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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第4章 遠くの君を迎えに行くために
18/40

第18話 水の賢者の儀

 休み時間。

 半円状に広がる魔導学院の大教室は、ざわめきで満ちていた。


 水属性のミランダと、風属性のエレーナが机を寄せて雑談していた。

 「ねぇ、聞いた? 新しく就任された水の賢者様って、私たちと同い年の女の子なんですって」

 「聞いたわ。本当は私たちと同じ学年に入学する予定だったのに、いきなり聖浄院に上られたんでしょ」


 女子生徒の声が弾む。

 「私たちと同い年で賢者様なんて……よっぽど優秀な方なのね。一度お話ししてみたいわ」

 そこへ、火属性のジョシュアが割って入る。

 「俺らと同い年で賢者なんて、おかしいだろ。貴族の出身で、コネで入れてもらったとかじゃねぇの?」


 別の男子生徒が、強がるように言った。

 「案外、俺たちの魔法が勝つかもな」

 「ははは。ありえる」


 軽口が飛び交い、講堂はざわついていた。


 ――やはり、アミリアのことは世間で大きな噂になっているらしい。

 その事実を、もう否定できなかった。

 アミリアは、もう僕の隣にいた少女じゃない。

 “遠い存在”になってしまった現実が、静かに胸へ落ちていく。


 休み時間が終わり、テロッタ先生が檀上に上がった。

 「皆さん静かに……着席しなさい」


 ざわついていた講堂が、すっと静まる。

 「授業の前に、大切なお知らせがあります」

 テロッタ先生の声は、いつもより少しだけ厳粛だった。

 「皆さんも、新たに“水の賢者”が襲任されたことを聞いていると思います」


 講堂の空気がわずかに揺れる。

 さっきまで噂話をしていた生徒たちも息を呑んだ。


 「明日、襲任の儀――"ヴァルセ・リュミナリア"(結界承継の儀)が取り行われます」


 その言葉に、周囲がざわめく。

 「賢者の魔力を直接見ることができるのは、非常に貴重な機会です。明日は通常授業を休校とし、学生諸君は水の賢者襲名の儀式へ参列します。聖浄院を望む大広場へ、午前中に集合すること」


 テロッタ先生が続ける。

 「"ヴァルセ・リュミナリア"は、大賢者ラズウェル様が築いた“大結界”を保つための儀です。賢者が結界へ魔力を注ぎ、外界から滲み出ようとする“魔”を押し返す──古くから伝わる、国の要となる儀式です」


 アミリアが……この国の賢者として、その儀式を行う。

 胸の奥が、複雑な感情で満たされていく。

 国の光として据えられるアミリアの身に危険が及ばないか。

 そして――天才アミリアと、自分の力の差を突きつけられる劣等感。


 胸の奥が、じんわりと痛んだ。

 アミリアは……元気にしているのだろうか。

 国の光として立つ彼女の姿を思うと、誇らしさよりも、不安のほうが胸に広がっていく。


 その不安だけが、静かに残ったまま、夜が明けた。


 ――――――


 賢者就任の儀"ヴァルセ・リュミナリア"当日。


 学生は、学院の先生に引率され、聖浄院を望む魔導師団の大広場に集合していた。


 広場の前方には、国のお偉い様や魔導師団の幹部が臨席している。

 そして、広場の奥には、結界に守られた白く輝く建物――この国の魔道士の頂点、六賢者が住まう聖浄院がそびえていた。


 普段は厳重に閉ざされている聖浄院だが、儀式のため、魔導装置によって屋根や壁の一部が静かに開かれている。

 陽の光が、複雑に編まれた封印術式の紋様を照らし出していた。


 空には、儀式の様子を上空に映し出す巨大な魔道スクリーンがいくつも浮かんでいる。

 広場の外にも、街の人々が大勢詰めかけていた。


 老若男女、誰もが空を見上げ、これから始まる儀式を固唾を飲んで待っている。

 国を挙げての賢者の儀式――その重みが、空気を震わせていた。


 僕の知っているアミリアは、森で一緒に遊んで、笑って、泣いて、僕の名前を呼んでくれた少女だ。

 でも今、国中がその名を称え、世界に力を示す“賢者”として据えられている。


 アミリアの凄さを、改めて思い知らされる。

 誇らしさと、遠くなってしまった寂しさと、追いつけない焦り。

 それらが混ざり合い、胸を締めつけた。

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