表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第10章 スカイレース大会
PR
55/72

第55話 風のエルフの猛追

 湖を抜けた先に、黒い裂け目のような洞窟が口を開けていた。


 入口は飛竜一頭がやっと通れるほど狭く、中からは地鳴りのような風が吹き出している。

 岩壁に当たった風が唸り、まるで洞窟そのものが呼吸しているようだった。


 リオが一瞬ためらう。僕は首筋を軽く叩き、静かに合図を送った。


 「リオ。ここを抜ければ……最後の直線だ」


 リオは翼を僅かに畳み、狭い洞窟へ滑り込む。


 中は暗く、湿った空気が肌にまとわりつく。

 壁の隙間から吹き込む逆風が、体ごと押し戻そうとしてくる。


 「うっ……!」


 風が強すぎて、呼吸すら奪われそうだ。

 岩壁がすぐ横を流れ、少しでも軌道を誤れば即墜落。


 その緊張の中――


 背後から、風を裂く音が迫ってきた。


 ――風属性の“セシル”だ。

 

 洞窟の闇を切り裂くように、エルフの少女が飛竜を操りながら迫ってくる。


 実況が声を張り上げる。


 「セシル選手! 風の申し子の異名はだてじゃない。風魔法で逆風を切り裂き、飛竜の通り道をつくった!」


 洞窟を満たしていた荒れ狂う逆風が、彼女の魔法で一瞬だけ“静かな流れ”へと変わる。

 その風の道を利用して、セシルは一気に加速した。


 「ロキ選手を追い抜かれた!!」


 狭い空間で、セシルの飛竜が僕たちを追い抜き、そのまま前へ抜ける。


 「魔欠に負けるなんて……エルフの名誉を汚すわけにはいかない!」


 セシルの声が洞窟に反響し、風がさらに荒れ狂う。


 逆風が壁のように押し寄せ、リオの翼を揺らす。

 それでもリオは、持ち前のパワーで必死に推進する。


 「まだ……負けない!」


 僕はリオの首筋を叩き、呼吸を合わせる。

 洞窟の闇の中、二頭の飛竜が火花を散らすように並走した。


 ――――


 次の瞬間――外の空気が一気に軽くなる。


 眩い光が視界を満たし、木々の緑が一斉に広がった。

 枝葉が風に揺れ、その向こうに巨大なゴールアーチが見えてくる。


 観客席のざわめきが、遠くから波のように押し寄せる。


 「絶対に……負けないわ!」


 セシルの声が、森の風に乗って響いた。


 ナギルが低くつぶやく。


 「……あの娘は手ごわいな」


 セシルは風魔法で飛竜を加速し、速度が増す。


 さらに――


 ザシュッ。


 セシルが放った妨害の突風が飛んでくる。


 リオは鋭く旋回し、その突風をすり抜けた。


 僕は弓で反撃するが、セシルの風魔法に押し返される。


 互いに一歩も譲らない。


 森の風が二頭の飛竜を包み、最後の直線へ――

 決戦の舞台へと、二つの影が飛び込んでいく。


 風がぶつかり合い、木々がしなるほどの突風が二頭の飛竜を包む。


 ――――


 僕はバッグから一本の矢を取り出した。


 “とっておき”の切り札。


 指先が矢羽に触れた瞬間、世界がまた一拍だけ静まる。


 リオの鼓動と、僕の鼓動が重なる。

 その中心で――僕だけが静かだった。


 ――放つ。


 ボンッ!


 小さな爆発音が響く。


 火と水の魔力を融合させた"魔法矢"は、大量の水蒸気を発生させた。


 矢が空気を裂き、その軌跡を追うように、あたり一面に濃い霧が広がり、視界が真っ白に染まる。

 

 観客も、スクリーンも、何が起きたのかわからない。


 風が乱れ、セシルの動揺が響く。


 「一体なにが起きたの!?」


 視界を奪われたセシルの飛竜が、大きく失速する。


 司会と観客の声が重なる。


 「な、何だ……!? 映像が……!」


 霧が風に流され、白い世界の中で、ただ僕とリオだけが前へ進んでいた。


 ――霧の中で視界を奪われたセシルは、歯を食いしばり、叫ぶように魔力を解き放った。


 「ゴールは目の前よ!! とにかく突っ込んで!!」


 セシルは視界も定まらないまま、がむしゃらに魔力を全開にし、飛竜の通り道を風魔法でこじ開ける。

 風が爆ぜ、森の枝葉が逆巻き、空気そのものが悲鳴を上げる。


 飛竜は風の奔流に押し上げられ、矢のように前へ飛び出した。


 その瞬間――霧の向こうにリオの影が浮かび上がる。


 「くらえ!!」


 セシルは最後の魔力を振りしぼり、鋭い風魔法を放つ。


 ――スクリーンに、しばらく静寂が訪れた。


 観客席のざわめきが止まり、誰かがぽつりとつぶやく。


 「どうなってるんだ……?」


 霧が風に流され、ゆっくりと視界が開けはじめる。


 巨大スクリーンに、ロキとセシルの姿が映し出される。


 その映像には――飛竜の背で、弓を構える一人の少年がいた。


 観客席がざわめく。


 少年は、静かに、しかし迷いなく弦を引き絞る。


 ザシュッ!


 放たれた矢は光をまといながら風の奔流を巻き込み、一直線にセシルへ向かっていく。


 次の瞬間――


 ボンッ!!


 矢が爆ぜ、風の旋風がセシルの周囲に巻き起こった。


 スクリーン越しにも伝わる衝撃。観客が息を呑む。


 セシルの悲鳴が響いた。


 「きゃーー!!」


 魔欠が魔法を使うわけない――そんな油断が判断を遅らせた。


 飛竜が大きく揺れ、セシルの体がぐらりと傾く。


 実況席も困惑する。


 「な、なんだ今のは!? ロキ選手の矢が……風を爆ぜさせたのか!?」


 白い霧と風の渦の中、二つの影が揺れながらゴールへ向けて、最後の攻防へ突入していく。


 観客のざわめきと同時に、魔導具工房のリワードと鍛冶工房のラグ親方に不敵な笑みが浮かんでいた。


 ――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ