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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第9章 異国の少女
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第43話 急襲

 魔法科はグラウンドで魔法の実習をしている。

 短文詠唱があちこちから響き、空気がピリピリしていた。


 僕は、属性魔力を蓄える《魔力オーブ》の製作に取り組んでいる。

 魔法が使えない僕にとって、魔工科は唯一の居場所だった。


 不器用な僕とは対照的に、ニールは手際が良い。

 僕が魔力回路の刻印に苦戦していると、横から覗き込みながら言った。


 「ロキは不器用だな。何つくってるの?」

 

 「……水属性の魔力オーブ」


 水魔法はアミリアの得意な魔法だ。

 実習課題は、気づけばこれを選んでいた。


 「ほら、ここの魔力回路が逆なんだよ」


 ニールが刻印を指でなぞると、オーブはふっと綺麗な青い光を灯した。


 「なっ、光っただろ」


 ニールが得意げに笑う。


 「ニールは器用だね」


 「イッシシ」


 照れ隠しのような笑い声が、オーブの青い光に溶けていった。


 ――授業が終わり、魔法科も実習を終えたようだ。


 生徒たちがぞろぞろと帰っていく。


 僕も日課であるレイン先生の剣の稽古だ。

 その腰には、他の生徒にはない剣がぶら下がっていた。


 僕は完成した魔力オーブが嬉しくて、しばらくそれを眺めていた。


 そのとき──


 「おい、魔欠!」


 背後から高圧的な声がした。


 振り向くと、風属性のリーフが立っていた。

 魔法絶対主義を絵に描いたような男。

 最近、やけに絡んでくる。


 リーフは僕の手元を見て、鼻で笑った。

 

 「またそんなガラクタをいじって喜んでるのか。

  魔法も使えないくせに、何を気取ってるんだよ」


 取り巻きがクスクスと笑う。


 リーフが一歩、僕に詰め寄る。

 距離が近い……


 「お前みたいなのはな、魔導学院じゃなくて鍛冶屋にでも行くのがお似合いだ」


 馬鹿にするような声。

 その響きには、ただの嫌がらせではない――別の感情が混ざっている気がした。


 その時――


 「そこ、何をしている!」


 魔法科の指導をしていたテロッタ先生の鋭い声が響いた。

 空気が一瞬で引き締まる。


 リーフはビクリと肩を揺らし、次の瞬間には完璧な笑顔を貼りつけていた。


 「先生、なんでもありません。ちょっと肩がぶつかってしまって」


 貴族の子息らしい“取り繕い”は見事だった。


 そして僕にだけ聞こえるように、舌打ちをひとつ。


 「……ちっ」


 威嚇するように背を向けた。


 残された僕の胸の奥には、無力感だけが残った。


 何より、一生懸命作ったオーブを――

 アミリアへの思いを否定されたようで、それが一番悔しかった。


 僕は、握りしめた魔力オーブの青い光を見つめ、気持ちを切り替えるように背筋を伸ばした。


 ──稽古の時間だ。


 僕は剣を手に取り、訓練場へ向かった。

 稽古中は、不思議と余計なことを考えずにすんだ。


 剣を振るたび、昼間のリーフの不快さも忘れられる。


 ――やがて、レイン先生の号令が響く。


 「今日はここまでにしましょう」


 僕は稽古を終え、ゆっくりと剣を鞘に収めた。

 剣術の訓練を終えると、汗が冷えていくのを感じながら、ゆっくりと息を整えた。

 手の中の剣は、まだ微かに温かい。


 魔法は使えないけれど──せめて、この剣だけは手放したくなかった。


 子どもたちの笑い声が遠くから聞こえるたび、僕が育ったローレット孤児院を思い出す。


 ――――


 僕は孤児院の門を出て、街へ続く石畳を歩き出した。


 夕暮れの街は、橙色に染まっている。 

 店じまいを始める商人の声、レストランから漂う美味しそうな香り、家路を急ぐ人々の足音。

 いつもと変わらない、静かな夕方の街並み。


 そのとき──


 ドッガァァァンッ!!


 「きゃあああああっ!!」


 爆発音とともに、鋭い悲鳴が街の先の方から響いた。

 石畳が揺れ、店の看板がガタガタと音を立てる。


 「逃げろ!」

 

 「何だ今の……!」


 誰かの叫び声とざわめきが一気に広がり、人々が蜘蛛の子を散らすように走り出す。


 ――視線の先。


 馬車が横転し、木片が散乱していた。

 

 その周囲を、黒装束の男たちが取り囲んでいる。


 「動くな!!」


 怒号が飛ぶ。


 馬車のそばでは、お付きの魔導士と思われる男が、一人の女性を庇うように立ちはだかっていた。

 

 だが──多勢に無勢。


 魔導士のローブは破れ、肩から血が流れている。

 それでも彼は、女性を守ろうとしていた。


 「娘をさらえ!!」


 男たちが叫ぶ。

 その背後で、仲間の一人が“小さな少女”を肩に担ぎ上げた。


 少女は必死に暴れ、小さな手で男の背中を叩いていた。


 ──子供?


 「くっ……逃げ……っ」


 魔導士の声が掠れる。


 女性はフードを深く被っているが、その下の表情は隠しきれなかった。

 奪われた“何か”を追おうと、一歩踏み出しかけた。


 しかし、魔導士に腕を掴まれ、息を呑む。


 震える唇。揺れる肩。

 抑えきれない焦りが、フードの影から滲み出ていた。


 ――僕は息を呑んだ。


 (助けないと)


 男たちは叫んだ。


 「急げ!!魔導師団がくるぞ!!」


 その声に反応するように、遠くの大通りから複数の青い外套が揺れた。


 魔導師団の団員たちが駆けつけ、人々が左右に避けていく。


 だが──間に合わない。


 「乗れ!! 早くしろ!!」


 少女を抱えた男が、横転した馬車の影から別の馬車へ飛び乗った。


 馬がいななき、石畳を蹴って走り出す。――

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