第23話 吹き荒れる嵐
草原地帯に到着すると、初夏の風が一面の草を揺らしていた。
僕の腰には、レイン先生からもらった片刃の剣が下がり、歩くたびに鞘が太ももに軽く触れる。その重さが妙にしっくりくる。
ミール先生が杖を軽く振る。
「それぞれサーチを展開しろ。どこに魔獣がいるか分からん。油断するなよ」
生徒たちは緊張した面持ちでうなずき、足元には魔法陣が広がる。
それぞれサーチの反応を感じ、近くで跳ねるホーン・ラビットの小さな影を追っていた。
僕はサーチが使えない。
みんなのように効率よく魔獣の観察ができない。
ただ、草の揺れや足跡、魔獣の気配を頼りに探すしかなかった。
――少し離れた場所で、ジョシュアたち三人がサーチの反応を確認している。
「……C級だな」
ジョシュアの声は抑えられていたが、どこか誇らしげだった。
ミランダが静かに笑う。
「仕留めれば実技の点数を多くもらえるかも」
エレーナも満更ではないようだ。
三人は自分たちの実技の評価点数を気にしているようだった。
やがて三人は、危険等級Cの魔獣の反応がある方向へ進んでいった。
――草むらの奥で魔法の光が瞬き、歓声が混じる。
「やった……! 倒した!」
「絶対評価されるわ」
攻撃魔法の魔力に気づいたミール先生が、三人が独断行動をしていることに気づく。
「勝手な行動を取るなと言っていたのに……」
そのときだった。
「キャー!」
空気を裂くような悲鳴が響いた。
ぽつ……ぽつ……
悲鳴と同時に、空から冷たいものが落ちてきた。
――次の瞬間、草原全体を叩きつけるような雨が降り始めた。
雨はどんどん強くなる。
ミール先生の顔に緊張が走り、サーチ魔法陣が描かれる。
「あっちか……早くしないと視界が奪われる」
雨音にかき消されそうな声で呟きながら、ミール先生は全員の位置を確認する。
雨で視界と魔力が揺れる。
集団から離れた三つの魔力反応と、複数の魔獣の反応が重なっている。
「……三人はあそこか。魔獣の反応が近い……まずいな」
ミール先生は走り出した。
――――――
草むらの奥――ジョシュアたち三人が複数の影に囲まれているのを発見する。
ミールの顔に焦りが浮かぶ。
「よりによって……レインリザードか」
危険等級C "レインリザード" ──
雨天時に活性化する群生型の爬虫類魔獣。
乾燥時は地面に擬態しおとなしいが、雨に濡れると体色が黒緑に変わり、動きと凶暴性が一気に跳ね上がる。
水属性の魔力を吸収し、逆に活性化してしまうため、水魔法を得意とするミールとは最悪の相性だった。
エレーナが倒れ込み、足を押さえていた。
「痛っ……!」
ミランダが水魔法を放つが、レインリザードのぬめった外皮に吸収され、霧のように消えていく。
「なんで……効かないの……!」
ジョシュアも火魔法を放つが、雨で火力が削がれ、黒緑の外皮に浅く焦げ跡をつけるだけだった。
「くそ……火力が通らない……!」
ミールが低く言い放つ。
「お前たち……説教は後だ」
レインリザードが豪雨の中を高速で走り回っていた。
乾燥時に見せていた、地面に張り付くような鈍い動きはもうない。
雨粒を吸った黒緑の体がぬめりを帯び、光を吸収して輪郭がぼやける。
濡れた地面を滑走するように動き、草むらの影と区別がつかない。
「……雨だとこうも変わるのか……!」
雨が視界を奪う。
黒緑の影を見失いそうになる。
豪雨の音がレインリザードの足音を消す。




