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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第5章 努力の先で手にした小さな栄誉
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第22話 魔獣の生態調査とミール先生

 学園に入学して半年。


 魔欠けの僕はクラスメイトとうまく馴染めず、相変わらず嘲笑の的だった。

 けれど──あれからレイン先生のもとで剣を習い、孤児院の子どもたちと過ごす時間が増えると、少しずつ昔の自分を思い出すようになった。


 目標に向かって歩いているという感覚。

 誰かと触れ合える、あのささやかな温かさ。

 それは大げさなものじゃなく、今の僕には十分すぎる心の支えだった。


 ――今日は、生態調査の実習だ。

 胸の奥で、静かな熱がゆっくりと灯るのを感じながら、僕は教室へ向かった。

 教室に到着し、指定された席に座る。


 「今回の生態調査の授業を担当する、ミール・ロットだ。水魔法が専門だ」


 ふと感じた……この先生、どこかで見たことがある気がする。

 思い出せないけれど、どこかで……。


 ミール先生は黒板に地図を描きながら続けた。

 「今日の実習は、央都西方に広がる草原地帯で行う。主にサーチを用いた危険等級Dの生態調査が目的だ。危険度は高くないが……油断は禁物だぞ」


 教室が少しざわつく。

 「魔獣は縄張り意識が強い。不用意に近づいたり、挑発するような行動は絶対に避けること。勝手な行動は仲間を危険に晒すからな」


 その言葉には、経験者の言葉の重みがあった。

 「以上が本日の注意事項だ。準備ができ次第出発するぞ」


 ミール先生は視線を巡らせ、最後に僕と目があった。


 実習の説明が終わり、生徒たちがざわつきながら席を立ち始めた。

 その中で、ミール先生は名簿をめくり、僕の名前のところで指を止める。

 

 「……ロキ。こちらへ」

 

 静かな声だった。

 呼び止められた瞬間、ドキっとする。


 「君が魔法を使えないことは、我々教師陣も周知している。魔力がない以上、魔導士としての戦い方は難しいだろう」


 顔を上げられない……。


 「しかし――」


 ミール先生は、言葉を選ぶように続けた。

 「魔導具の扱いなど、魔法以外にも学べることはある。魔法がすべてではない」


 その瞬間、胸の奥に張りつめていた何かが、ふっと緩んだ。

 思いがけない先生の言葉に、僕はゆっくりと顔を上げた。

 視界が滲んでいるのに、先生の表情だけははっきり見えた。


 ミール先生は名簿を閉じ、少し懐かしむように言った。

 「君が剣術を学んでいることは聞いている。学院には、昔"ドワーフの学生"が在籍していた時期があってね。彼らは魔法を使えないため、“例外として”帯剣を許可した前例がある」


 そして、僕の目をまっすぐ見つめる。


 「今日の生態調査は、魔獣との遭遇もあり得る。丸腰では危険だし──君には、実習での帯剣を特別に許可する。これは学院長からも正式に承諾を得ている」


 僕は驚きで息を呑んだ。

 胸の奥に、言葉にできない温かさが広がった。


 この先生からは、なぜか僕のことを“守ろうとしてくれている”ような気がする。

 初めて向き合ったはずなのに、どこか懐かしいような……理由は分からない。

 けれど、確かにその温かさは感じた。


 僕とミール先生のやりとりを聞いていたのか、ジョシュアが鼻で笑った。


 「魔導学院の生徒が剣かよ…嫌だね、魔法も使えないドワーフもどきは」


 ミランダが髪を払って、あざけるように言う。

 「どうせミール先生に媚び売って、特別扱いしてもらったんでしょ」


 エレーナは冷たく言い放つ。

 「魔法の刃があれば剣なんて野蛮な武器を持つ必要ない……嘆かわしいわね」


 その言葉は、刃物のように心に刺さった。

 刺さったまま、ゆっくりとねじられるように痛い。


 でも──孤独だった学院で“帯剣を許された”という事実。

 そのことだけが、ただただうれしかった。

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