第62話 魔導師団の英雄
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「……上級魔導士……!」
リオナが息を呑む。
男は静かに杖を掲げた。その動きだけで、周囲の空気が張りつめる。
僕たちは反射的に後退した。
上空に魔法陣が展開される――
ひとつ、ふたつ、みっつ、複雑な術式が重なり合い、雷光が走る。
男女は、圧倒的な響きで二重詠唱を紡いだ。
「天を裂き、雷霆よ。 我が呼び声に応じ、罪を打ち砕く神槌となれ――
《雷槌招来》!」
――詠唱が終わった瞬間、空が裂けた。
轟く雷鳴とともに、巨大な雷の槌――ライトニング・ハンマーが天から落ちてくる。
――ドガーーン
デス・ベリアルの頭上に直撃した。
轟音。閃光。地面が揺れ、石畳が砕け散る。
デス・ベリアルの巨体は雷に焼かれ、後方へ吹き飛んだ。
黒い毛皮は焦げ、血走った目は白く濁り、そして沈黙した……。
僕たちはその場に立ち尽くし、恐怖と安堵が入り混じったまま――しばらく動けなかった。
上級魔導士の一人が、ゆっくりと降りてきて僕に声をかける。
「君は……学院の学生か。……
飛竜レースで活躍した――ロキ・グレイシアだったな」
突然の問いに、僕は戸惑いながらも答えた。
「なぜ僕の名前を?」
上級魔導士はうなずいた。
「あれだけ目立てば嫌でも覚える。私は、魔導師団 央都治安部隊の隊長――セルド・フォルテスだ。こちらは副隊長のミル・フィーラ」
その名に、リオナが息をのむ。
二人は共和国でも名の知れた上級魔導士。
英雄だ。
セルド隊長は周囲を見渡し、低くつぶやく。
「正体不明の化け物が暴れていると報告を受け、途中で仲間との通信が途絶えた……」
視線の先には、変わり果てた魔導士たちの姿があった。
「まさか、デス・ベリアルが街中に出るとはな……」
セルド隊長が低くつぶやく。
僕は、おそるおそる口を開いた。
「なんで……こんな化け物が出たんですか?」
セルドは眉をひそめ、静かに答える。
「……我々にも分からない。当然、自然発生とは考えられない」
セルド隊長は続ける。
「だが、君のおかげで被害を最小限に抑えられた。本当にありがとう」
――胸の奥が、じんわりと熱くなる。
褒められることなんて、ほとんどなかった。
だから、セルド隊長の言葉が素直にうれしかった。
「もし、何か気になることを思い出したら、魔導師団まで連絡してくれ」
僕とリオナは軽く頭を下げ、並んで歩き出した。
足音だけが静かに響き、さっきまでの緊張が、少しずつ遠ざかっていく。
――その背中を見送りながら、ミル副隊長が小さく息をついた。
「デス・ベリアルの角を……剣で切り落とすなんて。信じられませんね」
セルド隊長がわずかに笑う。
「あー。飛竜レースの優勝も偶然ではない、ということだな。
魔欠の少年……本当に異色づくめだな」
その横顔には、驚きと戸惑いが入り混じった静かな影が差していた。
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