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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第21章 残された足跡を辿って
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第150話 女神様?

 さっき、僕たちがこの部屋に入ったときに見かけた、あの女性の姿だ。

 半透明の身体が淡い光を放っている。


 女性は僕を見つめるように、ゆっくりと顔を向けた。


 その唇が動く。


 『……アーシュ・ヴェル……ガイアビナス……』


 『……ネイ……ガイア……』


 今度は、感情のないような音声が続いた。

 女性の周囲に、幾何学模様の光が浮かび上がる。

 

 耳慣れない言葉が、室内に響いた。


 僕の手元――剣へと、"細い光"が伸びてきた。


 「っ……!」


 思わず剣を構え直す。


 しかし、光は攻撃してくるわけではなかった。


 剣の表面をなぞるように走り、鍔元から切っ先までを丁寧に照らしていく。

 まるで、何かを読み取っているようだった。


 女性の姿が一瞬、乱れる。


 『翻訳プロトコルを起動します』


 聞き慣れない言葉が途切れた。

 

 『……基幹デバイス素材元素……オリハルコン……照合確認……』

 

 『……個体運動性能……技術系統……魔力相殺性能……照合確認……』


 『……ネイ・ガイア……照合一致……』


 女性の輪郭が、再び揺らいだ。


 音声に混じっていたノイズが消え、声の響きが少しずつ変わっていく。


 短い沈黙――


 そして、女性は初めて、はっきりとした現代語で告げた。


 『守護者(センチネル)へ――攻撃中止命令を発動』


 『防御機構(ガーディアン)――シャットダウン』


 『新個体――殲滅対象から重点支援対象へ修正』


 部屋の壁面に、いくつもの光の文字が浮かび上がった。

 その一つひとつが、僕の剣を照らす光と連動している。


 『修正完了』


 『対ガイアビナス特殊戦闘員――ネイ・ガイア』


 『新個体 登録完了』


 ――――


 ――――


 僕の前の半透明の女性は、静かに頭を下げた。


 『ようこそ、ネイ・ガイア』


 その声には、先ほどまでの機械的な響きとは異なる、穏やかさがあった。


 『長きにわたり、お待ちしておりました』


 僕は剣を握ったまま、目の前の女性を見つめた。


 ネイ・ガイア……?


 それは、僕の名前ではない。

 なのに、彼女は僕をそう呼んだ。


 その言葉を聞いた瞬間、僕の脳裏に、ある光景がよみがえった。


 二千年前のアスピア神殿。


 時の巫女ルナさんが僕に語ってくれた、古代アルテミナ神殿の神話だ。


 文明を滅ぼしたガイアビナスに立ち向かった古代戦士たち――


 その名が、ネイ・ガイアだと聞いた。


 けれど――。


 「……待ってください」


 僕は思わず声を上げた。


 「どうして僕が、そのネイ・ガイアなんですか?」


 目の前の女性は、僕の問いに答えるように顔を向けた。


 『照合結果に基づき、対象個体をネイ・ガイアとして認証しました』


 剣を握る手に、自然と力がこもる。


 「待ってください。わからないことだらけです。

  あなたは一体、何者なんですか?

  それに、ここは何の施設なんですか?

  さっきまで僕たちを襲っていたのは……」


 『回答不可。当施設の機密情報へのアクセスには、所定の権限が必要です』


 女性は淡々と答えた。 


 『マスター・リファーナの命令プログラムを実行します』


 女性の周囲に、幾何学模様の光が浮かび上がった。


 『ネイ・ガイアに対し、中枢管制室への移動を推奨します』


 「リファーナ……?」 


 その名前を聞いた瞬間、僕は息を呑んだ。


 「リファーナ・ラズウェル……さん……ですか?

  なぜ、リファーナさんが?」


 女性の動きが、ぴたりと止まった。


 『……個体名称、リファーナ・ラズウェル』


 『照合……一致』


 先ほどまでとは異なる、短い甲高い音が響いた。


 『警告。未開示の最上位機密情報を検知』


 『新個体が、マスター・リファーナの個体名を認識していることを確認』


 『既存の認証条件を再評価します』


 女性の周囲に、幾何学模様の光が幾重にも浮かび上がった。


 『認証条件を更新』


 『対象個体、ネイ・ガイアのアクセス権限を、マスター・リファーナと同等の最上位権限へ昇格します』


 『権限の更新が完了しました』


 『マスター・リファーナの機密命令プログラムへのアクセスが許可されました』


 『ネイ・ガイアに対し、中枢管制室への移動を推奨します』


 融通の利かない受け答えに、僕は困惑した。


 リファーナさんが、この島を訪れていた?


 それも、こんな荒れた海に囲まれた島に……。


 聞きたいことは山ほどあった。

 けれど、ここで問い詰めても、彼女は答えてくれそうにない。


 僕は後ろを振り返った。


 傭兵の皆も、こちらの様子を窺っている。


 「……わかりました。案内してください」


 『了解。移動経路を確保します』


 女性が手をかざすと、部屋の奥で重々しい駆動音が響いた。

 壁の一部が左右に開き、その向こうに、別の通路が姿を現す。


 「皆さん、少し話を聞いてきます」


 僕がそう告げると、ライルさんが不安そうに眉を寄せた。


 「おい、ロキさん。一体全体、何が起きてるんだ?」


 「すみません。私にも、まだ何が何だか分からないんです。

  申し訳ありませんが、皆さんはここで待っていてください」


 「おいおい! また、あの化け物どもに襲われたらどうするんだ?」


 ライルさんの懸念に、女性がすぐさま答えた。


 『防御機構(ガーディアン)は停止中。

  ネイ・ガイアの意向により、同行者を保護対象に指定しました』


 僕は動きを止めた番人たちへと目を向けた。


 「……大丈夫だと思います。攻撃は止まったようです」


 つい先ほどまで、僕たちの命を奪おうとしていた存在が、今では一体も動かずに立ち尽くしている。


 その光景を前にして、誰もが状況を呑み込めずにいた。


 「……本当に、止まってるな」


 レイスさんが呟いた。


 ライルさんが、ふと思いついたように口を開いた。


 「……なあ。あの女の人……女神様なのか?」


 「女神様?」


 ビルさんが、驚いたように聞き返す。


 「だってよ、透けてて、わけの分からねえ言葉をしゃべって、化け物どもを従わせちまってるんだぜ?」


 「……そう考えたくなるのもわかるな。

  でも、なんかロキさんのことを待っていたような雰囲気だったな」


 「……俺、子供のころ、教会のアルテミナ像の裏に隠れて弁当を食ったり、昼寝してたんだけどよ……」


 ライルさんは、気まずそうに頭をかいた。


 「今さらバチが当たったりしねえよな?」


 「お前、そんなことしてたのかよ……」


 呆れた声が返ってくる。


 レイスさんが深いため息をつく。


 「ああ……もう、わけが分かんねえ。頭がおかしくなりそうだ」


 その言葉に、ほかの二人も無言で頷いた。


 僕は女性の後を追い、開かれた通路へと足を踏み入れた。

 背後で、壁がゆっくりと閉じる音が響いた。


 ――――――

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