表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第13章 ダンジョンの謎と覚醒
PR
66/72

第66話 傀儡魔法

 ――静寂が残る。僕は小さく息を吐いた。


 「……みんな、ごめん。僕のせいで」


 皆、悲しそうな目をしていた。

 

 魔欠は――みんなと同じ場所に立つことすら、許されないのだろうか。

 何もしなければ侮蔑され、努力すれば恨まれる……


 僕は荷物を背負い直し、重い足どりで歩き出した。

 胸の奥が、ひどく冷たかった。

 

 ――――――


 ルミが、ふと呟くように言った。


 「ねえ……このダンジョンって、どれだけ深いのかな」


 ニールも低い声で続ける。


 「そもそも誰が作ったのかな。無限に湧いてくるモンスターに、仕掛けられた罠……普通の遺跡じゃないよね」


 その言葉に、ルミが小さく頷いた。


 「大昔の遺産だって、お爺様に聞いたことあるよ。昔、上級魔導士が三十階層までたどり着いたけど……強力な魔獣に太刀打ちできず逃げ帰ったって」


 ニールが目を丸くする。


 「三十階層……そんなに深いの?」


 「うん。でも、それより下は誰も見たことがないんだって。」


 ルミは淡々と答えたが、その声には底の見えない深淵を覗くような気配があった。


 ニールが続ける。


 「でもさ、モンスターが尽きないなんて……自然にできるわけないよ」


 ルミは暗闇を見つめた。


 「“何かの目的で作られた施設”って説もあるみたい。ただの遺跡じゃなくて……何かを守ってたり、とか」


 ――やっぱり、僕もただの遺跡とは思えない。

 胸のざわつきが、また少しだけ強くなる。


 僕たちは湧き出る魔獣を倒しながら、順調に階層を下っていった。

 休憩を挟みつつも着実に進み九階層へ到達した。


 ――その瞬間


 ごぉ……ん……


 地の底から響くような、重く鈍い“崩れる音”が遠くで鳴った。

 石壁がわずかに震え、天井から砂がぱらぱらと落ちてくる。


 ニールが眉をひそめる。


 「今のは……?」


 その直後。


 「うわぁーーー!!」


 叫び声が、九階層の静寂を切り裂いた。


 反響する声は一つではない。

 複数の足音、悲鳴、何かが倒れる音が通路の奥から押し寄せてくる。


 僕は剣を握り直した。


 (……ただごとじゃない!)


 ――――僕たちは走った。

 

 通路の先は──大穴が口を開けていた。


 ただの崩落ではない。

 黒い闇が、底の見えない深さで“ゆっくりと吸い込むように”揺れている。


 まるで地の底が呼吸しているみたいに、ひゅう、と冷たい風が頬を撫でた。


 崩れた床の縁には、生徒たちが壁にもたれ、震えていた。


 「先行してたチームが……何人か落ちた……!


 急に、下から爆発みたいなのが……!」


 言葉が震えている。


 「助けないと!」


 僕は穴の縁に駆け寄り、下を覗き込む。


 階層が“連なって”崩れている。

 

 その下から──


 「きゃああああああ!!こないで!!」


 女子生徒の悲鳴が響き渡った。


 僕は剣を構えたまま耳をとぎ澄ます。

 

 皆、固まって誰も動けない。ニールとルミも、混乱している。


 僕は剣を握り直し、叫んだ。


 「皆は先生たちに知らせて!」


 その瞬間、ニールが僕の腕を掴もうと手を伸ばす。


 「ロキ、待って──!」


 けれど、その手は空を切った。


 僕はもう、崩れた階層へ飛び降りるように駆け下りていた。

 迷っている時間はない。悲鳴が、まだ下から響いている。

 

 ――――


 十階  十一階 十二階 十三階 十四階


 そして――地下十五階層で、崩落はようやく止まった。


 空気が変わった。


 湿った土と鉄の匂いが混ざり、息を吸うだけで胸が重くなる。


 「あ、あ……」


 嗚咽が闇に溶けていた。


 僕が足を踏み入れると、崩れた瓦礫の陰に、血まみれの生徒たちが数名倒れていた。

 けが人が大勢いる。


 ミランダは青ざめ、杖を握る手がカタカタと鳴っていた。


 「は、はやく止血……しないと……」


 リオナは魔法薬を取り出し、落ち着いた声で言う。


 「大丈夫よ。傷は治るわ。」


 魔法薬師のカーミラさんの指導どおり、リオナは迷いなく対処している。


 ミランダは頷こうとするが、手が震えて薬瓶を落としそうになる。


 制服は裂け、腕や脚には深い爪痕。

 床には赤黒い血が広がり、まだ温かい湯気を立てている。

 

 セシルは口元を押さえ、呆然と立ち尽くしていた。


 僕は、倒れている生徒に駆け寄った。

 

 「何が!?」

 

 ――その時

 

 土の壁が立ち上がった。

 

 キースが魔法で何かを防ごうとしている。

 

 「く、来るなよ……来るなよ……!」

 

 その横でリーフが震える杖を構え、必死に周囲を見回している。

 

 生徒の一人が、震える指で闇の奥を指した。

 

 「……みんなが……みんなが……」


 次の瞬間── “それ”が姿を現した。

 

 学院のマント。制服。見覚えのある顔。

 

 火属科のジョシュアたちだ。

 

 光が当たった瞬間、それが同級生の“異様な姿”だと分かった。

 目に生気はない。

 

 瞳孔は開ききり、焦点がどこにも合っていない。

 皮膚には黒い紋様が浮かび、まるで闇そのものが身体を這っているようだった。

 

 僕は思わず声を漏らした。

 

 「ジョ、ジョシュア……?」

 

 ジョシュアは反応しない。

 

 糸で吊られた人形のように首を傾け、ぎこちない動きで一歩、また一歩と近づいてくる。

 

 皆が一斉に息を呑んだ。

 

 「やだ……ジョシュア……嘘でしょ……?」

 

 恐怖が波のように広がる。


 影から闇属科のリリーとエレナがすっと現れた。

 

 「私たちはとっさに影に隠れて無事だったけど……みんなは備える余裕がなくて」

 

 エレナはジョシュアの身体を覆う黒い紋様を見つめ、震える声で続ける。

 

 「闇の傀儡魔法よ……縛られてる……」

 

 その時、ジョシュアの口が、かすかに動いた。

 

 「……た……す……け……」

 

 その瞬間、ジョシュアの身体だけが獣のように跳びかかった。


 ――僕たちは散開し、かろうじて避ける。

 

 僕は剣を構えたまま、どこかに術者がいないか探る。

 

 ――――すると

 

 足音もなく黒マントの男が現れた。

 

 その隣に立つ女は、白い肌が闇に浮かび上がるような、毒めいた美しさを放ち、触れれば凍りつくような気配をまとっている。


 ――――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ