第149話 目覚めの鍵
轟音が、部屋全体を揺るがした。
傭兵たちと人型の魔導兵器が、激しい戦闘を繰り広げている。
炎の弾丸が人型の胴体に直撃し、赤い火花を散らす。
しかし、人型はわずかに体勢を崩しただけだった。
「くそっ、こいつら、どれだけ頑丈なんだ!」
ライルさんが悪態をつく。
レイスさんが魔導砲を構え、ビルさんが魔法障壁を張る。
一瞬のミスで命を落としかねない。
そんな戦場の只中で、僕は目の前の敵と向き合っていた。
――――
僕の目の前には、巨大な人型の番人。
その巨体から放たれる猛攻はすさまじく、踏み込む隙がない。
僕は番人の攻撃をかわしながら、腰の剣を握り直した。
しかし――
不思議な感覚があった。
こいつは、僕が今まで戦ってきた古代兵器によく似ている。
動きも、攻撃の仕組みも、明らかに共通するものがある。
だけど――剣が反応しない。
これまで古代兵器と戦うとき、剣に奇妙な感覚があった。
まるで、刃そのものが何かを求めているかのように。
飢えにも似た感覚が脈動し、敵を前にすると、斬るのを待ち望んでいるかのような気配を感じさせた。
けれど――
目の前の番人に対しては、それがまったくない。
同じ古代文明の技術によって生み出されたものではないのか?
――――
考えを巡らせる間にも、番人は攻撃を仕掛けてくる。
今は、戦いに集中しないと。
そのとき――
「ぐあっ!」
背後から、ライルさんの悲鳴が響いた。
振り返ると、ライルさんが人型の魔導兵器の攻撃を受け、床に膝をついていた。
すぐさま立ち上がろうとするものの、足がもつれている。
そこへ、追撃の魔導砲が向けられた。
まずい!
僕は番人から視線を切り、地面を蹴った。
「ライルさん!」
人型の魔導砲が放たれる寸前、僕はライルさんの前に滑り込んだ。
「間に合わない!」
魔力の奔流迫る。
――爆音が響いた。
魔力の奔流が僕の全身を包み込み、白い閃光が視界を埋め尽くす。
「ロキさん!」
皆の声が聞こえた。
だが――
僕の体には、致命傷となるほどの衝撃は伝わってこなかった。
光が収まる。
黒い外套の表面に、青白い魔力の残滓が走っている。
やがて、それは弾けるように霧散した。
「ロキさん、すまねぇ……! 俺をかばって……!」
ライルさんは、申し訳なさそうに顔を歪めた。
「私は大丈夫です。それより、ライルさんの怪我は?」
「あ、ああ……。なんとか動ける」
そのとき、レイスさんの驚いた声が響いた。
「兄ちゃんの外套が人型の魔導砲を弾いたぞ!」
ライルさんとビルさんも、僕の外套に目を向けた。
魔導砲の直撃を受けたというのに、外套には僅かな焦げ跡だけ。
致命傷を避けられたのは、この外套のおかげだった。
僕は自分の肩に視線を落とした。
鍛冶工房のラグ親方が僕のために仕立ててくれた外套。
生地に織り込まれたミスリル合金が、まだ淡く光っている。
旅立ちの日――
エルミナ共和国でお世話になった職人の皆さん。
鍛冶師のラグ親方、魔道具職人のリワードさん、そして魔法薬師のカーミラさん。
皆さんは、それぞれの技術を込めた餞別を僕に贈ってくれた。
あの人たちの支えがあるからこそ、これまで辛うじて乗り越えられている。
――――――
僕は外套の裾を翻し、再び番人へと向き直った。
まだ、戦いは終わっていない。
僕は剣の柄を握り締めた。
「……行くぞ」
番人が、青白い光をその巨体に走らせる。
次の攻撃が来る。
僕は呼吸を整え、迫り来る脅威を正面から見据えた。
番人が、両腕を大きく広げた。
次の瞬間――
周囲の空気が激しく渦巻く。
青白い光がその巨体を走り、無数の風の刃が生み出されていく。
風の刃は一つ、二つではない。
幾重にも重なり合った刃が、嵐となって僕に襲いかかってきた。
逃げ場を塞ぐように迫る、無数の斬撃。
まともに受ければ、無事では済まない。
僕は剣を握り締め、静かに息を吐いた。
迫り来る風の刃を見据え、意識を研ぎ澄ませる。
剣の切っ先が、わずかに揺れた。
刃が光る。
「風切斬!」
振り抜いた剣が、風の嵐を切り裂く。
斬撃は無数の風の刃を断ち切り、そのまま番人の首へと走った。
轟!
重厚な金属音が響く。
番人の首が、胴体から切り離された。
断面から青白い火花が散り、内部を流れていた魔力が激しく明滅する。
首を失った巨体は、しばらくの間、立ち尽くしていた。
やがて、全身を覆っていた光が消え始める。
番人は力を失ったように膝をつき、轟音とともに床へと崩れ落ちた。
巨体が、ぴたりと動きを止める。
それまで絶え間なく放たれていた攻撃が、嘘のように途絶えた。
――倒したのか?
警告音と赤い明滅が止まった。
同時に、周囲で戦っていた人型の魔導兵器も動きを止めた。
「……止まった? どうなってんだ?」
ライルさんの声が聞こえた。
レイスさんも魔導砲を構えたまま、呆然と立ち尽くしている。
何が起きたのか、誰にもわからなかった。
そのとき――
部屋の奥にある円形の台座が、淡い光を放ち始めた。
今度は、壁や天井に埋め込まれた装置が次々と起動し、青白い光が室内を駆け巡る。
そして――
台座の上に、半透明の女性が姿を現した。
――――――




