第24話 草陰から迫る牙
魔獣のサーチ反応は六体。
「雨で活性化した外皮に水魔法は通らない。物理衝撃を与えられる氷魔法で押すしかない!」
ミールは豪雨の中で息を整え、短く鋭く詠唱を紡いだ。
「凍てつく刃よ、形を成し──貫け “アイスランス”(氷槍)!」
空気が一瞬で冷え、雨粒が白い蒸気を上げながら凍りつく。
――次の瞬間、ミールの前に鋭い氷の槍が形成され、勢いよくレイン・リザードへと放たれた。
ズガァッ!
氷槍が雨を裂き、黒緑の影に直撃する。
二体のレイン・リザードの体を貫き、黒緑の体が痙攣し、泥の上に沈黙する。
「あと四匹だ!」
ミールが息を吐く間もなく、レイン・リザードのうち一体が跳ね退いた。
雨を吸った黒緑の体が、濡れた草原を滑るように後退する。
ミールの顔に焦りが走る。
「まずい、あちらには生徒が……!」
逃げた一体が向かった先には、待機している生徒がいる。
足を負傷したエレーナを置いていけば、こちらの三体の餌食になる。
ミールは歯を食いしばった。
――――――
その頃。
僕はクラスメイトと一緒に、指示された待機地点で立ち尽くしていた。
雨は容赦なく降り続け、視界は白い幕のようにかすんでいる。
「すごい雨。いつまで待てばいいのかな……」
誰かが不満を漏らす。
声は雨音にかき消され、耳元でささやくようにしか聞こえない。
「早く帰りたいね……」
別の女子が肩をすくめる。
濡れた制服が肌に張り付き、寒さと不安がじわじわと広がっていた。
僕は黙ったまま、雨の向こうを見つめていた。
胸の奥がざわつく。理由は分からない。
ただ──雨の中で、何かが動いている気がした。
女子が、不安を紛らわせるように小声で話し続ける。
「先生、遅いね……」
「ジョシュアたち、まだ戻ってこないのかな……」
カサカサ ―――
「……なんか……変な音しなかった?」
豪雨の向こうで、濡れた地面を滑るような低い擦過音がした気がした。
ほんの一瞬だけど、確かに聞こえた。
その直後だった――
「キャー!!」
豪雨の中で悲鳴が響いた。
雨音にかき消されるはずの声が、はっきりと耳に届くほど鋭かった。
クラスメイトが一斉に振り向く。
「――――」
全員がその光景に息を呑んだ。
黒緑の爬虫類魔獣 “レイン・リザード” が、女子生徒の上に覆いかぶさっていた。
クラスメイトのルミ……。
雨で活性化した黒緑の体が、濡れた地面にぬめりながら密着している。
今にも食いつかんとする牙が、ルミの細い首元へと迫っていた。
鋭い爪が、華奢なルミの腕に深く食い込み、制服の袖から赤い血がにじむ。
「うわーっ、魔獣だ!」
「逃げろー!」
一瞬でパニックになった。
ルミを助けないと――
気づくと、僕は無意識に剣を握っていた。
雨で柄は濡れているけど……。
それでも、この半年間、レイン先生のもとで毎日振った剣が手のひらに“自然と張り付いた”。
逃げる生徒の背中が揺れる中、僕は逆方向へ足を踏み出した。




