第148話 立ち塞がる番人
部屋の奥へと進むと、そこはこれまでの通路や広間とは明らかに異なる空間だった。
レイスさんが警戒しながら周囲を見回す。
「ここで行き止まりだ」
壁や天井には見慣れない装置が並んでいた。
部屋の中央には円形の台座があり、その周囲を青白い光が淡く照らしている。
ライルさんが台座を見つめ、首を傾げた。
「この台座は……儀式用か?」
たしかに、何かを祭るための場所にも見える。
だが、壁や天井に並ぶ装置を見れば、単なる祭壇とは思えなかった。
そのとき――
台座に青白い光が集まり始めた。
光はゆっくりと形を変え、やがて一人の女性の姿を作り上げる。
半透明の身体。
向こう側が透けて見えるほど淡い輪郭。
まるで、そこにいるはずのない人間が浮かび上がったかのようだった。
「ゆ、幽霊だ!」
ライルさんが思わず声を上げる。
女性は僕たちを見回すように顔を動かした。
その姿を見て、僕は思わず息を呑んだ。
これは、いったい……?
次の瞬間――
――ビーッ、ビーッ、ビーッ!
突如、部屋全体に甲高い警告音が鳴り響いた。
壁に埋め込まれた光が一斉に赤く明滅する。
青白く輝いていた室内が、瞬く間に不気味な赤色へと染まっていった。
「おいおい、なんなんだよ……!」
レイスさんが声を上げる。
直後、背後から金属の足音が響いてきた。
振り返ると、通路から人型の番人たちが次々と姿を現していた。
無機質な身体を揺らしながら、僕たちへと迫ってくる。
「くそっ、来やがった!」
レイスさんが魔導砲を構え直す。
ここで迎え撃つしかない。
僕はロドルさんを壁際へと移動させると、剣の柄に手をかけた。
そのとき――
足元から激しい振動が伝わってきた。
「今度は、なんだ……!?」
ライルさんが周囲を見回す。
部屋の中央。
その床が、地の底から響くような重低音とともにゆっくりと開いていった。
隙間から風が吹き上がり、僕たちの衣服を激しくはためかせる。
続いて、巨大な昇降台がせり上がってきた。
ゴゴゴゴゴゴ……!
金属同士が擦れ合う轟音が室内を震わせる。
壁の赤い光は激しく点滅し、警告音は鳴りやまない。
そして――
昇降台の上に、巨大な人型の影が姿を現した。
「……嘘だろ」
誰かが呟いた。
それは、先ほどまで戦っていた人型兵器とは、明らかに違う存在だった。
人間を模した無骨な金属の巨体。
分厚い装甲に覆われた胴体と四肢は、僕たちを見下ろすほどに大きい。
太い腕は丸太のようで、あれに殴られただけでも、身体ごと吹き飛ばされそうだった。
装甲の奥で青白い光が不気味に輝いている。
昇降台が床と同じ高さに達した。
――――――
ズゥゥゥン……!
重い衝撃音が響き、足元が揺れた。
巨大な人型――番人のような魔導兵器が、ゆっくりと顔をこちらへ向ける。
その動きには、迷いも躊躇もなかった。
まるで、そこにいる僕たちを一人残らず排除することだけが、存在する理由であるかのように。
僕は無意識に剣の柄を握り直していた。
やばい――
理屈ではなく、本能がそう告げていた。
こいつは、今までの人型とは違う。
ライルさんもビルさんも、言葉を失っていた。
レイスさんは魔導砲を構えたまま、巨大な番人を見上げている。
その額には、冷や汗が浮かんでいる。
やがて、巨大な番人の腕がゆっくりと持ち上がった。
その先端に、青白い光が集まり始める。
「来るぞ!」
直後――
ドガァァァン!
耳をつんざくような轟音とともに、巨大な水球が放たれた。
それは、大木すらなぎ倒さんとするほどの凄まじい勢いで、僕たちへと迫ってきた。
「伏せろッ!」
僕の叫びと同時に、水球が床を抉りながら突き進む。
激突した壁が砕け、破片が飛び散った。
水球が通り過ぎたあとには、深々と削られた床だけが残っていた。
あんなものをまともに受ければ、体がバラバラになってしまう。
番人の腕が、再び動く。
今度は、空気そのものが悲鳴を上げた。
風の刃が放たれ、僕たちの足元を一直線に切り裂いていく。
レイスさんが魔導砲を構え直した。
「これでもくらいやがれ、化け物!」
魔導砲の砲口に光が集まり、次の瞬間、轟音とともに魔力弾が放たれた。
ドガァァァン!
直撃。
爆炎と煙が番人の巨体を包み込む。
「どうだ!」
レイスさんが叫ぶ。
しかし――
煙が晴れると、そこには先ほどと変わらぬ姿の番人が立っていた。
装甲には傷ひとつない。
巨体は微動だにしていなかった。
「……おい、嘘だろ」
レイスさんの声が震える。
「あれを食らって、びくともしねえなんて……!」
誰もが言葉を失った。
巨大な魔獣を吹き飛ばすほどの威力を持つ、最新兵器の魔導砲。
それが、まるで通じない。
絶望が、皆の顔に浮かんでいた。
番人が再び腕を持ち上げる。
青白い光が、その先端へと集まっていく。
「まずい、また来るぞ!」
次の瞬間――
猛烈な勢いの水球が放たれた。
圧倒的な勢いで迫る水の砲撃。
――僕は一歩前へ出た。
剣の柄を握り、迫り来る水球を見据える。
神鋼の刃に、青白い光が走る。
「――蒼流斬!」
剣が振り抜かれた瞬間、刃が水球を断ち切った。
轟!
そして、左右に分かれた水流が僕の脇を通り過ぎ、背後の壁へと激突する。
水しぶきが飛び散り、床が激しく濡れた。
凄まじい轟音が響き渡る。
やがて、水音が途絶えた。
――静寂が訪れる。
「……何をした?」
誰かが呆然と呟いた。
レイスさんが目を見開く。
「い、今……バケモンの攻撃を斬ったのか!?」
ライルさんもビルさんも、驚きのあまり言葉を失っていた。
皆の視線が、一斉に僕へと集まる。
「に、兄ちゃん……お前、何をしたんだ?」
レイスさんの問いに、僕は答えなかった。
今は、説明している場合じゃない。
番人が再び腕を動かそうとしている。
その動きを見ながら、僕は仲間たちへと視線を向けた。
「皆さんは、周囲の人型をお願いします。
こいつは、私が相手をします」
ライルさんたちが息を呑む。
「一人でやるつもりか!?」
「ええ。皆さんは、周囲の番人を抑えてください」
そう言って、僕は巨大な番人へと向き直った。
レイスさんは一瞬ためらったものの、やがて魔導砲を構え直した。
「……わかった。頼むぞ、兄ちゃん!」
その声を背に、僕は剣を構えた。
巨大な番人が、再び青白い光を放ち始める。
――――――




