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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第6章 魔工科の友情
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第31話 サキュバスのカーミラさんは毒舌だけど

 五分ほど歩くと――「カーミラ魔法薬店」に到着した。


 扉を開けると、紫色の髪をした長髪のサキュバスの女性がカウンターに座っていた。


 「おー、来たかミール。先公が様になってきたじゃないか」


 センコウ?

 美人なのに、口が悪い。

 ミール先生を“先公”呼ばわりするあたり、なかなかクセが強い。


 (この人……大丈夫かな)

 僕たちは同じことを思った。


 珍しくミール先生が焦ったように、僕らに釈明するような口調で紹介を始めた。

 「彼女はカーミラさん。サキュバスだが、昔――腕利きのテイマーに調教され、悪事から足を洗ったんだ」


 カーミラさんは肩をすくめて笑う。

 「昔は魅惑魔法でちょいと悪さもしたけどね。今は真面目に働いてるよ」


 ミール先生が続ける。

 「持ち前の魔力量と、エルフ顔負けの調合スキルを活かして、今ではこの国屈指の魔法薬士だ。口は悪いが腕は確かだぞ」


 カーミラさんは鼻で笑い、少しだけ目を細めた。

 「お高く留まったエルフと並べるんじゃないよ。あいつら、自分たちが男に一番人気だと思ってる、いけ好かない連中さ」


 毒舌なのに、どこか本音で生きている感じがした。

 その率直さは、むしろ清々しい。


 「ま、それはさておき、あんたら学生の面倒くらいは見てやるよ。ミールの頼みだしね」

 その言葉に、僕たちは少しだけ安心した。


 カーミラさんは店の中を案内してくれた。

 ハーブの香りがふわりと鼻先をかすめ、回復薬や解毒薬、調合途中の瓶が棚にきれいに並んでいる。

 言葉は荒いのに、手仕事は驚くほど繊細だった。


 カーミラさんは、どこか誇らしげに目を輝かせて言った。

 「私はね、伝承にある“エリクサー”を作りたいんだけど……これだけは失敗続きさ。

 でも、もし完成したら、魔法医学の常識がひっくり返るよ」


 その言葉には、職人としての夢と執念が滲んでいた。


 「あたしの爺さんが言ってたんだけどね――」


 カーミラさんは、どこか懐かしむように語り始めた。


 「大昔、あたいの故郷で、それはそれは狂暴な人間の剣士が大暴れしたらしいさね。

 魔族が総がかりで、やっとこさその剣士を追い詰めたって時に……

 あんたらが崇めてる大賢者ってのが、エリクサーを使って復活させちまったみたいさね」


 カーミラさんの声が、少しだけ低くなる。

 「それで魔族や魔獣の屍が山になったって話さ。大賢者ってのも、ろくなことしないねー」


 歴史の教科書にはそんな話は載っていない。

 そういえば、鍛冶工房のラグさんも同じようなことを言っていた。


 カーミラさんは、果実の香気を閉じ込めた小さな“結晶”を手のひらにのせて見せてくれた。

 「これは魔法薬っていうより、ちょっとした贈り物の紹介だけどね。

 この結晶は、果実やハーブを調合して作る“香”だよ。疲れた時や心が弱ってる時に、好きな果実やハーブで作った香を焚けば、体も心も少し癒される」


 ニールとルミは知っているようで、にこにこと頷いている。


 「恋人とか家族とか、大切な人への贈り物として人気なんだよ」


 カーミラさんは胸を張って言った。

 「うちの店のは特別さ。私が魔力を混ぜるから、癒し効果に加えて、

 “あなたを大切に思ってる”って気持ちが、ほんの少しだけ伝わる。

 魅了の一種だけど、相手の意思を操るほどじゃないよ。ただ、送り主の想いをそっと添えるだけさ」


 アミリアも知っているのだろうか。

 アミリアが好きだったレッドベリーの“香”を送ったら喜んでくれるだろうか……


 胸の奥が、そっと締めつけられた。


 ――説明が終わり、皆が店を出ていく。

 僕も扉から離れようとしたが、ふと足が止まった。


 アミリアのことがふと胸に浮かび、気になって胸がざわついた。

 さっき見せたカーミラさんの柔らかな笑顔が、僕を振り返らせた。


 カーミラさんのもとへ歩み寄る。

 「……カーミラさん。今度、僕にも“香”を作ってもらえますか」


 カーミラさんは一瞬だけ驚いたように瞬きをしたが、すぐに、毒気の抜けたとても優しい目でこちらを見た。

 「調合は簡単さ。学校が休みの日にでも来な。田舎の母さんにでも送るのかい?」


 「……そんなところです」

 本当は違う。でも、今は言えなかった。


 ――そのやり取りを、ミールがそっと見守っていた。

 その目には、ロキの胸の奥にあるものを静かに察したような影が、かすかに揺れていた。

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