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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第1章 幼い日の約束
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第2話 輝く幼馴染と森の影

 ――共和国歴1993年


 僕とアミリアは十一歳になった。

 変化のない僕に比べ、このごろアミリアの容姿はだいぶ大人びてきた。

 活発で少しお転婆だけど、水のようにすっと心に入り込む優しさがある。

 

 森に花を摘みに行く約束の日に寝坊した僕を、アミリアは両手を腰に当てて怒っていた。

 「ロキ!今日は森の花畑に行く約束だったでしょ!」

 アミリアが怒るのも無理はない。

 今日はアミリアのお母さんの命日で、お墓に供える花を摘みに行く日だった。

 鈍感な僕でも、破っていい約束と、破ってはいけない約束の区別くらいは分かる。

 これは、後者だった。

 

 僕は心の底からアミリアに頭を下げた。

 「ごめん、アミリア。これからは夜更かし気をつける。綺麗な花いっぱい摘んで、お供えするから……」

 僕の偽りのない謝罪を感じて、アミリアは怒りをゆっくりと収めた。

 ふっと息をつき、少しだけ頬をふくらませながら言う。

 「じゃあ、おわびにレッドベリーのお菓子。ロキのおごりだよ。それで許してあげる。」

 (お小遣い少ないんだよな……)

 とは口に出さず、僕は笑ってうなずいた。

 「分かった。約束。」

 二人はお決まりの約束のポーズで、小指をそっと絡めた。

 その仕草は、七歳のころと何も変わらない。

 けれど、絡めた指先の温かさだけは、あの頃より少しだけ長く残った気がした。

 

 この頃のアミリアは、周りの大人が驚くほど魔法の才能を開花させていた。

 この世界は、火・風・土・雷・水・闇、六つの元素からなる魔法体系で成り立っている。

 ただし"解明されていない魔法"なんかもあるらしい。

 

 この世界では、魔力こそがすべてであり、魔力の多さが価値を決める。

 女神から魔法の“色”(加護)を授からなかった者は、"無色"と呼ばれた。

 そして"魔欠の出来損ない"と嘲笑される。

 それが、この国の、魔法文明の当たり前だった。

 ドワーフ族など、もともと魔法を扱えない種族もいるが、僕たち人間族は十歳を過ぎるころから、簡単な魔法を使えるようになるのが普通だ。

 そして、ごくまれに、複数の色を授かる子もいる。

 人々はそのような子を“賢者のたまご”と呼んだ。


 アミリアが得意なのは、その澄んだ青色の瞳と同じ、水魔法。

 十一歳になったころには、すでに流れる水を自由に操れるほどになっていた。

 それだけではない。

 風魔法まで扱えるようになり、アミリアが畑のそばを歩くと、畑の作物まで葉をそよがせて、アミリアを歓迎しているようだった。

 生まれつきの可憐さに加え、水と風を美しく操るアミリアの姿は、村の同年代の男の子たちの頬を赤く染めるほどだった。


 ――僕はというと、魔法の開花はまだだった。

 同年代の男子たちが次々と魔法を使えるようになり、気づけば、魔法が使えないのは僕だけになっていた。

 アミリアが目覚ましい才能を見せるたび、胸の奥で、ちくりと小さな痛みが走る。

 その痛みは、誰にも言えない、僕だけのものだった。

 (あせる必要はないさ。)

 そんなふうに自分に言い聞かせて、押し寄せる不安や焦りを胸の奥に押し込めることが多くなった。

 そんな僕の気持ちをよそに、アミリアは昔と変わらない笑顔で接してくれる。

 その笑顔を見るたび、胸のどこかが痛んだ。


 ――――――


 僕とアミリアは、村から北へ三十分ほど歩いた先の森の中を、並んで歩いていた。

 アミリアのお母さんのお墓に供える花をたくさん摘んだ帰り道だ。

 「早くアミリアのお母さんに届けてあげよう」

 僕がそう言うと、アミリアはうれしそうに顔を上げ、胸の前でバッグを抱え直した。

 「うん。今日は……本当にありがとう。」


 真っ白なワンピースがよく似合うアミリアが、はしゃぎながら森の道を歩いていく。

 森を通る風が、アミリアの髪をやわらかく揺らすのを見ると、森がアミリアを歓迎しているように見えた。


 ――そのとき、茂みの奥で小さな気配が跳ねた。

 白い子ウサギが、ぽん、と飛び出してくる。

 思わずどきっとして足を止めた僕をよそに、子ウサギは逃げるでもなく、こちらをじっと見上げていた。

 しゃがみ込んでそっと手を伸ばすと、ふわふわの毛並みが指先に触れる。

 小さく柔らかい体が、なんだか守ってあげたくなる。

 アミリアが、やわらかく目を細めた。

 「ロキって……優しいんだね。」

 その声音に胸が熱くなる。

 

 そんな僕の気持ちなんて知らないかのように、いつもの調子でからかってきた。

 「モンスターが出てきても、私がやっつけるから怖がらなくていいよ。」

 アミリアは胸を張っている。

 春風が彼女の髪をふわりと揺らし、光がその横顔を照らした。

 その明るさが、少しだけ胸に刺さる。

 むっとした僕は、負けじと言い返した。

 「僕がアミリアを守る役目だよ。」

 アミリアはまんざらでもない様子で、嬉しそうに笑う。

 その笑顔につられて、僕もつい笑ってしまう。

 

 森の木漏れ日が差し込む中、アミリアは「クスッ」と小さく笑い、僕の顔の前に小指を差し出した。

 「……約束」

 僕も小指を絡める。

 触れた指先が、春の光よりもあたたかかった。

 二人の世界は、ずっと変わらなかった。


 ――――――


 その直後だった。

 森の風が、ぴたりと止んだ。

 子ウサギが駆け出し、アミリアの表情がこわばる。

 普段の明るい笑顔が消え、何かを感じ取ったように息を呑んだ。


 次の瞬間――ドガァン!!


 森の奥から、地面を震わせるような爆音が響いた。――――


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