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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第5章 努力の先で手にした小さな栄誉
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第24話 草陰から迫る牙

 魔獣のサーチ反応は六体。


 「雨で活性化した外皮に水魔法は通らない。物理衝撃を与えられる氷魔法で押すしかない!」


 ミールは豪雨の中で息を整え、短く鋭く詠唱を紡いだ。

 「凍てつく刃よ、形を成し──貫け “アイスランス”(氷槍)!」


 空気が一瞬で冷え、雨粒が白い蒸気を上げながら凍りつく。


 ――次の瞬間、ミールの前に鋭い氷の槍が形成され、勢いよくレイン・リザードへと放たれた。


 ズガァッ! 


 氷槍が雨を裂き、黒緑の影に直撃する。

 二体のレイン・リザードの体を貫き、黒緑の体が痙攣し、泥の上に沈黙する。


 「あと四匹だ!」


 ミールが息を吐く間もなく、レイン・リザードのうち一体が跳ね退いた。

 雨を吸った黒緑の体が、濡れた草原を滑るように後退する。


 ミールの顔に焦りが走る。

 「まずい、あちらには生徒が……!」


 逃げた一体が向かった先には、待機している生徒がいる。

 足を負傷したエレーナを置いていけば、こちらの三体の餌食になる。

 ミールは歯を食いしばった。


 ――――――


 その頃。

 僕はクラスメイトと一緒に、指示された待機地点で立ち尽くしていた。

 雨は容赦なく降り続け、視界は白い幕のようにかすんでいる。

 「すごい雨。いつまで待てばいいのかな……」

 

 誰かが不満を漏らす。

 声は雨音にかき消され、耳元でささやくようにしか聞こえない。

 「早く帰りたいね……」


 別の女子が肩をすくめる。

 濡れた制服が肌に張り付き、寒さと不安がじわじわと広がっていた。


 僕は黙ったまま、雨の向こうを見つめていた。

 胸の奥がざわつく。理由は分からない。

 ただ──雨の中で、何かが動いている気がした。


 女子が、不安を紛らわせるように小声で話し続ける。

 「先生、遅いね……」

 「ジョシュアたち、まだ戻ってこないのかな……」


 カサカサ ―――


 「……なんか……変な音しなかった?」


 豪雨の向こうで、濡れた地面を滑るような低い擦過音がした気がした。

 ほんの一瞬だけど、確かに聞こえた。


 その直後だった――


 「キャー!!」


 豪雨の中で悲鳴が響いた。

 雨音にかき消されるはずの声が、はっきりと耳に届くほど鋭かった。

 クラスメイトが一斉に振り向く。


 「――――」


 全員がその光景に息を呑んだ。


 黒緑の爬虫類魔獣 “レイン・リザード” が、女子生徒の上に覆いかぶさっていた。


 クラスメイトのルミ……。


 雨で活性化した黒緑の体が、濡れた地面にぬめりながら密着している。

 今にも食いつかんとする牙が、ルミの細い首元へと迫っていた。


 鋭い爪が、華奢なルミの腕に深く食い込み、制服の袖から赤い血がにじむ。


 「うわーっ、魔獣だ!」

 「逃げろー!」


 一瞬でパニックになった。


 ルミを助けないと――


 気づくと、僕は無意識に剣を握っていた。

 雨で柄は濡れているけど……。


 それでも、この半年間、レイン先生のもとで毎日振った剣が手のひらに“自然と張り付いた”。

 逃げる生徒の背中が揺れる中、僕は逆方向へ足を踏み出した。

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