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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第13章 ダンジョンの謎と覚醒
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第67話 戦慄の女魔導士

 黒マントの男が不機嫌そうに言う


 「ちっ‥‥失敗のうえ、ガキどもに見られるとは」


 女魔導士が冷たく微笑む


 「運のない子供達ね。……でも、せっかくだから愉しませてもらおうかしら」


 (何だこいつら…‥失敗って?)


 リリーは叫ぶ。


 「なんなの、あなたたち!みんなを戻して!」


 女魔導士は優雅に杖を持ち上げた。


 その動きは舞踏のように滑らかで、杖先に黒い魔法陣が花のように展開する。


 その手の甲には、闇の中でも分かるほど深い黒で刻まれた六芒星が浮かび、まるで呪いの紋章そのものが脈打っているかのようだった。


 魔法陣が幾何学模様に重なり、闇色の光が静かに脈動した。

 その光に照らされながら、女魔導士は冷ややかに微笑む。


 「だめよ……あなた達はもう“餌”……」

 

 女魔導士が品定めするように舌なめずりをする。

 

 ゾク!――――背筋が凍る。

 

 やばい。この女はやばい。

 僕は魔力のことは分からない。


 でも、直感がつげる。今まであったどんな敵よりもやばい。


 ――空気が変わった。


 女魔導士の周囲だけ、まるで“温度”が違う。

 冷たいのに、肌が焼けるような感覚。


 視線を向けられただけで、背骨の奥がざわつく。


 この女は、存在そのものが、間違っている。


 女魔導士の魔法陣が爆ぜ、闇の散弾がリリーとエレナに降り注ぐ。


 「きゃあああ!!」


 二人は、吹き飛び床に叩きつけられた。 


 「リリー! エレナ!!」


 僕が駆け寄ろうとした瞬間、女魔導士の視線が僕を射抜く。


 背筋が凍る。


 「あら剣なんて。ずいぶん珍しいものを持ているのね。」


 その声は、まるで“おもちゃを見つけた子供”のようだった。


 興味と愉悦が混ざった、底のない声。

 

 リリーとエレナが同時に立ち上がった。


 二人の足元に黒い花弁のような魔法陣が広がり、闇属性特有の冷たい光が揺れる。

 二人はわずかに震える指先で互いの手を触れ合わせ、前へと踏み出した。


 「双影障壁──!」


 二人の声が重なった瞬間、


 魔法陣が一つに溶け合い、黒い半透明の障壁が花びらのように展開する。

 闇の膜が空気を震わせ、前方に静かに立ち上がった。


 女魔導士はその光景を見て、ふっと微笑んだ。

 その笑みは“嬉しそう”ですらあった。


 まるで、獲物が自ら檻に入ってくれたかのように。


 「あら……息の合った連携魔法。こんな可愛らしい術式、久しぶりに見たわ」


 女魔導士は杖を軽く傾け、唇をわずかに吊り上げる。


 「なら──これはどう?」


 杖をひと振り。魔法陣が三重に重なる。


 ――闇の矢が雨のように降り注ぎ、リリーとエレナの障壁を、まるで泡の膜のようにたやすく切り裂く。


 「キャー!!」


 二人の悲鳴が重なり、闇の矢がリリーとエレナの肌を刻む。


 わざと急所を外している。

 殺す気はない。いたぶることを心底楽しんでいる。


 「いい声ね。もっと聞かせてほしいわ。」


 二人の悲鳴が響く。痛みと恐怖で涙が流れている。


 その様子を見ている同級生たちも震える。


 とても人のやることとは思えない。

 常軌を逸した残虐さに誰も動けない。

 

 女魔導士は、倒れているリリーを魔力で組み敷いた。


 「あーいい顔。……綺麗なお肌でうらやましい。このお腹の中はどうなっているのかしら」


 リリーのお腹へ、女魔導士の指先がゆっくりと伸びる。

 

 触れたわけでもないのに──空気が裂けるような冷たさが走った。

 

 指先が、横にすっとなぞる。

 

 まるで、“ここを切り開くと決めた線”を描くように。

 

 「いやーー!!」

 

 リリーの血の気が一瞬で引き、喉が裂けるような悲鳴が響く。

 

 「やだ……やめて……!」

 

 エレナは口元を押さえ、涙をこぼす。


 誰もが理解した。

 

 “あの女魔導士の前では、自分たちはただの玩具だ”

 そして、次は自分たちの番だという絶望。

 

 本能が逃げろと警告する。

 背中を冷たいものが走り、足がすくみそうになる。

 

 でも、エレナとリリーナは必死に戦っている。

 震えながら、それでも前に立っている。

 

 女子二人が勇気を振り絞っているのに、僕だけが動けないわけがなかった。

 

 ――叫びと同時に、僕は地面を蹴った。

 

 「やめろー!」

 

 恐怖を押し殺し、全身の力を剣に込めて女魔導士へ切りかかった。


 ガキーーン!


 僕の剣がは女の体に届いていない。透明な壁が、火花を散らして弾いた。

 

 「なかなかの力ね。ここまで衝撃を感じるなんて……悪くないわ」

 

 その声は、褒めているのに“嘲っている”。

 まるで、僕の必死さすら玩具にしているようだった。

 

 「でも、剣なんかじゃ、私の壁は壊せなくってよ」

 

 その言い方が、無駄とでも言いたげで、胸が焼けるように悔しい。

 

 ――僕は剣を振る。

 

 届かなくても、意味がなくても。それでも振る。

 

 「みんな、にげろー!!」

 

 生徒達は猛獣に睨まれた小動物のようにたた立ちすくす。

 

 恐怖で足が動かない。

 障壁に弾かれ、腕がしびれても、足がふらついても。


 女魔導士は、ただ楽しそうに僕を見ていた。

 

 皆が逃げる時間を稼がないと。

 僕は叫ぶ。

 

 「早く……にげてーぇぇ!!」


 ――リリーとエレナが立ち上がる。

 

 「傀儡だけでも…………」

 

 指先に魔力が集まる。弱々しいが、確かな光。

 エレナも隣で歯を食いしばり、同じように魔力を指先に集中させていた。

 

 「リリー……合わせる!」

 

 二人の足元に、黒い花弁のような魔法陣がふたつ重なる。

 リリーとエレナが震える声で続ける

 

 「あれが傀儡の“糸”……」 。

 

 「黒い糸……ジョシュアたちの魂を縛ってる……!」

 

 ジョシュアたちの身体には、確かに細い黒い糸が絡みついていた。

 光の角度でかろうじて見えるほどの、闇の糸。

 

 ――リリーとエレナが指を振る。

 

 二人の闇魔法が重なり、黒い糸に触れた瞬間


 ビシィッ!!


 鋭い音を立てて、糸が弾け飛んだ。

 

 ジョシュアたちの身体がガクンと揺れ、そのまま崩れ落ちる。

 

 「ジョシュア!!」

 

 生徒達が駆け寄る。僕も息を呑む。

 

 「傀儡が解かれた」

 

 女魔導士の表情が、“怒り”に染まった。

 

 「……こざかしい小娘どもね」


 ――次の瞬間、静観していた黒マントの男が低く言った。

 

 「ジェルノ、遊んでいる暇はないぞ。上から近づいている。」

 

 女魔導士は肩をすくめ、ゆっくりと杖を下ろした。

 

 「これからがいいところなのよ……。」

 

 その声は、まるで舞台の幕が切り替わる合図のようだった。

 

 空気が変わった。

 冷たく、重く、肌にまとわりつくような圧が広がる。

 

 女魔導士はゆっくりと杖を掲げた。

 その動きは、何かに“命令”を与えるようだった。


 「あなたたち──いいわよ。"ゆっくり"味わいなさい」

 

 まるで、檻の中の獣に許可を出すような仕草。

 女魔導士の指先が空をなぞる。

 

 その優雅さが、逆に恐怖を際立たせた。


 ――何かがいる。

 

 見えないけど“何か”がいる。

 空気の密度が変わり、耳鳴りがする。

 

 その瞬間、背中に“熱”が走った。

 

 「──っ!!」

 

 焼けつくような痛みと衝撃が同時に襲い、身体が勝手に前へ倒れ込む。

 

 床に落ちた僕の影の下へ、ぽたり、と赤い滴が落ちた。

 

 「ロキ!!」

 

 皆の叫びが遠く聞こえる。

 皆は、見えない“何か”にたじろぐ。

 

 透明の爪が、ロキの腕を、脚を、胸を切り裂く。

 

 「ぐあああああ!!」

 

 僕は、地面に叩きつけられ、肺の奥から血を吐いた。

 

 床に広がる赤が、じわりと視界を染める。

 

 女魔導士はゆっくりと歩み寄り、壊れかけた玩具を眺めるように僕を見下ろした。

 

 「剣を持つだけあって体は頑丈なようね。」

 

 透明の影がロキの喉元に手を伸ばす。

 

 見えない指先が、皮膚のすぐ上で空気を歪ませる。


 女魔導士がしゃがみ込み、僕の顔を覗き込むようにして微笑んだ。

 その距離は、息が触れそうなほど近い。

 

 「ねぇ、僕。痛い?苦しい?……」

 

 囁く声は、まるで子どもをあやすように柔らかい。

 

 「こうすると……どうかしら?」

 

 女魔導士の指先が、僕の傷口の縁をり、ゆっくりと味わうように這った。

 指の腹が、熱を帯び、割けた肉の上をねっとりと滑っていく。

 

 優しい指先がおぞましい。

 

 「うわっ……ああああ!!」

 

 焼けつくような激痛が背骨を駆け上がり、視界が白く弾けた。

 

 「あー若い男の子の悲鳴ゾクゾクしちゃう!もう一度‥‥もっといっぱい叫んで!」

 

 女魔導士は僕が苦痛の叫びをあげるごとに興奮し、弄ぶ。

 

 ――痛みで僕の意思が遠のく・・・

 

 「あら。……もう気を失っちゃうの?でもダメ。寝かさないわよ。」

 

 透明の影が僕の髪を掴み、頭を床に叩きつける。

 

 「がっ……!」

 

 視界が白く弾ける。


 黒マントの男の苛立ちが爆発する。

 

 「いい加減にしろジェルノ!すぐそこまできてるぞ。――さっさと始末しやがれ変態が!」

 

 女魔導士は、愉しみを邪魔する黒マントの男に悪態をついた。

 

 「……ちっ!」

 

 女魔導士の狂気の“始末の気配”に、同級生たちは震えていた。

 

 何もできない。怯えと絶望だけが空気を満たしていた。


 僕の意識が、深い水底へ沈むように遠のいていく。

 

 ――前が見えない。もう痛みもない。

 

 (ここで死ぬのかな‥‥アミリアのところに行かなくちゃ……でも……約束守れなくて……ごめん)


 ――――――――

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