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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第5章 努力の先で手にした小さな栄誉
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第27話 目標は高く持ちなさい

 ジョシュアたち三人は反省文を書かされていた。

 机に向かう背中は三つとも固く、紙の上に落ちる影はどれも重かった。


 ミールは腕を組み、冷たい声で言い放つ。

 「独断行動がどれほど危険か、身をもって理解しただろう。C等級の魔獣は“弱い”わけではない。少しの油断が命取りになるんだ」


 雨の冷たさとは違う、もっと刺すような緊張が部屋に満ちていた。


 ジョシュアは唇を噛み、ミランダは悔しそうに眉を寄せ、エレーナは震える指でペンを握っている。

 三人の表情には、魔獣の恐怖、生還した安堵、実技の失点への焦り、ロキへの苛立ち──それらが複雑に交錯していた。


 ――――


 僕は実習を終え、いつものように一人で帰ろうとしていた。


 ――そのとき。

 治療を終えたルミが、濡れた制服のまま小走りで僕のところへ来た。

 髪の先から落ちる雫が、頬をつたって光っている。


 「ロキ……君」


 小さな声。けれど、迷いのない響きだった。


 ルミは胸の前で両手を軽く組み、短く息を整えてから言った。

 「助けてくれて……ありがとう」


 その笑顔は、豪雨の中で泣きじゃくっていたときとはまるで違う。

 柔らかくて、温かくて──静かな優しさがあった。


 ルミは続けた。

 「……あのね、私……ロキ君が意地悪されてるとき、傍観してて……」


 言葉を選ぶように、ゆっくりと話す。

 「だから……悪いことしたなって」


 濡れた睫毛がわずかに揺れ、ルミは小さく唇を噛んだ。

 「でも……皆が逃げてるのに、ロキ君は迷わず助けてくれたでしょ。

 あんなに怖い魔獣だったのに……」


 そして、まっすぐ僕を見た。

 「お礼言わなきゃって思って――。ありがとう」


 その声は、飾り気がなく、まっすぐで、静かに胸へ落ちてきた。


 この日を境に、ルミは僕に話しかけてくれるようになった。


 雨は止み、夕焼けが雲の隙間から差し込んでいた。


 ――――――


 胸の奥が、少しだけ誇らしかった。

 レイン先生に、褒めてもらえるかもしれない。


 そんな期待を抱きながら、僕は今日の出来事を報告した。


 レイン先生は静かに聞き終えると、ほんの一瞬だけ目を細めた。

 その仕草に、わくわくする。


 ……が。


 「ロキ君。トカゲを切ったくらいで満足してはいけませんよ」


 その言葉は、夕焼けよりも冷たく、雨よりも鋭く胸に刺さった。

 期待が、音もなく崩れ落ちる。


 「君の目標は、トカゲ退治ではないでしょう」


 レイン先生は紳士だ。

 けれど、穏やかな声の奥には、鋼のように固い価値観があった。


 「レインリザード程度で浮かれているようでは……まだまだですね」


 ――僕は言葉を失った。


 学院ではじめて感謝されて、嬉しくて、

 少しだけ自信が芽生えて──


 その全部を、レイン先生は一瞬で吹き飛ばした。


 「君が目指す場所は、もっとずっと高いところです。……目標は高く持ちなさい」


 その言葉は、叱責でもなく、失望でもなく──

 “本気で期待している者の言葉”だった。


 でも、褒められることを期待していた今の僕には、ただただ痛かった。

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