↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第21章 残された足跡を辿って
PR
152/166

第152話 宿る命と古き知性との出会い

 ――――――


 カーネスト帝国歴1800年

 

 ロキ・グレイシアのいる時代からおよそ二千年前。


 後の世で大賢者と呼ばれることになる、魔工学士、リファーナ・ラズウェル。


 彼女は、未来から来た魔欠けの少年を送り帰してから一カ月後、アスピア皇国領の商業都市カルディナから東方に位置する、とある島を一人訪れていた。


 考古学や古代文明の研究を重ねた末に、その存在が浮かび上がった島。


 そこは、不自然な嵐や海流に覆われ、歪な山岳地形を有するなど、あらゆる点で異様な様相を呈していた。


 施設の内部に足を踏み入れたリファーナを、魔導装置の赤い照準光が次々と捉える。


 リファーナは、通路に転がっていたガイアビナスの使役する魔獣型の古代兵器を横目に、飛来する攻撃を巧みに防いだ。


 ――追跡型魔導兵装、セイバークロー。

 

 「こいつらの風穴は、この防衛装置にやられたってことね」


 リファーナは手にした長杖を掲げた。


 彼女の周囲に展開された多重の魔法障壁が、防衛装置の攻撃を次々とはじき返す。


 「どうしても内部に人を入れたくないってわけね」


 それでも、リファーナの口元には笑みが浮かんでいた。


 「でも、私、余計に気になっちゃうの」


 人を拒むかのような島の様相が、彼女の探求心をいっそう刺激していた。


 ――――――


 通路の奥から、複数の人影が現れた。


 「侵入者を確認。排除開始」


 赤く輝く眼が一斉にリファーナを捉えた。


 「どれだけいるのよ……」


 人型の魔導兵器が、次々と襲いかかる。


 リファーナは手にした長杖を振るった。


 「雷虎(ヴォルト・タイガー)!」


 雷光をまとった猛虎が駆け抜け、前方のガーディアンを屠る。


 「火焔聖鳥(フレア・フェニクス)! 岩甲巨拳(ロック・ゴーレム)!」


 意思を持つかのような炎の鳥が上空の魔導鳥を撃ち落とし、岩石の巨腕が人型の兵器を押し潰した。


 「魔力が持つかしら……」


 古代の魔導兵器は次々と彼女に襲いかかる。


 ――施設の最深部へと到達した、そのときだった。


 けたたましい警告音が鳴り響き、足元が大きく揺れる。


 地下から姿を現したのは、これまでの人型兵器とは明らかに異なる魔導兵装だった。


 重厚な装甲をまとった巨体。


 この施設の"守護者"


 その姿を認めた瞬間、リファーナの表情が引き締まった。


 直後――


 守護者の巨大な腕が、リファーナへと迫った。


 彼女は即座に防御術式を展開し、攻撃を受け流す。

 同時に放たれた炎の槍が守護者の胸部を直撃した。


 だが――


 びくともしない。


 「硬いわね。これなら……」


 リファーナの周囲に水分が集まり、空気が震え始めた。

 広間の天井近くに、幾重もの魔法陣が展開する。


 杖先で渦巻く水が、まばゆい光を帯びながら巨大な流れへと変わっていく。


 「――聖水龍《リバイア・サンクティア》!」


 放たれたのは、すべてを押し流すような水の奔流だった。


 白く輝く水流が龍の姿を成し、咆哮するように広間を駆け抜ける。

 その巨躯が守護者へと襲いかかり、圧倒的な水圧で巨体を呑み込んだ。


 金属の巨体が壁際まで押し流され、轟音とともに床が砕けた。


 ――――――


 一方、水龍はなおも勢いを失わず、天井を突き破って上昇していく。


 土砂が崩れ、岩盤が砕け散る。

 山の頂を貫き、天へと伸びる巨大な穴が穿たれた。


 ――やがて、暗い施設の奥に光が差し込んだ。


 施設の外へと抜けた水龍が、山頂を突き破ったのだ。


 白く輝く水の奔流が陽光を受け、全身に金色の鱗をまとっているかのようにきらめく。

 無数の飛沫を散らしながら、水龍は天を仰ぐように身をくねらせ、空高く昇っていった。


 島の近海では、いつものように暗雲が渦巻き、荒れ狂う嵐が島を取り囲んでいた。

 暗雲を背にした聖なる姿は、まるで闇の中に降り立った神獣のようだった。


 ――島の近海で漁をしていた者たちは、誰もが手を止めた。


 あまりに荘厳な光景に、漁師たちは言葉を失った。


 やがて一人が震える手を合わせると、周囲の者たちも次々とそれにならった。


 「……龍神様だ……」


 「龍神様が、天へお昇りになられる……!」


 人々は海の上でひざまずき、天を仰いで祈りを捧げた。


 ――――――


 ――――――


 リファーナの水龍が直撃した守護者は、全身の装甲が砕け、大きく破損した。


 だが、守護者の眼光は、いまだ衰えていなかった。


 軋む金属音を響かせながら、巨体がゆっくりと立ち上がる。


 「はぁ……っ、はぁ……っ。どれだけ頑丈なのよ……」


 リファーナの膝が震えた。


 視界が揺らぎ、とうとう彼女はその場に座り込んでしまう。

 そっと、自分の腹部に手を当てた。


 「しまった……やっぱり、身体が重い……」


 息を整えようとしても、思うように力が入らない。

 自分ひとりの身体ではない。


 無理を重ねれば、その負担はお腹の小さな命にも及んでしまう。


 「……こんなところで、倒れるわけには……」


 まだ生まれていない、小さな命。


 その命を守ろうとするように、リファーナは無意識に腹部をかばった。


 守護者の眼が、赤く明滅する。


 『侵入者の戦闘能力急速低下。排除を続行』


 機械的な判断とともに、巨体が迫ってくる。


 リファーナは立ち上がろうとした。

 だが、足に力が入らない。


 彼女は腹部を守るように身を丸めた。


 「……ローディン……」


 かすれた声で、愛する男の名を呼ぶ。


 脳裏に浮かんだのは、彼の穏やかな笑顔だった。


 この子だけは――。


 ――――――


 『異常警告《イレギュラー》』


 『侵入者の体内に重大な遺伝子情報を有する生体反応を検出』


 守護者の振り上げた腕が止まった。


 『生体情報を解析……遺伝子照合を開始』


 膨大な情報が走る。


 『照合対象……ネイ・ガイア……』


 周囲の魔導装置も一斉に停止する。


 『試作用デバイスにより、ガイアビナスに致命的な損傷を与えた希少個体。

  遺伝子情報一致』


 管理者の内部で、優先順位が再構成されていく。


 『全防衛機構の攻撃行動を停止。

  攻撃対象から、最優先保護対象に修正』


 『母体および胎児の生命維持を最優先。

  防御機構を最上位レベルで再構築。

  保護個体防衛用魔導兵装の増産を開始』


 『センチネルおよびガーディアンのリミッター解除。

  要塞攻撃用魔導兵装、高度迎撃用魔導兵装の使用許可を申請』

  

 『申請承認』


 『保護個体に対する脅威の排除行動を開始。

  保護個体へ脅威を与える全対象を殲滅せよ』


 ――――――

 

 守護者の腕が、リファーナの腹部へ届く寸前で停止した。

 巨体が硬直し、赤い目の光が消える。


 次の瞬間――


 淡い光がリファーナを包み込む。


 広間に、静寂が戻る。


 リファーナは呆然と顔を上げた。


 「……何が、起きたの?」


 『最優先保護対象を確認。生命状態を検査します』


 どこからともなく、女性の声が響いた。


 感情の揺らぎを感じさせない、不思議な声だった。


 『胎児の生命維持状態を確認しました。

  現在、保護措置を実行中です』


 リファーナは思わず自分の腹部に手を当て、それから周囲を見回した。


 「あなたは……?」


 『私は、当施設の作戦統合および管理を担う魔工演算核です』


 リファーナの目が見開かれた。

 自分が足を踏み入れたこの施設が、やはり高度な文明の産物であったことを確信した。


 『対象の生命状態は安定していません。

  移動は推奨されません』


 淡々とした声が続く。


 『当施設内に保護区画を確保します。

  出産までの期間、対象および胎児を保護します』


 リファーナはしばらく言葉を失っていた。

 やがて、そっと腹部を撫でる。


 「……この子を、守ってくれるの?」


 『はい。最優先保護対象です』


 その返答を聞いた瞬間、リファーナの肩から力が抜けた。

 彼女は小さく息を吐き、安堵するように目を閉じた。


 「ありがとう……」


 四億年前の文明が遺した、無機質な知性。


 それは、四億年前の超古代文明の叡智を蓄えるネイラと、後の世に大賢者と呼ばれるリファーナ・ラズウェルの出会いだった。


 ――――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。