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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第7章 ミール先生の影とアミリアへの贈り物
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第33話 ミール先生の告白

 ミール先生は再び言葉を落とす。


 「……あの時も、こうやっておんぶしたな」


 歩みがわずかに止まり、先生の声が低く落ちる。


 「ミース村の森――ロキとアミリア様が魔獣に襲われた森だよ」


 胸の奥で、何かが弾けた。


 「!!」


 ――そうだ。


 僕とアミリアが魔獣に襲われたあと、誰かにおんぶされて村に帰った記憶が、かすかにあった。

 その時、おんぶしてくれたのが――ミール先生だったのか。


 「僕とアミリアの仲を裂いたのが……ミール先生って?」


 ミール先生は、少しだけ目を伏せた。


 「あの時、魔獣を取り逃がした三人の魔導士の一人が私だよ。その結果、アミリア様の力は魔導師団に知られることになった。

 ――その手はずをしたのが私だ、ロキ」


 「!」


 胸の奥に衝撃が走った。ミール先生は続ける。


 「ロキには、そのあたりの話をしなければな……怪我が大丈夫なら、私の執務室に来なさい」


 ――――――


 そして、僕はミール先生の執務室に招かれた。


 ミール先生は静かに語り始めた。


 「あの時、私は魔導師団の魔導士として、魔獣を追っていた」


 その声は淡々としているのに、どこか重かった。


 「前“水の賢者”の老衰により結界が弱体化し、大賢者の結界の一部に綻びが生じた。

 その隙間をかいくぐり、魔獣が一匹、現世に顕現してしまったんだ」


 僕は息を呑んだ――

 あの日の森の空気が、胸の奥で蘇る。


 「当時、魔導師団に在籍していた私は、ミース村の奥の森に逃げ込んだ奴を見つけ追い詰めた」


 ミール先生の声が少しだけ低くなる。


 「しかし……魔獣はすさまじく凶暴で、取り逃がしてしまった」


 その瞬間、僕の脳裏に――あの日、森で聞いた爆発音がよみがえった。


 ミール先生は続ける。


 「そして、“森にいた少女が異界の魔獣を倒す”という、信じがたい光景を見た」


 「私はその内容を師団上層部に報告した。

 にわかには信じられない話だったが、森に残された魔獣の死骸を持ち帰り調査した結果……少女の魔力が本物であると確信した」


 ――その後のことは、僕も知っている。

 アミリアが連れていかれた日。僕の手から離れていった日。


 胸が痛む。


 ミール先生は目を伏せた。


 「すまなかったな。もう少し私がうまく立ち回っていたら、ロキとアミリア様の絆を引き裂くこともなかった。お前たちに大きな傷を負わせることもなかった。

 ――本当に……すまない」


 ミール先生の謝罪は、本心だと感じた。


 僕は心の内を正直に答えた。


 「僕は、アミリアがいなくなってから、この世界が灰色に見えていました。魔法が使えない僕が、彼女の隣にいることは相応しくない……と」


 胸が熱くなる。


 「でも、別れる前夜……アミリアは、僕のことをずっと待ってくれると言いました。

 だから、僕は必ず彼女を迎えにいくと誓いました」


 涙がこぼれそうになる。


 「アミリアが連れていかれてしまったことは悔しいです。……

 でもそれは……自分の弱さに対してです」


 ミール先生は黙って聞いていた。


 「だから僕は、剣を覚えれば、魔法が使えない僕でもアミリアを守れる。

 彼女を迎えにいけるのかな……って」


 僕は深く息を吸った。


 「ミール先生、もう一つ聞かせてください」


 ミール先生は静かにうなずいた。


 「アミリアは……その後どうしているのですか?」


 ミール先生は、少し息を整えるようにして語り始めた。


 「ミース村から連れてこられたアミリア様は、聖浄院に入られた。

 私は水の魔導士として、水の賢者であるアミリア様の護衛についた」


 その時、ミール先生の表情が、ほんのわずかに柔らいだ。


 「アミリア様は立派だったよ。あの年で賢者としての役目を果たそうとしていた」


 そして、思い出をそっと扱うように声を落とした。


 「ある夜、聖浄院の警備をしていた時……アミリア様の部屋から、すすり泣く声が聞こえたんだ。

 ……その時、間違いなくこう聞こえた」


 ミール先生は、耐えるようにゆっくりと目を伏せた。


 『――“ロキ……”と』


 胸が締めつけられた。


 「私は思ったよ。いくら人並み外れた魔力を持っていても、賢者と祭り上げられても……この部屋にいる“水の賢者”は、十三歳の少女なんだと」


 ミール先生は、言葉を選ぶように続けた。


 「翌日、アミリア様と話した。今ロキに話したことと同じことをすべて」


 アミリアは何も言わず、ただ聞いていたという。


 そして最後に――


 『……ロキが心配です。この春から学院に入る彼が、魔法が使えず、先生や同級生から意地悪されるのではないかと……どうか彼を支えてあげていただけないでしょうか』


 アミリアは、涙を流しながら深々と頭を下げたという。

 

 「私はロキとアミリア様への贖罪だと思った。……

 そして魔導学院、魔工科への移動希望を出し、受理された」


 ミール先生は、自嘲にも似た小さな笑みをこぼした。


 「魔導師団から学院の教師。

 しかも異動希望者がいない魔工科への配属希望は、すんなり受理されたよ。

 はたから見れば左遷と思われているのだろうけどな……」


 そして、胸の奥に沈めていた本音を、静かに口にした。


 「だが、私は後悔していない。魔導師団の権力争いにはうんざりだったしな」


 ミール先生は笑った。

 僕も、その優しさに引かれるように笑った。


 「……これが、私の知っていることのすべてだ」


 ――その言葉が落ちた瞬間、胸の奥にかかっていた薄い霧が、静かに晴れていくのを感じた。


 「……ミール先生。話してくれて、ありがとうございます。

 ――アミリアとの別れを思い出すと、今でも胸が痛みます。

 でも……先生が、僕たちのことをそんなに考えてくれていたなんて……そのことが、嬉しいです」


 ――僕は静かに立ち上がり、ミール先生の執務室を後にした。


 あの日の真相と、アミリアが僕を待っていてくれることを知れて、胸の奥の重さがほんの少しだけ和らいだ気がした。


 僕は、もう少し頑張れそうだ。

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