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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第22章 戦慄の暗殺者
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第159話 紛れ込んだ刺客

 僕とレイスさんは、式典会場へ向かって走った。


 その途中、前方から数人の警備兵が駆けてくるのが見えた。


 彼らは僕たちとすれ違うと、市場のある方向へと走っていく。


「……まずいな」


 レイスさんが、険しい顔で振り返った。


「市場の騒ぎに警備兵が向かってる。

 これじゃ、式典会場の警備が手薄になるぞ」


 その言葉に、僕ははっとした。


「まさか……鋏甲魔獣(デュアルシザー)は、警備兵を市場に引きつけるためのおとりなのか」


「クソッ……!」


 レイスさんが悔しそうに吐き捨てる。


 僕たちはさらに速度を上げた。


 ――――――


 会場に足を踏み入れると、式典はまだ続いていた。


 評議会庁舎前の広場には多くの参列者が集まり、すでに市場で起きた騒ぎは、会場にも伝わっているようだった。


 参列者たちは落ち着かない様子で、時折、市場のある方向へ視線を向けている。


 カルディナ評議会議員のグレイスは、周囲の様子を窺いながら呟いた。


「市場の方で何かあったようですな……」


 隣にいたワイス伯爵夫人も、不安げな表情を浮かべた。


「心配ですね。何ごともなければいいのですが……」


 そんな声が、あちこちから聞こえてきた。


 参列者の中には、ユリシス殿下とティアさんの姿があった。


 ティアさんは不安そうに、ユリシス殿下の腕を握っている。


 ――僕たちは人混みをかき分け、二人のもとへ急いだ。


「クソッ、人混みが邪魔だ!」


 レイスさんが苛立たしげに声を上げる。


「おい、君たち! 何をそんなに強引に――」


 僕たちに押しのけられた参列者の男性が、文句を言いかけた。


 だが、今は構っている余裕などない。

 僕たちはその声を無視し、ユリシス殿下のもとへと急いだ。


 そのとき――


 参列者たちが市場の方を気にしている中、一人だけまっすぐユリシス殿下へ向かっていく者がいた。


 ――警備兵だ。


 周囲の人々は、誰も気に留めていない。

 その警備兵は、ユリシス殿下のすぐ近くまで歩み寄ると、静かに声をかけた。


「ユリシス殿下……」


 呼び声に、ユリシス殿下が振り向く。


 その瞬間――。


 警備兵の手の中に、黒い闇が凝縮した。


 それは鋭い刃となり、ユリシス殿下へと向けられる。


「ユリシス、覚悟!」


「――っ!」


 刺客だと気づいたユリシス殿下は、とっさにティアさんを突き飛ばした。


 だが、闇の刃はすでに振り下ろされていた。


 間に合え――!


 僕は地面を蹴った。


 次の瞬間、ユリシス殿下の目前に割り込む。


 ――キィンッ!!


 鋭い金属音が響いた。


 咄嗟に抜いた僕の剣が、闇の刃を受け止めた。


「なっ……! 何だ、貴様!」


 警備兵の目が見開かれる。


 僕は相手の刃を押し返し、体勢を崩させた。


「くっ……!」


 しかし、警備兵もすぐに立て直し、今度は僕に向かって斬りかかってきた。


 僕はその刃を受け流し、相手の懐へ踏み込む。


 そして――


 勢いのまま剣を振り抜いた。


 刃が警備兵の身体を捉えた。 


「ぐあっ……!」


 警備兵は短い呻き声を上げ、その場に崩れ落ちた。


 ほんの一瞬の出来事だった。


 だが、次の瞬間には、会場の空気が一変していた。


「な、何だ!?」


「警備兵がやられたぞ!」


 誰かの叫びをきっかけに、広場に悲鳴が広がる。


 逃げようとした人が転倒し、その周囲で人々が足を止める。

 右往左往する者もいれば、何が起きたのか分からず、その場に立ち尽くす者もいた。


 ――――――


「ユリシス殿下、お怪我はありませんか?」


 僕は剣を構えたまま、ユリシス殿下へと声をかけた。


「ロキ……さん……ですか?

 私はかすり傷だけです」


 そう答えたユリシス殿下のシャツには、わずかに血がにじんでいた。


「ユリシス様……! お怪我は?」


 ティアさんが慌てて駆け寄り、ユリシス殿下の身を案じる。


 その一方で、周囲では参列者たちが悲鳴を上げ、我先にと逃げ出していた。


 ひとまず殿下の無事を確認し、僕は安堵の息をついた。


 すると、ユリシス殿下が驚いたように僕を見つめた。


「どうして、ここに……?」


「ユリシス殿下が狙われるかもしれないという情報を聞いたんです。

 それで、急いで戻ってきました」


 ユリシス殿下とティアさんの視線が、足元に倒れている警備兵へと向いた。


 二人の顔から、さっと血の気が引く。


 つい先ほどまで自分たちのすぐそばにいた警備兵が、今は血を流して倒れている。

 その光景に、二人は改めて襲撃の恐ろしさを実感したようだった。


「おかげで、助かりました……」


「いえ。間に合ってよかったです」


 そのとき、レイスさんが僕たちの会話に割って入った。


「話は後だ。

 まだ敵がいるかもしれねえ。

 殿下を安全な場所へ移動させた方がいい」


 その言葉に、僕は周囲へ視線を走らせた。


 逃げ惑う参列者たちの間では、警備兵たちが声を張り上げ、混乱を抑えようとしている。

 しかし、混乱は収まらない。


 そのとき――。


「何事ですか!?」


 こちらへ駆け寄ってきたのは、警備隊長だった。


 倒れている警備兵とユリシス殿下の姿を一目見ると、すぐに状況を察したようだった。


「刺客ですか……!」


「ああ。刺客は警備兵に紛れ込んでいたようだ」


「何てことでしょう……!」


 警備隊長は険しい表情を浮かべた。

 だが、すぐに顔を上げると、周囲の警備兵たちへ指示を飛ばした。


「殿下と評議員の皆さんを最優先で避難させます!

 第一班は殿下と評議員の皆さんを庁舎へ!

 第二班は避難経路を確保し、参列者を誘導せよ!

 残りは広場の警戒に当たれ!」


「了解!」


「刺客は警備兵の制服を着ている可能性がある!

 制服だけで信用するな!」


 警備隊長の迅速な指示に、警備兵たちは一斉に動き出した。


 その直後だった。


「おーい! 無事か!」


 人混みの向こうから、ライルさんとビルさんが駆けてきた。


「はさみの魔獣を片づけてきたぜ!」


 二人は会場の異様な空気に気づいたのか、すぐに表情を引き締めた。


「……何があったんですか?」


 レイスさんが倒れている警備兵を顎で示す。


「刺客だ。ユリシス殿下が狙われた。

 兄ちゃんが間一髪のところで防いでくれたが、危ないところだったぜ」


「そうだったんですか……」


「お前らも、ひとまず参列者を庁舎の中へ誘導してくれ。

 あそこは軍事侵攻に備えて造られた建物だ。

 魔獣が襲ってきても、簡単には突破されないはずだ」


「分かりました!」


 ライルさんとビルさんも、すぐに避難誘導へ加わった。


 評議会議員や商会関係者に続き、市場の騒ぎから逃れてきた商人や露店の店主たちも、我先にと庁舎へ駆け込んでいった。

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