないほどに。

 僕を傷つけ、母の大好きだった花を燃やした魔導士たちが許せなかった。

 アミリアの怒りに呼応するように、周囲の風が唸りを上げた。――――

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