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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第3章 無色の烙印と魔導学院
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第17話 踏み込む勇気

 やがて、建物の影に隠れるようにして広がる空間に出た。

 そこは、子どもたちの遊ぶエリアとは隔てられた、静かな一角だった。


 わらで作られた人形、踏み固められた地面。

 明らかに遊び場とは違う空気をまとっている。


 ――ここが、剣の修練場だ。


 レイン院長は建物の中へ姿を消した。

 数分後――戻ってきたレイン院長を見て、僕は息を呑んだ。


 先ほどまでの穏やかな院長の姿ではない。

 身にまとっているのは、見慣れない“剣士の装い”。

 上衣は厚手の布でできた、飾り気のない修練着だった。

 

 動きやすさだけを考えた、素朴な衣服。

 腰には、長い棒状のものが静かに揺れている。

 鞘に収められた細長い線で、無駄のない形。

 静かに、しかし圧倒的な存在感。

 

 ――剣だ。


 レイン院長の眼差しは、さっきまでの柔らかさとは違う鋭さを帯びていた。

 まるで別人のように、凛とした気配をまとっている。


 レイン院長は静かに剣へ手を添えた。

 「これは、私の祖国の剣です。片刃なのが特徴でね……

 この国では剣術はすたれてしまったけれど、私の祖国では、剣は“心”を鍛えるものでもあった」


 その声には、懐かしさと誇りが静かに混じっていた。

 「今は、時間があるときに子どもたちに教える程度ですが……」


 レイン院長は、まっすぐ僕を見つめた。

 「君にも、ここで学べることがきっとあるでしょう」


 その眼差しは、僕の弱さを責めるものではなく、僕の可能性を信じる眼差しだった。

 胸の奥が、また小さく震えた。


 「これから、ここに通って剣の基礎を身につけていきましょう。学院での学習と並行して行う訓練です。それは──中途半端な覚悟ではできませんよ」


 静かな問いが、空気を震わせた。


 「覚悟はできていますか」


 厳しい訓練でもいい。痛くても、苦しくてもいい。

 なにより辛いのは、このまま、何も変われないことだ。


 ――僕は迷いなく言った。

 

 「……はい!」


 その瞬間、レイン院長は静かに目を細めた。

 満足そうに、そしてどこかうれしそうだった。


 ――――――


 僕はレイン院長と──いや、レイン先生と向き合う。


 「本格的な剣術の訓練の前に、少し基礎をやってみましょう」

 その声は、僕の小さな決意を確かに受け止めてくれる声だった。


 レイン先生は木刀を僕に渡し、自分は素手のまま立った。

 「遠慮はいりません。あなたの思う方法で、本気で私を倒してみてください」


 その眼差しは穏やかで、しかし鋭かった。

 僕は木刀を握りしめ、思うままに踏み込んだ。


 ――その瞬間


 世界がひっくり返った。

 視界が逆さまになり、背中に衝撃が走る。


 「……え?」


 気づけば地面に倒れていた。

 (投げられた……?)

 逆さに見えるレイン先生が、静かに言う。


 ――背筋を汗がつたる。


 「まだ終わっていませんよ。どんどん打ち込んで」

 立ち上がった瞬間──レイン先生の姿が、ふっと消えた。

 風が揺れた。

 

 次の瞬間――


 顎に衝撃が走り、視界がゆがむ。

 足に力が入らない。


 「徒手で軽くで突いただけですよ。しかし、鍛えた身体は、そのものが武器となる。

 ──魔力が切れた魔導士なら、剣などなくて倒せます」


 僕は息を呑んだ。

 胸の奥に、痛みとも衝撃ともつかない何かが走った。

 

 「剣は努力、踏み込む《勇気》がそのまま強さになる。

 剣の修行を始める前に、まずそれを心に刻んでください」


 レイン先生の言葉が、胸の奥で静かにこだました。

 魔法が絶対じゃない。強さの形は、ひとつじゃない。

 

 レイン先生は、剣の道の心構えを教えてくれた気がした。

 「明日から、本格的に剣の修行を行っていきましょう」

 

 痛みは苦じゃなかった。

 むしろ、ずっと閉ざされていた胸の奥の闇に、ひとすじの光が差し込んだ気がした。


 その光は弱々しいものだったけれど、胸の奥の暗がりに触れた瞬間、なにかがゆっくりと動き出した。

 逃げていた自分を、もう一度だけ前へ押し出してくれるような、そんな気持ちだった。

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