第6話 選ばれし者の運命
魔導学院への入学まで、残り二週間。
入学の準備もほとんど終わり、僕とアミリアは期待に胸を膨らませていた。
そんなある日の朝――孤児院の周りが、なにやら騒がしかった。
「何があったの?」
「なんだか……央都から偉い魔導士さんたちが来てるって。」
胸がざわつき、嫌な予感がした。
孤児院の門の前には、大きな馬車。
そして――あの日、森で見たのと同じ、央都魔導師団の徽章をつけた魔導士たちが、十数人も整列していた。
ただの訪問ではない。
空気が張りつめ、孤児院の子どもたちが息をのんで見守っている。
僕の背中を、冷たいものがゆっくりと這い上がっていった。
門の前では、黄金の長杖を携えた上級魔導士が、ローレットさんと話をしていた。
孤児院の周りには多くの人だかりができている。
ローレットさんの声が震えながら響く。
「それはあまりにも。両親を失ったアミリアには、せめて平穏な学校生活を送ってほしいのです。
学院への入学も決まって、本人も楽しみにしています。」
上級魔導士は静かに、しかし絶対の権威をもって返した。
「シスターのお気持ちは理解します。
確かにエルミナ魔導学院は、この国一のエリート校。
しかし、アミリア様は“学生で終わる器”ではありません。」
黄金の杖が、冷たい冬の光を反射する。
「魔導学院は、我ら魔導師団の管轄する教育機関。魔導師団が直接アミリア様をお預かりします。」
ローレットさんは必死に食い下がる。
「アミリアは……何をするのですか。危険なこととか……」
上級魔導師は一瞬だけ目を伏せ、そして静かに告げた。
「この国は今、平穏に見えます。しかし、その実態は非常に危ういものです」
声が低くなる。
「およそ二千年前──大賢者ラズウェルが、世界を滅ぼさんとした“厄災”を封印しました。
しかし、厄災は今も復活の機会を狙っています。」
僕の心臓が跳ねた。
(大賢者ラズウェル……? 絵本の中の英雄じゃなかったの……)
上級魔導師は続けた。
「この国の平穏を保っているのは、六人の賢者。彼らの魔力と、大賢者が残した結界が、厄災の復活を辛うじて抑えているのです。」
そして、上級魔導師は言葉を静かに切り替えた。
「しかし──大賢者ラズウェルの結界は弱まりつつあります。現・水の賢者も老齢により、もはや結界を維持できぬほどに力が衰えている。
先の森での騒動は……弱った結界を破り、異界から潜り込んだ魔獣によるものです。」
ローレットさんが息をのむ。
上級魔導師は孤児院を見つめ、深く頭を下げた。
「アミリア様には、六賢者の一角──水の賢者の後継者として、お役目についていただきます。」
村中の人たちが言葉を失う。
「アミリア様が森で魔獣を討伐してから、
魔獣の死体と魔力の痕跡を、魔導師団が綿密に調査しました。
その結果、アミリア様の魔力は本物であると確信しました。
ここにきて“水の賢者のたまご”が生まれた。これは光の女神様のお導きに他なりません。」
ローレットさんは震える声で言った。
「あの子はまだ12歳なんです。そんな危険なお役目に、あの子を出せません……
両親を失い傷ついてきたのに……どうか……どうかご容赦を……!」
ローレットさんは地面に膝と手をつき、必死に懇願した。
僕は、その光景をただ静かに見守ることしかできなかった。
「シスター……申し訳ありませんが、これは国の決定事項です。」
黄金の杖が地面を軽く叩くと、従者が一枚の羊皮紙を差し出した。
「こちらが、共和国議会印璽の押された辞令書です。偉大なる六賢者も承認しています。」
上級魔導士は淡々と続けた。
「国命に背いた場合は――極刑となります。」
ローレットさんは、嗚咽をこらえるように口を押さえた。
大粒の涙が、ぽたぽたと地面に落ちる。
僕の頭は真っ白になった。
何を言っているのか、理解できなかった。
厄災……? 大賢者の結界……? 六賢者……?
そんなことより、アミリアが連れていかれてしまう。
僕の頭は、もう何も考えられなかった。
いけないことなのかもしれない。
それでも――アミリアを助けないと。
アミリアはお転婆だけど、本当は泣き虫で、不安でいっぱいのはずだ。
僕が助けないと……
無我夢中で、アミリアの部屋へ向かった。




