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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第22章 戦慄の暗殺者
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第160話 評議会に潜む影

 ――カルディナ評議会庁舎


 僕たちは、避難してきた参列者たちとともに、庁舎内の議場へと移動していた。


 議場は古い建物らしい重厚さと、格式を感じさせる雰囲気を備えていた。

 正面には評議会の紋章が掲げられ、長机と議員席が整然と並んでいる。


 カルディナ評議会の議員は、議長を含めて五人。


 議長を務めるのは、商会連合の代表を務めた経験のあるオルベルトさん。

 ほかに、貴族のグレイスさん、港湾や物流に強い影響力を持つバルドさん、慈善事業を取りまとめるジェシーヌさん、そして婦人会代表のワイス伯爵夫人が名を連ねている。


 その場にいた議員たちも、突然の襲撃に動揺を隠せない様子だった。


 議場の入り口では警備兵たちが参列者を誘導し、声を張り上げている。


「警備隊が全力で対処しています! 皆様、どうか落ち着いてください。

 ここから動かず、安全を確保してください!」


 しかし、参列者たちの不安はなかなか収まらない。


「いったい、何が起きているんだ……」


「本当に、ここにいれば安全なのか?」


 そんな声が、議場のあちこちから聞こえてきた。


 ――ユリシス殿下が評議会議員たちのもとへ歩み寄る。


「皆さま……。私のせいで、このような事態になってしまい、申し訳ありません」


 グレイスさんは、静かに首を横に振った。


「ユリシス君。気に病むことではない」


 議長のオルベルトさんも、殿下を気遣うように口を開く。


「そうです。

 カルディナが力に屈しないことを示すためにも、まずは落ち着いて対処しなければなりません」


 バルドさんも頷き、続けた。


「殿下がご無事で何よりです。

 警備隊が対応しているはずですから、今は落ち着きましょう」


 議員たちはそれぞれに言葉をかけ、ユリシス殿下を励ましていた。


 ジェシーヌさんとワイス伯爵夫人は、襲撃に怯えた様子で胸元を押さえていた。

 他の参列者たちと同じように身を縮め、不安そうに周囲を見回している。


 ――レイスさんが、低い声で唸った。


「ユリシス殿下を襲った刺客はただ者じゃねぇ。

 まだ油断はできねぇぞ」


「そうですね……」


 参列者も議員も、皆が不安そうに身を寄せ合っている。


 けれど、この中にまだ敵が紛れ込んでいる可能性は否定できない。


 そのとき――。


 腕輪が、淡い光を放った。 


『ロキ。レイスの言うとおり、まだ刺客が紛れ込んでいる可能性があります』


 ネイラの声が、僕の意識に届く。


『避難誘導は非常に的確です。

 警備兵の配置、魔獣への対応、参列者の移動。

 混乱した現場にもかかわらず、極めて迅速かつ効率的に統制されています』


 僕は、議場の入り口に立つ警備兵たちへ目を向けた。


「カルディナの街の警備隊は優秀なんだね」


『逆です』


「えっ? ……どういうこと?」


『アスピア皇国が倒れた後に編成された現警備部隊は、寄せ集めであるにもかかわらず、高い指揮統制能力を発揮しています。

 それにもかかわらず、護衛対象であるユリシスの周囲は警備が手薄になるよう配置されています。

 部隊の動きを把握し、指示を出せる立場の人物が、意図的に警備配置を操作している可能性があります』


 ――警備を動かせる人物って……。


 その言葉の意味を理解した瞬間、背筋に冷たいものが走った。


 僕は反射的に振り返る。


 !!!


 ユリシス殿下の背後で、警備隊長が手元で黒い魔力の刃を形成していた。


 ユリシス殿下は、背後の警備隊長に気づいていない。


 その刃が、殿下へと振り下ろされる。


「間に合わない!」


 次の瞬間――。


 別の刃が閃いた。


 ザシュッ!


 警備隊長の首が床を転がった。


「――っ!?」


 議場にいた誰もが、息を呑んだ。


 警備隊長の身体が崩れ落ちる。


「そんな……警備隊長が……!」


「キャーッ!」


「うわあっ! 今度は警備隊長が殺されたぞ!?」


 参列者たちが悲鳴を上げ、議場は再び恐怖に包まれた。


 逃げ惑う人々が入り乱れ、議場は騒然となる。


 その混乱の中、僕は人混みに紛れるように立つ一人の人物へと目を向けた。


「何者だ!」


 そこに立っていたのは、花売りの姿をした女性だった。


 ――白夜さん!?


「なぜ、ここに……?」


 彼女は、エルミナ魔導師団、闇の隊の斥候隊長、白夜さんだった。


 その直後、通信石から白夜さんの声が届く。


『ユリシス殿下を狙っていたため、始末しました』


 それだけ告げると、白夜さんは人々の混乱に紛れるように、すっと身を引いた。

 その姿は、避難してきた参列者や市民たちの間に紛れ、すぐに見えなくなった。


 ――僕は、警備隊長の倒れた姿を見つめた。


 まさか、警備隊長まで刺客だったなんて。


 白夜さんがいなかったら、危なかった。


 ――――――


 そのとき――。


 腕輪がかすかに光った。


 ネイラの声が、僕の意識に届く。


『検索対象――ラーカンクス王国 隠密』


『該当記録を検出

 組織名――王家直属暗殺部隊 九蛇(クジャ)』


『分析完了。対象が当該暗殺集団である可能性――大。

 危険度――大』


「ネイラ……そんなことまでわかるの?」


『文明崩壊後、各施設の主要機能は停止。

 ただし、ガイアビナス殲滅行動の一環として、魔導連環網を介した情報収集活動は継続。

 小動物型偵察機等による各地の観測情報を収集し、歴史情報として記録・保存されています』


「すごい……。つまり、各国の歴史まで知れるっていうこと?」


『はい』 


 改めて、古代文明の技術力に驚かされた。

 文明が崩壊した後も、情報を収集し続けていたなんて。


『参照活動記録――約二千年前。

 標的――アスピア皇国、皇女ミレーヌ』


『暗殺計画は、当時のアスピア戦士団隊長、オーウェン・ガルディウスによって阻止』


 ――オーウェンさん?


 そういえば、リファーナさんから聞いたことがある。


 魔導大戦でアスピア皇国と戦っていたラーカンクス王国の暗殺者が、ミレーヌ皇女を狙ったという話だ。


『補足記録――アスピア皇国の公式記録では、当時の警備配置に不手際があったとされている。

 責任者――アスピア戦士団隊長、オーウェン・ガルディウス』


『分析――当時の戦術記録に、主力である魔導兵団の大半が出征し、宮殿から遠ざかるような不自然な戦略を確認。

 関連記録――その直後、ラーカンクス王国によるアスピア皇国への進軍を確認』


『総合分析――暗殺計画に、アスピア皇国内の関係者が関与していた疑い大。

 推定所属――アスピア魔導兵団、皇国の政治関係者』


『本件との類似性――大。

 内部協力者の確保、潜入、要人暗殺の実行。

 これらは当該集団の常套手段と推定』


 リファーナさんが言っていたとおり、公式記録ではオーウェンさんの不手際として処理されていた。

 宮殿で最後に見た、オーウェンさんの表情を思い出す。


 ――――――


 警備隊長が……。


 現場を指揮する人までが刺客だったなんて……。


 不安が胸をよぎる。


 刺客は、もう全員倒したんだろうか?

 警備隊長だけなんだろうか。


 ――政治関係者……?


 考えた瞬間、胸の奥がざわついた。


 僕は、ふと議場にいる評議会議員たちへ視線を向けた。


 その中に、先ほどまで怯えた表情を浮かべていた女性議員がいた。


 ……ワイス伯爵夫人?


 彼女は、ユリシス殿下の方を見つめている。


 ――そのとき。


 ワイス伯爵夫人の表情から、怯えが消えた。


 代わりに浮かんだのは――


 冷酷な笑み。


「……えっ?」


 彼女が動いた。


 誰も気づいていない。

 ワイス伯爵夫人の指先に、黒い魔力が集まり始めた。


 それは瞬く間に凝縮し、鋭く湾曲した巨大な鉤爪を形作る。

 細く華奢な女性の手には、あまりにも不釣り合いな、魔獣を思わせる異形の爪だった。


 彼女の身体が、ぐっと低く沈む。


 獲物に狙いを定めた蛇のように、身をかがめた姿勢から一気に地を蹴った。


 次の瞬間――。


 彼女は、目の前から消えたかと思うほどの速さでユリシス殿下との距離を詰めた。


 その動きには一切の無駄がない。


 獲物の急所だけを狙う、熟練の暗殺者そのもののようだった。


「――っ!」


 僕は無我夢中で殿下のもとへ滑り込む。


 とっさに剣を振り抜いた。


 ガキィィン!!


 金属音が議場に響き渡る。


 僕の剣が、殿下へと迫った黒い鉤爪をかろうじて受け止めた。

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