第29話 夕暮れの街、三人のひととき
剣術の稽古を終え、ようやく一息つける“自分の時間”がきた。
部屋でくつろいでいると──魔導電話の呼び鈴が鳴った。
男子寮と女子寮は、部屋番号を押せば円滑通話ができる仕組みだ。
受話器を取ると、豪快なニールの大きな声が飛び込んできた。
「魔工科の親睦もかねて、3人で夕食でも行こうよ!」
その明るさが、僕の心を和ませる。
この学院に入学してから、初めて友達ができた気がした。
待ち合わせ場所のラウンジに、三人が集まった。
ルミとニールは私服だ。
女の子は服装が変わると、どうしてこんなに印象が変わるんだろう。
ニールは健康的に日焼けした肌にショートパンツがよく似合っていた。
豪快な性格なのに、どこか可愛らしい。
ルミは清楚な黄色のスカート。
家柄の良さがにじむような、柔らかい雰囲気があった。
それにしても、この学園は本当に立地がよく、寮の近くにはおいしそうなレストランがいくつもある。
値段も学生向けに設定されていて、お金が十分でない学生でも利用しやすい。
僕たちは目星をつけた店に入り、空いている席に座った。
店内にはすでに学院の生徒らしきグループが何組かいて、笑い声や食器の音が、どこか楽しげに響いている。
男性店員が水を運び、メニューを渡してくれる。
「決まったら声をかけてください」
その声を聞いた瞬間、なんだか胸の奥が少しだけ弾んだ。
──こうして誰かと外で食事をするなんて、いつ以来だろう。
僕とルミはオムライスを選んだ。
ニールはトマトソースのパスタを注文した。
「オムライスはね、お父さんとお母さんと行くお気に入りのお店で、いつも頼むの」
ふと、ルミが明るい笑顔を見せた。
その笑顔を見て、やっぱりルミは“いい家の子”なんだと思った。
家族で外食に行くのが当たり前で、こういうおしゃれな料理にも慣れている。
孤児院の僕とは、きっと育ってきた環境が違う。
でも──孤児院での温かい思い出を思い返すと、その違いが嫌ではなかった。
料理が運ばれてくると、僕たちは夢中で食べ始めた。
「なかなかいけるね」
ニールが満足そうに言う。
「ここのオムライスもおいしいよ」
ルミも嬉しそうだ。
二人の笑顔を見ているだけで、僕の胸の奥までじんわりと温かくなる。
――僕たちは食事を終え、夜風に吹かれながら寮へ戻った。
街灯の光が、歩く僕たちの影をゆっくり揺らす。
寮の前で立ち止まると、ニールがいつもの調子で笑った。
「じゃ、またね」
ルミも小さく微笑んだ。
その何気ないやり取りが、胸の奥にじんわりと染みていく。
僕も手を振り、部屋へ戻っていった。
気のいい魔工科の仲間と出会えたことは、傷ついていた僕の心を、確かに癒してくれた。




