表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第7章 ミール先生の影とアミリアへの贈り物
32/38

第32話 おぶされた記憶

 魔法障壁の授業――


 ジョーンズ先生が前に立ち、低い声で告げる。

 「今日は魔法障壁の発動訓練を行う。適切なタイミングで障壁を展開すれば、攻撃魔法はもちろん、物理攻撃も防げる。戦士の剣など恐れるに足らん」


 ジョーンズ先生には、魔法に対する絶対的な自負がある。

 生徒たちは互いに向かい合い、攻撃魔法を撃ち合いながら障壁の練習を始める。


 「お前、魔欠けのロキだろ」


 背後から高圧的な声がした。

 振り向くと、風属性のリーフ・コルドが立っていた。

 央都の名門貴族。魔法絶対主義を絵に描いたような男だ。


 リーフの視線が、僕の腰の剣に向く。

 「魔導学院で剣なんてぶら下げて……品位を落とす真似はやめてもらえないか?」

 吐き捨てるような声音。

 リーフは杖の先に風をまとわせ、僕に見せつけるように軽く振る。


 「僕、魔法が使えないから……杖の代わりに帯剣していいって――先生から許可をもらってて。

昔いたドワーフの生徒も帯剣してたみたいだから――……」


 言い終わる前に、リーフの口元が歪む。

 「ああ、なるほどな。そういう“力任せの連中”と同じってわけか。そんなガラクタぶら下げても、魔法には勝てないんだよ」


 周囲のクラスメイトもクスクス笑っている。


 僕は黙って背を向けた。だが、それが癇に障ったらしい。

 「無視してんじゃねぇよ、出来損ない」


 ――そのとき。


 「やめなさい、リーフ。弱者をいじめるのは貴族の振る舞いにそぐわないわ」


 赤髪の女子が割って入った。

 学年トップ 火属性のリオナ・フレイ――

 

 だが、その瞳は僕を一瞥しただけで、“同情ではなく、格下を見る目”だった。

“ 弱者”という言葉が胸に刺さる。


 さらに土属性のキース・ブロストが肩をすくめる。

 「武器に頼らなきゃ何もできないとか、ほんと大変だよな」


 平民出身のキースでさえ、その言い方は“お前は俺たちとは違う”と告げていた。


 (言い返せない。魔法が使えないのは事実だから。)


 ――周囲では、生徒たちが次々と障壁を展開し、互いに攻撃魔法を撃ち合っていた。


 僕は避けることしかできない。

 けれど、レイン先生に鍛えられた足腰には自信がある。


 「ロキ、いくぞ!」

 

 対面の生徒が魔法を放つ。

 「ウォーターボール!」


 水の弾丸が一直線に飛んでくる。魔法の軌道は見える。

 僕は身をひねって避けた。


 ――その時。


 ジョーンズ先生の声が飛ぶ。

 「ロキ! 逃げる授業ではないぞ。魔法を“防ぐ”授業だ! 剣は飾りか?」


 ジョーンズ先生は意地悪だ。僕のことを疎ましく思っている。

 剣で魔法を受けられないことなんて、分かっているはずなのに。


 対面の生徒が、ためらいもなく再度魔法を放つ。

 「ウォーターボール!」


 僕は、咄嗟に剣を構えた。

 だけど──剣で魔法は防げない。


 「ぐっ──!」


 直撃する。視界が揺れ、地面を転がる。

 周囲から小さな笑い声が漏れた。


 「やっぱ剣じゃ無理だよな」

 「かわいそうだよ。手加減してあげないと」


 胸の奥が焼けるように痛む。


 ――それでも立ち上がろうとした瞬間。


 「今度は私よ!」


 別の女子が火の詠唱を始める。

 「ファイヤー・ボール!」


 火の玉が迫る。――


 ドンッ!!


 爆ぜる衝撃が体を包み、僕の体は大きく吹き飛ばされた。

 地面に叩きつけられた瞬間、意識がふっと遠のいていく。


 (……悔しい……)


 最後にそう思ったところで、視界が真っ黒になった。


 ――――――


 ──気がつくと、僕はミール先生におぶされていた。

 背中越しに伝わる体温が、妙に安心感をくれる。


 「ミール先生……?」


 低く落ち着いた声が返る。

 「目を覚ましたか」


 そこで、胸の奥がずきりと痛んだ。

 情けなさと、みじめさと、どうしようもない罪悪感が一気に押し寄せる。


 魔法が使えない自分が、また迷惑をかけた──

 その思いが喉につかえて、息が苦しくなる。


 「すみません……僕が魔法を使えないせいで……」


 ミール先生は歩みを止めず、しかし、ほんの少しだけ声を柔らかくした。

 「お前は、できることをやってるよ」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。

 魔欠けの僕に、中途半端な慰めが意味を持たないことをミール先生は分かっている。

 だからこそ、余計なことは言わない。

 言葉を慎重に選んでいるのが、背中越しでも伝わってくる。


 ――それでも。

 僕を心配してくれているのは、痛いほど分かった。


 「…………」


 ――それにしてもこの光景。おぶされている感覚。

 どこかで覚えがある。胸の奥で“既視感”がよぎる。


 僕は意を決して口を開く。

 「ミール先生……ひとつだけ聞いていいですか」


 「ん?――なんだ」


 「僕……先生と、どこかで会ったことある気がして。でも、それがどうしても思い出せなくて……」


 ミール先生は、すぐには答えなかった。


 歩みがわずかにゆっくりになる。

 沈黙が、路地の影のように長く伸び、


 やがて──低い声が落ちてくる。


 「……そうだろうな」


 さらに一拍置いて言葉を落とす。


 「ロキとアミリア様の仲を裂いた張本人だからな」


 「!?――――」


 僕は頭が真っ白になった。

 ミール先生が僕とアミリアの仲を裂いたって?

 訳がわからない。胸がざわつく。――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ