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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第3章 無色の烙印と魔導学院
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第16話 弱さを告げた後の小さな光

 僕は、震える声で、口を開いた。

 

 アミリアと一緒に育った村のこと。

 アミリアが“賢者”として選ばれた時のこと。

 そして──魔法が使えない僕は、学院で孤独に過ごしていること。

 そんな魔法社会を妬んでいること……。


 レイン院長は、落ち着いた声でそっと言葉を置いた。

 「あなたの置かれている環境は、とても厳しいもののようですね」


 その声音には、責める色も、哀れむ色もなかった。

 ただ、“僕の痛みを痛みとして認める”そんな静かなまなざしだけがあった。


 僕は女神像を見上げた。

 その穏やかな微笑みが、ふとアミリアの笑顔を思い出させた。

 七色の糸を編んだ、あの小さな髪飾りが頭をよぎる。

 

 ――気づくと僕は、別れの夜にアミリアが口ずさんだ子守歌を口にしていた。

 不安な夜に、アミリアのお母さんが歌ってくれたという子守歌。


 『英知の賢者は夜道を照らし 虹の剣は勇気を示す 厄災断つは虹の刃 怖い夜でもひとりじゃない  七つの光があなたを守る……』


 あの夜のアミリアの横顔が、胸の奥でそっと揺れた。


 僕が子守歌を口ずさむと、レイン院長が、ふっと息を呑んだ。

 その変化はほんの一瞬。

 “何かを感じた”ような、そんな微かな揺れがあった。

 すぐに表情を整え、静かに僕へ向き直る。


 「……ロキ君」


 レイン院長は、言葉を選ぶように、ゆっくりと続けた。

 「私は、孤児院の運営の傍らで、少しだけ剣の心得があります」


 その声音には、どこか揺るぎない“決意”のようなものが滲んでいた。

 「魔法が使えないあなたの“心”を守る剣を……試してみるのは、どうでしょうか」


 魔法がすべてのこの世界で、“剣”という言葉はあまりにも異質だった。

 けれど――レイン院長は、その異質さなど気にも留めないように、まっすぐに僕へ差し出してくる。


 「あなたが大切な幼馴染を守りたいのなら、あなた自身が、行動を起こさなければなりません。魔法が使えないのなら……使えないなりの道を、あなたは歩いていけばいいのです」


 押しつけではない。責める響きもない。

 ただ、“選ぶのはあなたです”と、そっと背中を押すような言葉だった。


 気づけば、僕の口から震える声が漏れていた。

 「……剣を学べば、アミリアを……迎えに行けますか」


 レイン院長は、僕の目をまっすぐに見つめて答えた。

 「それは、あなたの努力しだいです。けれど──あなたの努力は決して裏切りません」


 その言葉は、慰めでも、希望の押し売りでもなかった。

 ただ、真実だけを静かに差し出すような響きだった。


 僕の胸の奥で、何かが小さく震えた。

 逃げていた心の奥に、ほんのわずかだけ、温かい火が灯るような感覚があった。

 その火はまだ弱くて、吹けば消えてしまいそうだけど──

 それでも確かに、そこにあった。


 僕は、その小さな光に、すがるように手を伸ばした。

 

 ――――――


 レイン院長に案内され、僕は礼拝堂を後にした。

 夕暮れの光が差し込む中、施設の裏手へと歩いていった。


 広い庭では、小さな子どもたちが元気に走り回り、笑い声が弾む。

 敷地の奥へ向かうと、数人の子どもたちがこちらに気づき、駆け寄ってきた。


 「おにいちゃん、剣やるの?」

 「ねえねえ、レイン先生の剣、厳しいんだよー」

 「でもね、すっごく強いんだよ! がんばってねー!」


 無邪気な声が胸に刺さる。

 少しだけ背中を押されるようだった。


 僕はうまく返事ができず、ただ小さくうなずいた。

 子どもたちは笑いながら走り去っていく。

 だけど、その無邪気な明るさが、胸の奥をそっと支えてくれるようだった。


 ──僕も、あんなふうに笑っていた時期があった。

 

 「あの子たちは、親がいなくてね……本当は親に甘えたい年頃でしょうに」

 レイン院長の顔が、ふと陰を帯びた。

 「もともと、私と妻でこの孤児院を経営していたのですが──妻は数年前に病気で亡くなり、今は私ひとりで子どもたちを見ています」

 レイン院長の表情は寂しそうだった。

 僕の胸が痛んだ。


 アミリアと離れた自分を“世界一不幸”だと思っていた。

 でも、この子たちも──もっと小さな体で、大きな不幸と向き合っている。

 そんな思いが胸に広がった。

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