第25話 雨の中で光る刃
――ザシュッ!!
僕の剣が、レインリザードの黒緑の体を貫いた。
手に伝わる感触が、生々しい。
ルミの肌に食い込んでいた爪が、ゆっくりと力を失っていく。
貫かれたレインリザードは、雨と泥を跳ね上げながらしばらく悶え、やがて、ぐたりと沈黙した。
「もう大丈夫だよ……」
声が震えた。
助けられた安堵と、あと一歩遅ければ手遅れだったという恐怖が、胸を締めつけた。
ルミの目には、激痛と恐怖で浮かんだ涙が揺れていた。
豪雨で濡れているのに、その震えははっきり分かる。
倒れた魔獣を見つめていたルミの視線が、ゆっくりと僕へ向いた。
その瞳に映ったのは、恐怖でも痛みでもなく――
“助けてくれた人” を見つけた時の、かすかな安堵だった。
魔欠の僕に助けられるなんて、きっと想像すらしていなかったのだろう。
驚きと、戸惑いと、それでも確かに胸に湧き上がった感情がうまく形にならないまま、ルミの唇が震えた。
「あの……ありがとう……」
その声はかすれていて、言葉の端が少しだけ迷っていた。
でも──確かに感謝していた。
小柄なルミの腕から流れる血が痛々しく、その赤さが、彼女がどれほど怖かったかを物語っていた。
――気配を感じる。
サーチが使えない僕でも分かる。
雨のざわめきの奥で、動物的な勘だけが鋭く反応していた。
(行かなきゃ)
胸の奥で、何かが強く押し出してくる。
「ロキ……君?」
ルミがかすれた声で僕を呼ぶ。
その声には、まだ消えない恐怖が混じっていた。
僕は息を整えながら言った。
「たぶん……ミール先生が戦ってる。援護しなきゃ」
ルミが驚いたように目を見開く。
豪雨の中、血で濡れた腕を押さえながら、不安そうに僕を見つめていた。
「危ないよ……」
その瞳には、“行かないで” とも “行ってほしい” とも言えない、複雑な揺れが宿っていた。
僕はうなずいた。
「たぶん、ここにはもういないから大丈夫」
胸の奥でまだ残る “気配” が僕を引っ張る。
今、行けるのは僕しかいない。
そう思った瞬間、足が勝手に前へ出た。
僕は気配のする方へ走り出した。
――――――
豪雨の中を駆け、ぬかるんだ地面を蹴りながら目を開く。
そこには――三体のレインリザードがいた。
黒緑の影が、ミール先生を翻弄するかのように高速で円を描きながら動き回っている。
そばにはジョシュアとミランダ、
そして──地面に倒れ込んでいるエレーナの姿。
泥に濡れた制服、苦痛に歪んだ顔。足を押さえて動けない。
(エレーナ……負傷してる)
胸の鼓動が早くなる。
この悪天候。属性相性の悪い水棲魔獣三体。
しかも、負傷した生徒をかばいながらの戦闘。
いくらミール先生でも──不利すぎる。
先生の息は荒い。
一体のレインリザードを追いながらも、残りの二体がジョシュアたちへ狙いを定めている。
ジョシュアが叫ぶ。
「うわー! くるな!」
火炎魔法を何度も放つが、雨で弱まった炎は高速移動するレインリザードを捉えられない。
ミランダが震える声でエレーナを庇う。
「いやーっ!」
エレーナは足を押さえ、痛みで顔をゆがめている。
このままでは誰かが確実に死ぬ。
レインリザードの一体が低く唸りながら距離を詰める。
ミール先生のアイスランスが一体を貫いた。
その瞬間──別のレインリザードが倒れているエレーナへ飛びかかった。
ミール先生が叫ぶ。
「まずい! 間に合わない!」
僕は、無意識で駆けだしていた。
豪雨を切り裂き、泥を蹴り、ただ一直線に。
そして剣を振り下ろす。――




