第30話 魔道具工房の魅力に触れて
週明けの月曜日。
また魔導学院での生活が戻ってきた。
授業開始を告げるチャイムとともに、ミール先生が教室の扉を開けて入ってきた。
黒板にチョークを走らせながら、先生は説明する。
「今日から、魔道具制作と魔法薬生成を本格的に行っていく。
午前中は座学、午後は街の工房を見学する。」
ミール先生は黒板に次々と魔道具の名前を書きながら、その用途と重要性を説明していく。
魔道具には、属性魔力を込めたオーブ、エンチャントの付与石──
魔法薬には、回復薬、魔力回復薬、解毒薬など、戦場で必要とされる様々なものがあるようだ。
僕たちの制服のマントも、実習を想定して魔力攻撃を半減させる効果があるらしい。
上質な生地だとは思っていたけれど、まさかそんな良いものだったとは。
魔道具も魔法薬も、すべてが“誰かを守るための力”なんだということに気づいた。
魔工科の学びは、僕が前に進むために確かに必要なものだった。
僕は必死に耳を傾けた。
――ミール先生が黒板を軽く叩き、講義を締めくくった。
「午後は、街の魔道具工房や魔法薬工房を見学する。出発までに支度を整えておくこと。」
僕たちは、食堂のいつもの席で昼食をとっていた。
「午後も楽しみだな!」
魔道具作りが好きなニールは、ワクワクが抑えきれない様子だ。
「ミール先生って、渋くてかっこいいよな」
ニールが突然そう言った。
僕も男だけど、ミール先生が“男として”かっこいいのは本当だ。
あの落ち着き、あの包容力。僕も、少し憧れてしまう。
そんなたわいもない雑談をしながら昼食をすませ、僕たちは教室へ戻った。
――午後、僕たちはミール先生に引率され、校舎を出た。
学院の正門を出て五分ほど歩いたところに、央都でも有名な魔道具工房が見えてきた。
店の看板には《リワード魔道具工房》と書かれている。
店主のリワードさんは、少し小太りで優しそうな笑顔の男性だった。
「ミール先生、いらっしゃい。この子たちが今年の学生さんですか?」
「そうです。おい、みんな。自己紹介しなさい」
僕たちは順番に自己紹介した。
「私はリワード。この工房の店主をしています。
先々代が店を構えてから……そうだな、もう百年は続く老舗だよ」
工房の奥からは、金属を叩く音や、魔力の火花が弾けるような音がかすかに聞こえてくる。
その音だけで、胸が少し高鳴った。
百年続く工房。魔道具の歴史そのものみたいな場所だ。
ニールは目を輝かせながら工房内を見回している。
本当に魔道具作りが好きなんだと、横顔を見るだけで分かる。
棚には大小さまざまな魔道具が並び、奥では職人たちが黙々と作業を続けていた。
金属の匂いと、魔力の微かなざらつきが空気に混じっている。
リワードさんがいくつかの魔道具をひと通り見せてくれたあと、オーブを手に持った。
「実際に魔力オーブを試してみるかい?」
ミール先生が少し驚いたように眉を上げる。
「よろしいのですか? 事前にお願いしていたわけでは……」
リワードさんは胸を張って笑った。
「職人は実践してこそだよ。作って、試して、失敗して、成功する。その繰り返しで腕が磨かれるんだ」
その言葉に、僕たちは思わず感嘆した。
――案内されて工房の裏へ向かうと、そこは広い実験場になっていた。
都市の中心街にこんな場所があるなんて驚きだ。
だが、危険な魔道具を試すには、少し不安を感じる。
その不安を察したのか、リワードさんが説明してくれた。
「ここは魔道具で魔力障壁を張ってあるんですよ。それと、防音石も設置してます。本来は大型モンスターの咆哮から鼓膜を守るためのものだけど、応用すれば爆音も吸収できるから、近所迷惑にはならないよ」
リワードさんの落ち着いた声に、胸の不安がすっと消えていく。
僕たちは、魔道具がこんな応用もできるのかと目を輝かせた。
――魔力オーブは、思ったより軽くて投げやすいようだった。
力のないルミが投げても、十メートル先の的にしっかり当たった。
直後――
火球が爆ぜた。
ファイヤーボールだ。
爆ぜた炎がすぐに霧散し、焦げ跡だけが残る。
ルミは驚きで目を丸くし、ニールは興奮して身を乗り出した。
「よくやったな」
ミール先生が静かに言うと、ルミはほっと息をついた。
その様子を見て、リワードさんも満足そうに頷いた。
火球の余熱がまだ空気に残っていて、その温もりに触れた僕たちの胸の奥でも、
魔道具づくりへの期待が、そっと灯った気がした。
――僕たちはリワードさんに礼を言い、名残惜しさを感じながら魔道具工房を後にした。
次の魔法薬店へ向かう途中、ニールが興奮気味に言った。
「それにしても、すごかったな魔力オーブ!」
ルミも嬉しそうに続ける。
「私でも使えたよ……」
石畳の道を歩きながら、僕たちはさっきの体験を何度も振り返った。
街の喧騒が少しずつ近づき、午後の日差しが建物の影を長く伸ばしていく。




